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Tuesday, September 29, 2026

Battleship Island

【9月29日 記】 長崎に旅行に行ってきた。端島(通称:軍艦島)に上陸した。

かつて炭鉱の島として栄え、最盛期には 5,000人以上が暮らしていたが、主要なエネルギーが石炭から石油に切り替わったこともあって炭鉱は閉じられ、今は無人島になっている。

僕はその島の存在を、2024年の10月期に TBS が日曜劇場枠で放送した『海に眠るダイヤモンド』の舞台になるまで全く知らなかった。そして、ドラマの出来が素晴らしかったこともあって、一度行ってみたいと思っていたのだ。

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Friday, September 25, 2026

映画『我々は宇宙人』

【9月25日 記】 映画『我々は宇宙人』を観てきた。

予告編に魅せられて、何の予備知識もなく見に行ったのだが、いやぁ、すごい作品だった。

門脇康平という 29歳の映画監督/アニメーション作家が、企画から5年の年月をかけて完成したオリジナル・アニメ。

門脇は東京藝術大学を卒業後、アニメ会社に就職し、その後独立し、YOASOBI の MV などを手がけて来たらしい。

オリジナル・アニメに求められるものは作画能力だけではなく、ストーリーの構成力も必須で、そのいずれが欠けても我々を驚かすような作品にはならないが、この作品は、そのいずれについても、凡百の作品を遥かに凌駕したものがある。

まず画のほうについて言うと、背景は徹底して写実的なのに対して、人物はデフォルメされた手書きの線画である。

線画アニメと言うと、人物の輪郭が一本の曲線でスーッと描かれているものを思い浮かべるが、この作品ではまるでデッサンのようなタッチで、輪郭は何と言うか、“毛羽立っている”感じだ。

構図がまた秀逸で、多用される俯瞰映像、そして胸元から煽るような顔のアップ、そこからもっと寄った、睫毛もくっきりの目のアップ。とりわけ目の動き。目による芝居が大げさなくらいフィーチャーされており、強烈に印象深い。

全般に高さを意識した構図(上からと下からの両方)が特徴的で、そこに動きを取り込んだ画作りも巧く、冒頭の高速道路の降り口のシーンなどで描かれた、黒目に映る風景描写なども鮮烈だった。

色遣いも秀逸で、トイレでトイレットペーパーに血が滴り落ちて、巻き取っても巻き取ってもまだ下の紙に血が滲んでいるというシーンは強烈だった。走る車窓から捉えた赤い月など、カメラが動くカットもとてもきれいだった。

光と影のあしらい方は極めて多彩で、美しい。その一方で、人間は必ずしも美男美女には描かれていない。

子どもがよくやる無駄な動き(おどけてまともに走らなかったり、無意味に飛び跳ねたり)の捉え方が本当に巧みで、「ああ、そうそう、子どもって、そうなんだよな」と思わせる。

パンフレットによると、これはロトスコープ(カメラでまず人間の動きを撮影して、それをアニメにトレースする方法)から「要素だけ」「すくい取り」、あとはアニメーターが描き足したらしい。

ストーリーは、後藤翼(CV:慎木悠人、坂東龍汰)とそのクラスメートだった星暁太郎(CV:中込佑玖、岡山天音)の、小学校3年生から 20代前半ぐらいまでの話。

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Tuesday, September 22, 2026

映画『さとこはいつも』

【9月22日 記】  映画『さとこはいつも』を観てきた。沖田修一監督のオリジナル脚本。

ぎっしり満員で、最前列の席しか取れなかった。

3人の「さとこ」が出てくる。15歳の中井聡子(姫野花春)、35歳の西田沙都子(有村架純)、55歳の飯島里子(石田ひかり)。

3人いっぺんには出てこない。まずは聡子。

アレルギー性鼻炎が持病の聡子が耳鼻咽喉科でネブライザーの治療。両方の鼻の穴にチューブを突っ込んで口から蒸気を吐いているという、女子中生からしたら見られたくないシーンで映画はスタートする。そこに同級生の早瀬(小川冬晴)が副鼻腔炎の治療にやってきて、隣に座って同じくネブライザーをやる。

恥ずかしいところを見られてしまったことで、逆に聡子は屈託がなくなり、意外に話が弾む。そして、一気に恋に堕ちる。

この聡子役の姫野花春が素晴らしかった。

演技経験がほとんどなかったらしいが、そんな彼女が画面に登場するファースト・シーンでいきなり2ショットの結構な長回しである。しかし、この子は長回しに耐える役者だ。表情が良い。そして、表情の微妙な移ろいを表現することができる。しかも、その変化は微妙であるにも関わらず、妙にメリハリがある。

カメラは芦澤明子だ。全般的に長回しが多い構成になっている。

彼女の学校には寺尾という変な国語教師(吉田羊)がいる(この寺尾の台詞の一つひとつが秀逸で、かつ、吉田羊の演技が圧巻で、結構笑けるが、しかし、深い)。

課外活動で歌舞伎を見に行って感想を書くという課題のときに、聡子はほぼずっと寝ていて何も見ていなかったのでテキトーに書いて出したら、寺尾に「歌舞伎を観ないで書いた子の中で、ダントツだわ」と変な褒められ方をして、作文の練習を勧められ、ノートを渡され、課題を与えられる。

それが聡子が書くことの楽しさを覚えた最初だった。

聡子が作文を命じられて家でせっせと書いては消し、消しては書きするシーンがあるのだが、映画によってはこういう場合、ノートを渡されたシーンから、聡子が書き上げたノートを寺尾先生に提出するシーンに直結したりもするところだが、この映画はそんなことはしない。

こういうところをじっくりと描くところに意味があるのである。

聡子が握るシャーペンの上半分をカメラが舐めながら、奥に聡子の顔の大きなアップを捉える。ひとりで自分にツッコミを入れてみたりしながら、真剣な顔をしたりニヤッと笑ったりする聡子のアップがどかんと映る。

舞台は変わって、2人目の沙都子。

小さな映画配給会社の宣伝担当。韓国映画に深い造詣と思い入れがあり、映画の宣伝についても彼女なりの哲学があって、仕事態度は結構厳しい。

家族持ちの村本(オダギリジョー)と不倫6年目だったが、とうとう終焉を迎え、しかもとんでもない修羅場になる。そして、村本との破局のあと、彼女はストーリーを書き始める。

村本との会話の中で、聡子のシーンで出てきたエピソードととてもよく似た話がでてきて、ひょっとして沙都子は聡子の 20年後なのか?と思ったりもするのだが、語られたエピソードは微妙に違うし、第一さとこの漢字が違う。

偶然というにはあまりにわざとらしいこの辺の組み立ては、しかし、沖田監督ならではのいたずら心でもあり、その一方で寓意を含んでいるようにも思えてしまう。

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Monday, September 21, 2026

台風対策

【9月21日 記】 台風接近のニュースで、どこかの離島に住んでいる人が家の壁や窓枠に木の板を打ちつけているのを見て、「ああ、まだそういうことをやっている人がいるのか」と思った。

と言うか、「ああ、ウチでもそんなことをやっていたなあ」と遥かに思い出したのである。

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Saturday, September 19, 2026

秋冬物

【9月19日 記】  リアル店舗/ネットショップの別を問わず、ファッション/衣料品関係のお店の品揃えはすでにほぼ完全に秋冬物に入れ替わっている。昨日今日に始まったことではないので驚くようなことではないのだが、そういう事態に僕は毎年あまり馴染めない。

「このクソ暑いのに冬服のことなんか考えられるか!」あるいは「このクソ寒いのに夏服なんか見たくもない!」なんてこともあるにはあるのだが、最大の問題はそこではない。

衣替え前に提案されても、去年のことはすっかり忘れているので、次のシーズンの自分のワードローブをしっかり把握できておらず、何を買えば良いのかというイメージもまだ湧かないのである。

衣服を入れ替えてみて初めて、「あ、そうか、あれは裾が切れちゃったから去年捨てちゃったのか」とか、「そうそう、この上着に合うパンツがほしかったんだ」とかいう実感を取り戻すのである。

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Wednesday, September 16, 2026

映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』

【9月16日 記】  映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』を観てきた。Img_3395

監督の近藤亮太という人のことは全く知らなかった。ホラー出身、と言うか、ホラー以外の映画を撮るのは今回が初めてらしい。

今回の目当ては重岡大毅である。

NTV『知らなくていいコト』(2020年)での吉高由里子の相手役のダメ男の演技を見て驚き、僕はアイドルに疎いもんで彼のことを知らなくて、慌てて調べたらジャニーズWEST(当時)のメンバーだった。

その後も TBS 『#家族募集します』(2021 年)や NTV『それってパクリじゃないですか?』(2023年)も観ていて、これは良い役者だという思いを強めた。

2024年の主演映画『ある閉ざされた雪の山荘で』においても、彼の演技は光っていた。

いつも思うのだが、旧ジャニーズ系の人たちって、不思議に演技の筋が良い。歌やダンスの練習はともかく、芝居の稽古についてはそんなに時間をかけているとは思えないのだが。

で、これは『信長協奏曲』や『マスカレード・ホテル』、『#マンホール』などの脚本を担当した岡田道尚が、今回は「原案・脚本・プロデュース」というものものしい肩書で手がけた作品である。

タイトルから分かるように、これは生成AI が絡んだ設定の映画だ。

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Monday, September 14, 2026

『推したちとどう生きるか』三宅香帆(書評)

【9月14日 記】 同じ著者の本を連続して読むというのは僕にはあまりないことなのだが、同じ時期に出版されたから仕方がない。すぐに両方いっぺんに買わなければ良いだけのことなのだが、すぐに買いたい著者なのである。

コンテンツにおける「父の不在」からコンテンツにおける「夫婦関係の描写の欠如」に着目し、そこから現代社会のありようを描いてみせた『「夫婦」不在社会』と比べると、この本は単なる分析から脱して、とても思想性に富んだものを感じさせる。

ここで書かれているのは、彼女がこれまでにも書いてきた「半身」とか「複層化」とかいうことにも通じるものであるが、おそらく彼女がネット上でいくつかの炎上(と言うか、はっきり言えば「心ない多数の人間に浴びせられた罵詈雑言」)を身を以て体験したこともあってのことだろうと思うが、この歪み始めた「推し」文化をどうやって正常化すべきかという視点が明確で、それが読み進むにつれてどんどん強くなってくるのをひしひしと感じた。

今回、著者は「推し」を分析するに当たって、江戸時代から始めている。こういう歴史的アプローチは、彼女のデビュー当時には多分あまり色濃くなかった手法で、僕はその辺りに(僭越ながら)彼女の成長を感じて嬉しくなったりもする。

そして、日本における「推し」の開始を近代日本の誕生期に絞り、歌手、野球、歌劇という3つの分野から説き起こしている。そこからの例示と解題は非常に深く、そして連綿と繋がっている。

歴史から始めて現代の描写に至ると、途中からそれは歴史ではなくなり、実体験となる。そして、僕のような、著者よりはるかに年長の読者にとっては、実は彼女よりもかなり早く、歴史的事実を自分の体験として読めるのである。

若い人が書物やネットから仕入れた歴史的事実と、年寄りが身を以て体験したものとでは、得てして食い違いが生じ、年寄りが違和感を覚えたりするものだが、この本においてはそういうところが全くなく、まさに真髄を押さえているなと感じて、ここにも共感と好感を覚えてしまった。

さて、彼女の分析をここで僕が要約しても良いのだが、終章まで読み進めばその必要はない。

この終章で彼女はまず「本書の概要をまとめて」いるのである。著者が最後にここまで丁寧な書き方をしている本はめったにない。

そこには、自分の思いをできるだけ正確に伝えたいという渇望を感じる。「どうやって正常化すべきかという視点が明確で、それが読み進むにつれてどんどん強くなってくるのをひしひしと感じた」と書いたが、それがここに来て最高潮に達するのである。

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Friday, September 11, 2026

映画『ルックバック』

【9月11日 記】  映画『ルックバック』を観てきた。Photo_20260911193701

僕は原作の漫画は読んでいないが、映画化されたアニメは観ていて、とても良いアニメだと思った。

それを是枝裕和監督が映画化すると聞いてびっくりしたのだが、予告編を観ていると、タイトルロゴも同じだし、アニメと同じ構図のカットもいっぱい出てきて、さらに驚いた。

是枝監督もこの漫画の大ファンで、そのことを話したら「一度お会いになります?」と仲を取り持ってくれる人がいて、実際に原作者の藤本タツキに会いに行ったそうである。

是枝監督としては単に「素晴らしい作品をありがとうございました」と感謝の意を伝えに行ったつもりだったのだが、先方にしてみれば、是枝監督が来るからには実写映画化の申し入れだろうと思っていたらしく、「え? それだけ?」みたいな妙な空気になってしまい、一旦はその場を辞したが、帰りのタクシーの中で映画化を決意したのだそうだ(実はその仲立ちした人がこの映画のプロデューサーであり、彼は最初から是枝監督での映画化を考えていたようだ)。

出口夏希と蒔田彩珠の共演となると、思い出すのは同じ是枝裕和が総合演出を務めた Netflix の『舞妓さんちのまかないさん』である。

このドラマでは出口は準主演で、舞妓になりたくて青森の中学を卒業して京都に出てきたばかりの少女・すみれ役、蒔田はそのすみれを預かる屋形の女将の娘・涼子の役だった。

蒔田はすでに是枝作品の常連になっており、また、蒔田のほうが花街においては先輩格の役だったこともあって、僕は蒔田のほうが年上だろうと思っていたのだが、実は出口のほうが1歳年上だった。

かなり若い時から見ているが、この2人もすでに20代半ばになった。その2人が、小学生時代を演じた子役の後を受けて、中学生以降を演じている。

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Wednesday, September 09, 2026

TBS『VIVANT』

【9月9日 記】 TBS の『VIVANT』を第1シーズンに続いて今期も観ている。面白いから。

でも、観ていて、「面白けりゃ良いってもんじゃないぞ!」って思う。

他の面白いドラマを観ていても、そんなことは全く思わない。そう、面白けりゃ良いのである。

しかし、このドラマだけは、なんか「面白けりゃ良いってもんじゃないだろう!」と思ってしまう。

そこがこのドラマの面白いところだ(いや、この「面白い」は別の意味での「面白い」である)。

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Sunday, September 06, 2026

映画『白鳥とコウモリ』

【9月6日 記】 映画『白鳥とコウモリ』を観てきた。

今年の7月に亡くなった作家・東野圭吾の名作が原作だということを売りにしている映画だが、東野圭吾は僕が2~3冊読んで絶望し、読まなくなってしまった作家だ。

ただ、それでも、東野作品のドラマ化/映画化に関しては、素晴らしい作品がたくさんある。そこは僕も大いに認めるところで、今回はそれを信じて観に行ったのであるが、とは言え、引っかかることはもうひとつあって、監督が岸善幸だということだ。

僕は彼の映画デビュー作『二重生活』を観て、「ああ、これは自分とは相性の悪い監督だ」と思った。海外でたくさんの映画賞を受賞した作品だったが、僕はなんか「知が勝ちすぎている」気がして、乗り切れなかった。

それ以後、彼の作品はずっとパスしてきて、昨年久しぶりに『サンセット・サンライズ』を観たのだが、しかし、これも「あまりに図式的な感じ」がして、ダメだった。

それでも今回この映画を観に行ったのは、単純に予告編を観て面白そうだと思ったからだ。脚本が向井康介であることも明らかに期待値を上げてくれる。

倉木和真(松村北斗)は、自分の父・達郎(三浦友和)が殺人犯として逮捕され、犯行を自供したと聞いて、「それ、本当に父ですか」と言う。予告編でこのシーンを見て松村北斗の巧さに驚いた。

ここでは父が殺人犯であるというショックや驚きよりも、逮捕や自供に関するシンプルな疑念のほうが少し上回っているのである。上回っていると言うよりも、単純に信じられないという印象がショックや驚きよりも先に出てきた感じである。

その感じが非常によく出ている。表情にしても口調にしても、こういうたたずまいは彼にしか出せない独特のものだと思う。

たとえば、同じ役の同じ人物を(性別を入れ替えて)今田美桜がやったら、(監督が同じ演出をしたとしても)もうちょっと激しい表情、激しい口調になっただろう。

一方、殺された弁護士・白石健介(中村芝翫)の娘・美令(今田美桜)も、この逮捕と自供に違和感を覚える。

この2人が出会って、事件の真相を追うというストーリーである。

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Saturday, September 05, 2026

母親役、おばあさん役の女優

【9月5日 記】 十代でデビューした頃から観てきた(自分よりかなり年下の)女優がいつの間にか母親役をやるようになっているのを観ると、なんだかショックと言うか、感慨が深い。ああ、自分も年を取ったと如実に感じる。

しかし、自分と同年代の女優がいつの間にかおばあさん役をやるようになっているのを観ても、別に驚きもしないし、ショックでもない。

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Friday, September 04, 2026

『「夫婦」不在社会』三宅香帆(書評)

【9月4日 記】この書物における三宅香帆の最初の着眼点は、最近の文芸作品(小説だけでなく、漫画や、ドラマ、アニメ等も含む ── この守備範囲の広さと言うか、融通無碍さが、現代社会の批評家としての彼女の真骨頂だと思う)における「父の不在」である。

それは彼女がこれまでに『女の子の謎を解く』や『娘が母を殺すには?』などで母娘関係を論じてきた視点の延長上にある。そして、彼女はここに至って、今までの彼女の視点を、言わば裏返したのである。

つまり何かを批評しようと思ったら、語られているものよりも、「語られていてもおかしくないのに語られていないもの」について考えるべきではないか。

と。そして、

ぶっちゃけ私がここで強調しないと、「父は不在である」という状況に気づかなかったのではないだろうか?

とも言う。

そこで彼女が最初に持ち出したのが、宮崎駿の映画『君たちはどう生きるか』と、村上春樹の小説『街とその不確かな壁』である。僕は幸いにして両方の作品を鑑賞している。

彼女は言う:

自分を産む前のお母さんと恋をして、自分を産んでもらいたい。──それが『街とその不確かな壁』と『君たちはどう生きるか』に共通する欲望である。

この辺の彼女の解釈はめちゃくちゃ面白い。

中には、「それは読み込みすぎであって、果たして作者はそんなことを考えていたのだろうか?」などと言い出す人もいるかもしれないが、いや、作者が考えていたかどうかは全く争点にならない。作者が全く考えていなかったことを含めて、僕らが何を感じ、何を見出すことができるかが読書という行為の真髄なのであるから。

三宅は最近のコンテンツにおいてはとかく縦の家族関係(親子)ばかりが語られ、横の家族関係(夫婦)が描かれないことが多いとも指摘する。

続いて彼女はアニメ『【推しの子】』と村上春樹の『風の歌を聴け』を取り上げる。

僕はアニメは観ていないが、Netflix と映画でやった実写版の『【推しの子】』は観ているし、『風の歌を聴け』は群像新人賞受賞時に読んでいる。

『【推しの子】』について三宅は、

ここでは「本物の愛」は決して男女の恋愛や夫婦の愛情ではない。母と子の愛情なのである。

と書いている。

中高生の悩み相談の相手としての「友だち」の割合が減少し、「お母さん」の割合が増加していることも指摘される。

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Wednesday, September 02, 2026

映画『平行と垂直』

【9月2日 記】 映画『平行と垂直』を観てきた。Img_3389

自閉スペクトラム症(ASD)の人物を演じた例としては、映画『梅切らぬバカ』(2021年)の塚地武雅と、TBS『ライオンの隠れ家』(2024年)の坂東龍汰が秀逸だったが、ここでは安田章大が演じていて、期せずして3人とも全く同じ特徴を掴んでいる。

僕の周りには ASD の人はいないのでよく分からないのだが、ああ、多分みんなこんな感じなんだろうなと思うと同時に、役者たちはかなり勉強したんだろうなと思う。

この映画は安田が山野海のオリジナル脚本に惚れ込んで映画化を企画し、2年かけて脚本を練り直し、小林聖太郎を監督に迎えて完成したのだそうだ。

小林聖太郎については、上岡龍太郎の息子という色眼鏡で見られるのが気の毒だが、僕はこれまでに『毎日かあさん』( 2011年)、『マエストロ!』(2015年)、『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(2016年)の3本を観てきて、最後の1本はやや期待外れだったが、前の2本は却々の出来だったと思っている。

今回の映画の舞台は大阪。

冒頭は日向大貴(安田章大)がまだ暗いうちに一人暮らしの家を出て出勤する様子。曲がる時は必ず立ち止まって、90度方向転換してからまた進み出す。一目で ASD だと分かる。

彼の職業は清掃。仕事ぶりは極めて几帳面、いや、周りの人からは偏執的な変人に見える。それで同僚から心ない言葉をぶつけられることもあるが、かつて住んでいたグループホームを出て今はしっかり自立している。

仕事の帰り道では近所の肉屋のおじさんや八百屋のおばさんにとても愛されていることがよく分かる。

毎週水曜日は妹と家で夕食をともにする。

大貴は母親譲りの四角い卵焼きを焼き、料理を四角い皿に、そして四角い模様のランチョンマットの上に食器を、寸分の歪みもなく並べて妹の来訪を待つ。

しかし、約束の 19:00:00 を過ぎても彼女が現れないと、居ても立ってもいられなくなる。

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