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Sunday, September 06, 2026

映画『白鳥とコウモリ』

【9月6日 記】 映画『白鳥とコウモリ』を観てきた。

今年の7月に亡くなった作家・東野圭吾の名作が原作だということを売りにしている映画だが、東野圭吾は僕が2~3冊読んで絶望し、読まなくなってしまった作家だ。

ただ、それでも、東野作品のドラマ化/映画化に関しては、素晴らしい作品がたくさんある。そこは僕も大いに認めるところで、今回はそれを信じて観に行ったのであるが、とは言え、引っかかることはもうひとつあって、監督が岸善幸だということだ。

僕は彼の映画デビュー作『二重生活』を観て、「ああ、これは自分とは相性の悪い監督だ」と思った。海外でたくさんの映画賞を受賞した作品だったが、僕はなんか「知が勝ちすぎている」気がして、乗り切れなかった。

それ以後、彼の作品はずっとパスしてきて、昨年久しぶりに『サンセット・サンライズ』を観たのだが、しかし、これも「あまりに図式的な感じ」がして、ダメだった。

それでも今回この映画を観に行ったのは、単純に予告編を観て面白そうだと思ったからだ。脚本が向井康介であることも明らかに期待値を上げてくれる。

倉木和真(松村北斗)は、自分の父・達郎(三浦友和)が殺人犯として逮捕され、犯行を自供したと聞いて、「それ、本当に父ですか」と言う。予告編でこのシーンを見て松村北斗の巧さに驚いた。

ここでは父が殺人犯であるというショックや驚きよりも、逮捕や自供に関するシンプルな疑念のほうが少し上回っているのである。上回っていると言うよりも、単純に信じられないという印象がショックや驚きよりも先に出てきた感じである。

その感じが非常によく出ている。表情にしても口調にしても、こういうたたずまいは彼にしか出せない独特のものだと思う。

たとえば、同じ役の同じ人物を(性別を入れ替えて)今田美桜がやったら、(監督が同じ演出をしたとしても)もうちょっと激しい表情、激しい口調になっただろう。

一方、殺された弁護士・白石健介(中村芝翫)の娘・美令(今田美桜)も、この逮捕と自供に違和感を覚える。

この2人が出会って、事件の真相を追うというストーリーである。

で、結論から言うと、今回の岸作品には拒否感はなかった。

いや、元々岸監督が下手だなどと思ったことは一度もなく、ただこれまでの作品では僕と肌感覚が合わなかっただけである。

和真と美令が初めて出会うシーンでは、美令が土手の上の道から、和真が下で手を合わせているところを発見しながらも、そのまま階段では無言ですれ違い、しかし、自分が手を合わせていたのと同じ場所に花を手向けるのに気づいた和真が立ち止まり、引き返して声をかけるのかと思ったら、結局そのまま行ってしまい、この場面は単なるすれ違いに終わる。

遠ざかって少しずつ小さくなる和真の姿と美令をずっと一つの画面に収めているところに、最初は緊張感が、続いて淋しさがある。こういうところはとても上手い画面構成だと思った。

そして、観念して自供する直前の達郎の手のアップ。常滑からの帰りの電車の中での和真と美令の手の動きのアップ。最後に和真に「もう一度手を繋いでもらえませんか」と言わせる辺り、非常にクサい台詞だけれど、なんか「和真だったら言うかもしれん」と思わせる良い台詞である。

「よう、まあ、頑張ってこんなストーリー考えましたなあ」というストーリーではあるが、全体的に切ないけれど良い話に落ち着いた。この切なさや割り切れなさが混じっているところが良い。

ただ、その一方で少しきれいすぎる面があったのも確か。そんなに甘くはないだろう。もしこんなことが実際にあったら、今の日本の警察だったら間違いなく新事実をもみ消して、倉木達郎を文字通り見殺しにするだろうと僕は確信している。

あと、最後の最後で真犯人を単なる異常者っぽく描き直してしまったのはどうだろう? あれが原作通りなのか、向井のアレンジなのかは知らないが、美令の弁護士(松岡依都美)が最後に持ってきた情報は、余計なんじゃなかったかなと僕は思う。

とは言え、主演の2人に加えて、三浦友和や風吹ジュンという演技力に定評のあるベテランをはじめとして、柄本佑、吉田羊、井川遥、前原滉、宇野祥平、松尾諭ら脇を固めた役者たちも、みんながみんな素晴らしい演技だった。

とりわけ、自分だけ蚊帳の外だった美令の母が真相を知ってうろたえまくる演技は秀逸だった。そして、今田美桜の涙が何粒も頬を伝ってポトッ、ポトッと衣服に落ち、その粒が衣服に染み込むのではなく、衣服の上をまたスーッと走るという、こういう涙の描き方も珍しく、印象深かった。

145分というのはやや長過ぎる嫌いもあったが、気を逸らせることなく、観客が最後まで引き込まれる映画になっていたと思う。

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