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Saturday, April 18, 2026

映画『人はなぜラブレターを書くのか』

【4月15日 記】  映画『人はなぜラブレターを書くのか』を観てきた。石井裕也監督だから観ようと早くから決めていた。

しかし、全然知らなかったのだが、この映画は実話を基にしているのだそうだ。

ボクシングの大橋会長とか川嶋選手だとか、なんか聞いたことのある名前を使っているな、とは思っていたのだが、エンディング・クレジットで「協力」として、佐藤浩市と細田佳央太が演じた父子の名前が出て、「え、そうなのか!」と驚いた。

でも、この映画は実話に基づいていることを一切宣伝に使っていなかった。それが良かった。僕はそういう売りをする映画が嫌いなので、知っていたら観に行かなかった可能性もある(ま、石井監督だから観に行っただろうけれど)。

前半、映画はとてもゆっくりしたペースで進む。むしろ観客を焦らすような作りだ。

女子高生時代のナズナ(當真あみ)がいつも同じ電車に乗り合わせている富久信介(細田佳央太)に惹かれるところからではなく、寺田ナズナ(綾瀬はるか)と夫の寺田良一(妻夫木聡)、娘で中学生の舞(西川愛莉)の3人家族の現在から描かれる。

詳細が語られないので、遅くまで仕事をしているナズナに対して、どうして良一はあんなに不機嫌なのかが分からない。そして、最初は舞も両親ともうまく行っていないような印象を与えるのだが、こっちはすぐにそうではないことが分かる。身も蓋もない言い方をすると、単に舞が「難しい年頃」だということでしかないのだが、この辺の描き方はとても巧みだと思った。

信介は日比谷線の脱線事故で亡くなっているのだが、ストーリー展開上はそのことは暫く伏せられている。なのに、事前に何度も見た予告編ではそのことを先に示してしまっている。あれはあれで良かったのかなあと少し疑問に思った。

ナズナは事故から 24年を経てから信介に対して手紙を書く。何故そんな気になったのかは追い追いじんわりと観客に伝わって行く。

手紙の宛先は、信介が練習していた大橋ジムだ。一度ポストに入れに行くのだが、やっぱり持ち帰ってしまう。それがいろいろアクシデントが重なって大橋ジムに届いてしまい、そこから信介の両親(佐藤浩市と原日出子)の手に届く。

映画はこのエピソードと、それとは直接関係のない寺田家の3人のストーリー、それに信介に目をかけて一生懸命信介にボクシングを教える一方、周りからは才能がないと言われながら世界チャンピオンを目指した川嶋(菅田将暉)の話も盛り込まれるなど、悪く言えば割合まとまりがない。

僕としては富久夫妻のエピソードがなんか尻切れトンボに思えたのだが、逆にこのエピソードはもう少し抑えめにしたほうが良かったのではないかという気さえした。

しかし、そのことに関して佐藤浩市がこんなことを言っている:

ナズナの家族と富久家の話と、普通ならどちらかの比重を縮小することで一本の筋を通す。作品としての一本の“背骨”をつくろうとします。でも、今回は背骨が2本ある。そこが石井監督の面白さですよね。(パンフレットより引用)

なるほど。そして、2本の背骨はちゃんと繋がっているのだ。そのことはナレーションで2度、「全ては繋がっている」という文言で語られる。まさに内容とナレーションがうまく繋がっていると言うべきなんだろうなと思う。

ともかく細部にまで神経の行き届いた、脚本もカメラワークも見事に計算し尽くされて、圧倒的にしっとりとした、非常に読後感の良い作品に仕上がっていた。

息子の死を知った富久夫妻の正面からの2ショットが一瞬切り替わって、夫が背中越しに妻の肩に手を回す画を背後から切り取ったところとか、舞が母親に対する愚痴を言うシーンで「ナズナなんてペンペン草の名前じゃない」みたいな関係ないところから始めてしまうところとか、舞の口癖の「一応言っとくけど」とか、信介の死を知った川嶋が暴れまくるシーンとか、ナズナが舞に事実を話すシーンでは画面奥で自分に焦点が合っていないのにしっかり演技している妻夫木聡とか、その良一がナズナを抱きしめたときに舞が「抱きしめ方ヘタ」とチャチャをいれるところとか、ストーリー進行上では必ずしも必要のないものをしっかり取り込んで、その細部へのこだわりがしっかりとしたリアリズムを生んでいる。

今回はとりわけ川嶋を演じた菅田将暉が秀逸だった。そして、妻夫木聡もやはり泣きの演技はピカイチである。

綾瀬はるかも西川愛莉も、若い2人を演じた細田佳央太と當真あみも、佐藤浩市も原日出子も、そして大橋会長を演じた音尾琢真も、みんな良かった。

ただ、『人はなぜラブレターを書くのか』というタイトルだけは僕にはピンと来なかったのだが、これは監督が最初にこの話を知って、その女性はなぜ 20年も経ってからメッセージを送ったのだろう?と疑問に思ったところからこの企画が始まったからついたタイトルなのだそうで、ま、そう言われれば分からないでもない。

秀作だった。今年の賞に絡んで来ると思う。

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