映画『時給三〇〇円の死神』
今月は観たい映画が目白押しで、とてもじゃないけれど全部観るのは不可能っぽいので、そうなると監督に対する好き度合いが強い順に観ようと思って、酒井麻衣監督の今作を選んだ。
客席はなにわ男子のファンと思われる女性客でいっぱいだった。
父親(山口馬木也)が不祥事を起こして逮捕され、それをきっかけに両親が離婚して母親とは音信不通になり、小さな町では噂がすぐに広がってアルバイトにも雇ってもらえない不遇を託っていた佐倉(西畑大吾)が、大学の同級生・花森(福本莉子)の誘いで、“時給三〇〇円の死神”のアルバイトを始める話。
冒頭は佐倉が花森に声をかけられるシーン。
雨の横断歩道。真上からの構図。歩行者は全員黒っぽい服を着て、黒い傘を差して横断歩道を渡っている。そこに白い服を着て白い傘を差した花森が現れる。── 佐倉の心境を背景に託した画作りである。
花森の「佐倉くーん」という呼びかけに、一瞬画面がフリーズし、雨粒の一つひとつが宙に浮かんで見える美しいシーンである。
アルバイトの内容は、未練を残したまま死んだ人たちの“ロスタイム”に寄り添って、彼らの未練を取り除き、彼らを送り出してやる、というもの。時給はわずか 300円。
佐倉にとっての最初の顧客は、父親の事件をきっかけに別れてしまった元カノの朝月(渋谷凪咲)。彼は彼女がすでに死んでいることさえ知らないまま、彼女に接してしまう。そして、彼との最後の思い出を抱いて彼女は旅立つ。
死者が旅立ってしまうと、ロスタイム中の出来事はなかったことになり、みんなの記憶からも消えてしまう。
佐倉は辛くなって、このバイトを辞めると言うが、花森に「死神を辞めるとロスタイム中の彼女との記憶も消えてしまうよ」と言われて、思い直す。
それから、彼らは2人でさまざまな、それぞれが結構重い事情を抱えた死者たちと関わって行く。
パンフレットでは「衝撃の事実」として伏せられていた秘密は、残念ながら僕にはかなり早い段階で、花森がロスタイム中の死者の特技を説明したシーンで、完全に読み切れてしまった。
ただ、ひょっとすると監督はその事実を必死で隠し通す気はなかったのかもしれない。もしそうなら、オープニングの雨のシーンをあんな風には作らなかったはずだ。
問題はそこではなく、それが分かってから佐倉はどうするのか? 映画としてどうまとめて終わるのか? ということではないかと思う。
途中からずっとそういう視点で観ていたのだが、そういう意味からすると、ちょっとうまくまとめきれずに終わってしまった気がする。
これは原作の小説に疵があったか、あるいはもっともっと長い話の原作を2時間の映画に押し込もうとして、上手に切り落とせなかったのかのいずれかだと思う。ちなみに脚本は『366日』の福田果歩である。
僕は伏線の回収みたいなことには全く、これっぽっちも興味はないし、重要視もしていないのだが、この脚本は、説明をせずに観客の想像に委ねてしまったところが少し多すぎたような気がする。
もちろん全てを説明し、回収する必要はどこにもないのだが、例えば何故 300円なのか?みたいなところ。300円のバイト代ではとても暮らして行けない。何故そんな異常な設定になっているのかが気になった僕を取り残したまま、映画は終わってしまった。
あるいは例えば、死神の任期はきっかり半年のはずなのに、どうして花森はそんなに長く死神を務めていられるのか? 僕はパンフを読んで初めて、死神の雇用形態には2種類あるのだということを知った。そういうところである。
ラストに向けて一気に怒涛の盛り上がりを構成するという意味でも、ストーリーの流れとして、ちょっとまとめきれていない感じを僕は持ってしまった。
ただ、酒井監督の映画はやはり良い画に溢れている。2人で落書きを消した後、公園でペンキをかけあって戯れるところなどは、『美しい彼』を思い出させてくれた。
そして、ラストシーンはやはり雨の横断歩道。同じく俯瞰。今度は歩行者が全員白っぽい服を着て、全員が白か透明の傘を差している。そして、花森が以前言っていた台詞を受けて、雨が突然雪に変わる。白、白、白のシーンである。その中を佐倉が、人混みをかき分けて走る。
── こういう作りは非常に巧い。
主演の2人に加えて、佐津川愛美や泉谷星奈、小澤征悦ら演技力に定評のある共演者の貢献度も大きかった。
福本莉子は東宝シンデレラのグランプリ受賞者で、主演作品も数を重ねてきてはいる割には、今イチぱっとしない感じがあるのだが、キャストの一番目として前に前に出る役よりも、今回のように半歩引いたような立ち位置が彼女の魅力を最大限に引き出すように思う。
彼女も来月で 26 歳になる。デビュー当時と比べて演技力は格段の進歩を遂げている。僕は特に彼女のファンというわけではないが、なんか彼女らしい場所が映画の中に見つかれば良いなと思う。
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