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Wednesday, November 19, 2025

映画『君の顔では泣けない』

【11月19日 記】 映画『君の顔では泣けない』を観てきた。

いつもは監督の名前で映画を選んでいる僕だが、坂下雄一郎という名前には記憶がない(調べてみたら、MBS で『マジで航海してます。 』や『カフカの東京絶望日記』のうちの何話かを担当した人だと判ったが)。

今回は予告編に惹かれた。設定に惹かれた。

大林宣彦監督の『転校生』以来、男女の入れ替わりモノはもう明らかに食傷気味であるが、この映画にあっては、2人は元に戻らないで、映画が始まった時点では既に 15年戻らないまま過ごしている、という設定が今までと全く違っている。

これまでの作品は大体が元に戻るまでのドタバタを描いたものだったが、ここではずっと元に戻れない2人、もうこのまま生きて行くしかないのかなと諦めかけている2人を描いているのだ。そこが気に入った

原作は君嶋彼方の同名デビュー小説である。

ジャニーズ事務所出身のアイドルは、本業は歌と踊りだと思うのだが、不思議に良い演技をする役者が多い。髙橋海人もそのひとりで、僕は 2020年の『姉ちゃんの恋人』(KTV)から注目していた。予告編で彼が女っぽい声を出していたのにも妙に惹かれた。

そして、同じく予告編で男っぽい喋りをしていたのが芳根京子だ。彼女については 2015年の『表参道高校合唱部!』(TBS)で度肝を抜かれ、以来ずっとファンである。

配役を書くとややこしいのだが、入れ替わった後の水村まなみを髙橋海人が、入れ替わった後の坂平陸を芳根京子が演じている。そして、高校時代の陸→まなみを武市尚士が、まなみ→陸を西川愛莉が演じている。

で、ストーリーはと言えば、これは本当によく書けた本である。

考えてみれば、15歳のときに同級生の異性と入れ替わってずっとそのままだなんて、めちゃくちゃ大変ではないか。

まずは自分の体に対する違和感がある。そして、新しい家族との関係もあるし、相手の家族(つまりそれは自分の本当の親や兄弟だ)との関係もある。しかも2つの家庭には、見たところ明らかに貧富の差がある。どんだけギクシャクしてしまうだろう。

そして、その年代ならではの、恋愛や性体験、進路、そして行く行くは結婚や出産の問題もある。

そんなことが起こるわけがないのだけれど、もしそうなったらどうしようと身につまされて觀てしまう。

何よりも、このドラマは2人が元に戻ることをゴールとして描いているのではなく、戻れないありのままの人を描いているところがミソなのである。

陸の弟・禄を演じた林裕太が、

人は何をもって自分を自分として認識しているのか、そう認識してもらうことにどれほどの意味があるのか考えてしまいました。

と言っている。まさにこれはそういうことを考えさせる映画である。

2人の会話シーンが大部分のドラマで、そういう意味では絵変わりに乏しいのだが、単に異性を演じたというところには留まらない2人の見事な演技が観客を退屈させなかった。

カメラは時にものすごい長回しになって、長い台詞をワン・カットに収めたりしている。とりわけ髙橋が職場で電話を受けて話す長いワン・カットは圧巻だった。

そして、芳根京子が実の父親(山中崇)の葬儀に他人として参列した際に、林裕太と話して涙をこらえるシーンも本当にリアルで見事な演技だった。

陸の母親を演じた片岡礼子も僕の好きな女優なのだが、この強烈に嫌な感じも最高だった。

で、いつもの悪い癖で、途中から「このドラマはどうやって終わるのだろう?」と考え始めたのだが、まさに僕が「こういう終わり方しかないだろうな」という終わり方で終わった。

僕は飛び込むところでストップ・モーションにしてエンディング・クレジットかなと思ったのだが、(パンフによると監督はまさにそういう終わり方も考えたらしいが)その後にもうワン・カットあった。だが、余計な台詞はなかった。

とても良い終わり方だ。

知らない監督だからとパスしないで良かった。本当に良い映画だった。タイトルがまた秀逸だし。

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