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Wednesday, April 15, 2026

映画『炎上』

【4月15日 記】  映画『炎上』を観てきた。

長久允監督の作品は『そうして私たちはプールに金魚を、』と『WE ARE LITTLE ZOMBIES』を観ていて、どちらもとても面白かったのだが、今作はそれらとは随分トーンが違う。

新宿歌舞伎町にたむろするトー横キッズと言われた行き場のない若者たちの話で、炎上と言ってもネット上で叩かれてひどい目に遭うというやつではなくて、放火である。しかも、主演の森七菜自身による冒頭のナレーションでは自分が火をつけて死者が出たと言っている。

かなりシリアスで重苦しい感じがする。

主人公の樹理恵(森七菜)はカルト宗教の信者で娘たちに日常的に体罰を行っていた父親(古舘寛治)が死んだのをきっかけに妹を残して家を飛び出し、当てもなくトー横にたどり着いたが、似たような境遇の仲間たちに暖かく迎えられ、「じゅじゅ」というニックネームをもらう。

父親の遺体に手を合わせるシーンは母と娘たちの3ショットを下から煽って撮っているのだが、水平ではなく斜めになった構図になっている。また、樹理恵 のスマホに届いたメッセージのアップでも、通常は文字が読めるようにほぼ正面からの構図にするところだが、これもかなり斜めから撮っている。

その後も上から撮ったり下から撮ったりと、いろんな構図が出てくるのだが、その多くが見事に斜めに傾いている。所謂ダッチ・アングルというやつで、なんだかとても不吉なのである。

あの長久監督が一体何を考えてこんなエグいドラマを撮ろうと思ったのだろうかと考えてしまったのだが、上映が終わって照明がつくと、館内は若い人たちでいっぱいだった。多分彼ら自身はこの映画に出てくるような危ないクスリや売春をやったりする子たちではないのだろうけれど、それでもこれが今の時代を生き抜いて行く若者たちの気分なんだろうなと思った。

パンフレット掲載の長久監督へのインタビュー記事で、インタビュアーが、

長久監督は、のっぴきならない状態の 10代を題材に映画を作ることが多いです。

と述べていて、なるほど、うまいことまとめるなあと思った。

長久監督は 2020年頃に、ニュースやソーシャル・メディアに流れてくる、トー横にいる彼/彼女たちの姿を目にして疑問を持ち、実際に彼らを取材してみたと言う。

そこに“強さ”と“魅力”を感じて、ここをブレない軸として描くべきだと決めました。

と述べている。

父親がベルトで折檻するシーンや、トイレでのスティール・ハンガーのシーン、じゅじゅがバイブレータで三ツ葉(アオイヤマダ)を殴り倒す(そして、その時に父親の体罰を思い出してしまう)シーンなど、ここでは結構えげつないシーンも描かれるのではあるが、例えばじゅじゅと三ツ葉が施設から逃亡した時の背景とか、じゅじゅがつけた火を実際の炎ではなくキラキラした CG で描いたところとか、鳴り響くベートーベンとか、♪ただただチワワを見る時間!とか、じゅじゅが病院で意識を回復して「天国ですか?」と訊いたら「いいえ、地獄です」と答えられるところとか、独特の長久ワールドがあって、それらが確実に観客に受け入れられる要素になっているような気がする。

樹理恵と妹は「お父さんが死にますように」と 10年間祈り続けてやっと父親が亡くなったのだが、それを受けて樹理恵が「やっぱり神様っているのかな」と言いながら、「神様、仕事おっそー!」と毒づくところにやるせないほどのリアリティがあり、同時にペーソスがある。

森七菜がまたこんなすごいことを言っているのだ:

だけど私たちから何も奪えないことを、地獄には知って欲しい。

そんな気迫が伝わってくる映画だった。

エンドロールに流れる曲の歌詞が、これまた度肝を抜くのだが、これは長久監督による詞である。この割り切ったような、ぶっ飛んだような、痛々しいような、そのくせあっけらかんとした感じがこの映画の全てを物語っていると思う。

さらに KAMI役の一ノ瀬ワタルが歌う劇中歌がこれまた強烈である。こちらは元たまの石川浩司の作品なのだそうである。

今では柵の中には入れなくなってしまった実際のトー横でロケをしたのだそうである。長久監督にとっては画期的な新機軸になったと思う。

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