『英米文学のわからない言葉』金原瑞人(書評)
【4月26日 記】 金原瑞人が翻訳したものだと J.D.サリンジャーの『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』を読んだ。
だが、その流れでこの本を買ったのではない。タイトルにつられたのである。と言うか、タイトルと宣伝文を見て飛びついてしまった。
英米文学を読んでいると、確かにその日本語訳中によく分からない言葉が出てくる。
訳がまずいわけではない。その物が日本人に馴染みがないから分からないのだ。
訳者が親切に註記をつけてくれている場合もあるが、それでもそれが具体的にどんなものなのか掴めないことも少なくない。
僕にとって最たるものは「ファサード」と「マニラ封筒」(あるいは「マニラ紙の封筒」)だ。残念ながらそのいずれもこの本には掲載されていなかったが…。
しかし、この本を読んでなるほどと分かったことも多かったし、驚いたことも多かった。
例えば「あだ名」の章で、ベス、ベッシー、リズ、リジーが全てエリザベスの別称であることは知っていたが、ベティやベッツィも同じくエリザベスの別称だったとは! そして、他にもエルスペス、イライザ、イリースなどという呼び方があったとは知らなかった。
とりわけ驚いたのはイライザで、確かに Elizabeth の最初から5文字を取ってくると Eliza になる。
うーん、池田エライザはエリザベスだったのか!と。
民族によって、言語によって、また使う人によって、色は違う。
という指摘も目から鱗だった。
日本で「エシャロット」と呼ばれて市場に出ている野菜は、実はらっきょうを深植えして早どりしたもので、フランス料理などによく使われる「エシャロット」とは全く別のものです。
というのにもびっくり。
ブルネットというのは、肌と目と髪が茶色から褐色。それに対してブロンドというのは、肌が白、目が青、髪が金色。
というのを読んで、髪だけの色じゃなかったのか!と初めて知った。
あと、「獅子鼻」は lion nose ではなく broad nose や squat nose の訳であり、じゃあ、なんで日本語では「獅子鼻」と言うかというと、これはライオンではなく獅子舞の獅子の鼻に似ているからだとか、今でこそ外国からいろんな物とその名前が入ってきているのでカタカナそのままで読者に理解してもらえるが、かつては roast chicken を「焼き鳥」、シュークリームを「軽焼き饅頭」と訳した時代もあったとか、日本語で「鳥打帽」と訳しているものは実は deerstalker hat で本来「鹿打帽」とするべきところを日本では猟と言えば鳥だったのでそうしたのだろうとか、マントルピースとは正確には暖炉のどの部分を指すのかとか、面白い例が目白押しである。
ただ、この人、料理が好きらしく、料理ネタがやや多い上に、そこに添えられた文章が蘊蓄だらけでややくどい。
そして、訳語ネタだけでは一冊の本が持たないという判断だったのか、終盤は「付録 こんなことがありました」と題して、金原瑞人が選んだ本を、これまた蘊蓄たっぷりに読者に紹介する文章が延々と続いて、まあ、面白くもなくはないのだが、さすがに長いし、こんな文章をこんな分量入れ込むのであれば、「タイトルに偽りあり」だと思う。
ま、でも、いくつか新しい知識を得られたので、読んだ意味はあった。
最後に、この文章を書くために調べてみて、金原瑞人が金原ひとみの父親であることを初めて知った。うん、これが一番の驚きかな(笑)


Comments
ミステリを読んでいて、「法律用箋」ってなんだ?日本でも入手できるなら使ってみたいものだ……と思ったのがリーガルパッドを愛用するきっかけだったのを思い出しました。
Posted by: 野原 | Monday, April 27, 2026 10:35
> 野原さん
ああ、あのよく見る赤いラインの入った黄色いやつですね。あれ、リーガルパッドって言うんですか。
Posted by: yama_eigh | Monday, April 27, 2026 12:20
> 山英氏
専門家でないのでよくわかりませんが、製造メーカーや文具を扱うショップではそう呼んでいますね。でも、「法律用箋」ということばのほうを断然先に知りました。
Posted by: 野原 | Monday, April 27, 2026 20:37