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Thursday, October 02, 2025

『ブレイクショットの軌跡』逢坂冬馬(書評)

【10月2日 記】 どういうきっかけでこの本を選んだのかは憶えていないのだが、ものすごく評判になっていた『同志少女よ、敵を撃て』を、迷った挙げ句結局読む気にならなかった記憶はある。多分何かでこの本のことを知って、こちらのほうが自分には向いていそうだと判断したのだろう。

読み進むうちにまず思ったのは、この作家はよくこれだけいろんなことを知っているなあ、ということだった。

自動車の期間工、中央アフリカの民兵組織、ファンド・グループ、サッカー、高次脳機能障害、反社会的勢力…。

もちろん全部最初から知っていたわけではなくて、いろいろ調べたのだろうけれど、一つの小説の中によくもこれだけ多種多様の情報を詰め込もうとしたものだ。

で、モテない期間工の話があって、中央アフリカの紛争の話があって、日本の一流企業の話があって、これがどう繋がるのかが分からない。そろそろ繋がってくるころかと思うと、また不動産業に従事する新たな人物が登場し、この先一体どうするの?と思っていたら、その辺から話はどんどん繋がっていく。

いや、読み終えてからもう一度最初のほうをパラパラ読見返してみると、期間工・本田昴の職場の先輩の後藤さんはあの後藤さんだし、彼の好きな歌手・タカノ・マキは後に門崎亜子が自分のファンだったと語る鷹埜真希だし、昴が休憩室で見たテレビのニュースでは米国NFL の元スター選手だったコーナー・ウィルソンの息子が中央アフリカで行方不明になったというニュースが流れているし、そのウィルソンを護衛していたのが中央アフリカ共和国のエルヴェだし、後藤晴斗が YouTube で嵌めた相手でもあった。

つまり、僕は何にも気づかずに読み流してしまっていたが、これら多彩な要素は入念に繋げられているだけでなく、著者はパラパラとヒントを零しながらストーリーを書き進めていたのである。

で、最後まで読むと、いろんなこと全てが見事に繋がってくる。

ふむ、多分今の若い読者たちはこういうのを「伏線が見事に回収されている」などと言って喜ぶのだろうなと思うし、逢坂冬馬の熱狂的なファンは一生懸命「伏線」らしきものを探しながら、それがどう「回収」されるのかを予想したりなんかしながら読むんだろうなと思った。

ま、確かに見事なのではあるが、僕は最後まで読んで、「世の中はそんなにきれいに繋がらないよ」と思ったのも事実。これではあまりに著者の独壇場であり、もう少し読者の想像に任せて回収せずに放置する部分があったほうが、より余韻が深いのではないかと感じた。

ただ、僕はそんなクイズめいたところに全く気を取られずに読み進んだので、逆に楽しく読めたのではないかという気もする。

なんであれ、非常に達者な作家であり、重層的な作品であり、読み応えがあった。

お尻がちょっと長過ぎる気がしたのは、著者のソーシャル・メディアの現状に対する憤りの現れなんだろうか? もしそうであれば、そういう思想性は却って心地よい気もするが。

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