映画『ストリート・キングダム』
【4月4日 記】 映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』を観てきた。
田口トモロヲと言えば脇役の役者だと思う人もいれば、NHK『プロジェクトX』のナレーターだと思い出す人もいるだろうが、僕は映画監督としての彼をとても評価していて、デビュー作の『アイデン&ティティ』こそ観ていないものの、その後の2本は観ていて、いずれもとても良いと思った。
11年ぶりの今回の監督作は、田口の直接の知り合いでもあり、日本のパンク・ロック/インディーズの記録写真を撮ってきた写真家・地引雄一の著書と膨大な写真を基にしたものだ。
地引の写真と同じ構図で構成されたシーンも結構あり、これは却々良い演出だと思った。
時代としては僕が大学生から会社に入った直後ぐらいまでの、まあ、言ってみれば人生で一番音楽を聴いていたころである。映画には当時地引が撮ったモノクロ写真も多数インサートされており、京大西部講堂なんかめちゃくちゃ懐かしく思いながら見た(残念ながら大阪在住だった僕は、当時の新宿ロフトについては全く知らないのだが…)。
僕は、しかし、パンクにはほとんど親しまずに青春時代を送ってきたので、このジャンルには全然詳しくない。
ただ、とは言え、ある時期隆盛を極めたパンクロックのグループ名や個人名は記憶の端に残っており、冒頭のシーンで仲野太賀が演じる未知ヲが出てきたときに、その名前と目許のメイクで、(スターリンというバンド名まではすぐに思い出せなかったが)「あ、これはきっと遠藤ミチロウなんだ」と悟った。
そんな感じで暫く見ていると、サチ(吉岡里帆)と加世子(中島セナ)が新しく組んだバンド・ロボトメイアの歌が始まったときに、「あ、これは ZELDA の『うめたて』だ!」と声を上げそうになった。これだけは、彼女たちのセカンド・アルバム『CARNAVAL』を買ってよく聴いていたので知っている。
ということは、吉岡里帆が演じた、印刷屋の娘で、家の印刷機を使ってパンクのミニコミ誌を作っていて、後にベーシストとしてバンドを始めたサチは小嶋さちほで、中学生のボーカリスト加世子は高橋佐代子だったのか!(ちゃんとフルネームを憶えていた)と驚いた。
そこまで来ると映画に出てきたバンド名の蜥蜴はリザードで軋轢はフリクションだったのか!と芋づる式に合点が行った。パンフを読むと大森南朋が扮した S-TORA は S-KEN なんだそうな。おお、その名前にも記憶があるぞ!
で、カメラマンのユーイチ(峯田和伸)は当然地引雄一で、僕はリザードのボーカリストのモモヨという名前は知らなかったのだが、蜥蜴のボーカリスト・モモ(若葉竜也)がそのモモヨで、かつ、ZELDA のファーストアルバムはモモヨのプロデュースだったことも知った。そして、これも後から知ったのだが、ロボトメイアというグループ名は ZELDA の曲名から取っていたのだ。
ストーリーは、カメラマンで食って行けずに腐っていたユーイチがセックス・ピストルズを聴いてパンクに目覚め、ミニコミ誌を出していたサチと、レコード屋の倅でボーカリストのモモと意気投合して、あと軋轢の DEEP(←レック、間宮祥太朗)や解剖室(←スターリン)の未知ヲ、ごくつぶし(←じゃがたら)のヒロミ(←江戸アケミ、中村獅童)らとつるんでインディーズを盛り上げ、挫折し、乗り越えて行く、熱い熱い話である。
この話を観て胸が熱くなるかどうかはその人の青春期や音楽体験にもよるのだろうが、少なくとも僕には熱い熱い物語だった。
「俺たちはメジャーじゃないしメジャーを目指してもいない」と言い切るモモは、「じゃあ、マイナーか?」と問われて否定はするのだが、マイナーでないとしたら何なのかについてはその時は答えられなかった。その答えが映画の中で提示される。── それは「インディーズ」だったのだ。インディーズの心意気が熱い!
ちょうど同じ頃に公開された森田芳光監督の 35mm デビュー作『の・ようなもの』で伊藤克信が栃木訛りで言った名台詞「メジャーなんて、目じゃあないっすよ」を思い出した。そう、それが 1980年ごろの心意気だったのだ。
書き忘れていたが、脚本は宮藤官九郎だ。彼は田口トモロヲよりはかなり下の世代で、当然この時期の音楽シーンについてはあまりよく知らないはずだ。にも関わらず、あの時代の雰囲気をうまく掴んで良い台本が書けたと思う。
他にも浜野謙太や渡辺大知、マギーなども出演しているのだが、出演している多くの役者が、そして、撮影の鍋島淳裕らスタッフも含めて、みんながみんな田口トモロヲを慕って、彼の許に駆けつけたかのような一体感があった。
田口作品の常連である峯田和伸はいつもの感じで、そこに若葉竜也と吉岡里帆ら、うまい役者、個性的な俳優を絡ませて、大して何も起こらないのに妙にワクワクする作品になっていた。とりわけ吉岡里帆がとても良かった。役者たちによる演奏シーンが非常にしっかりしていたのも良かった。
全編を見終わって、この切なさはやっぱり田口トモロヲの世界だなと思った。やっぱり良い監督だと、今回も思った。


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