映画『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』
【9月20日 記】 映画『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』を観てきた。TV版に引き続いて監督・脚本・編集・主演はオダギリジョー。
NHK でやった TVシリーズはあまりに面白くて、season 1 と 2 を通して全部観たと思う。
僕にとってオダギリジョーは、役者としてもとても魅力的かつ個性的で強く惹かれる存在だが、初監督映画作品となった『ある船頭の話』(2019年)もまた素晴らしい出来で、圧倒された。
ただ、あのような芸術的な作品もさることながら、やっぱりオダギリの本分はこういうハチャメチャな作品であるような気もする。僕はこの線が大好きだ。
何しろオダギリジョーが着ぐるみをきて警察犬・オリバーに扮しているのである。そして、その姿は他の人たちにはちゃんとシェパードに見えているのだが、担当ハンドラーの青葉一平(池松壮亮)にだけは中年のグウタラなおっさんに見えているという設定だ。
ところが、TVシリーズのファンで、この設定や各人物の役柄などをしっかり把握している人たちにとっては、この映画は最初のシーンからさっぱり訳が分からないのである。
ナイトクラブみたいなところで、漆原(麻生久美子)、柿崎(本田翼)、三浦(岡山天音)、志村さん(鈴木慶一)ら犬係の連中が飲んでいる。舞台では歌手(深津絵里)が歌っている。そこに人間の姿をしたオダギリジョーが入ってきて、やがて撃たれるのである。
これは誰かの夢に違いない。次のシーンは誰かがベッドで目を覚ますシーンだろう、と思ったら、みんなが警察犬を訓練している狭間県警鑑識課犬係の日常風景。
さっきのは何だったんだ?──しかし、そこは結局分からないままストーリーは進んで行く。深津絵里は歌手ではなく、一平たちに新人研修をした超優秀なハンドラーだが、驚くとヤギみたいに気絶してしまう(笑)羽衣弥生なのだった。
まずは TVシリーズの過去映像をふんだんに使って、それぞれの人物の設定や、これまでの経緯が丁寧に説明されるので、これで TVシリーズを見ていなかった人もついて行けるだろうが、しかし、この映画の面白さはやっぱり TVシリーズの延長上で見たほうが圧倒的に面白い。
会話のタイミングの外し方が絶妙。そして、「え?」の応酬。あんまり面白くないことでもしつこく繰り返しているとおかしくなってくるという法則の実証などなど。
そして、このシリーズで特筆すべきなのは何と言っても麻生久美子の弾けっぷりだ。
今回はトイレの鏡を見ながら、ボイス・パーカッションをしながら、ハサミで自分の前髪を切りながら、もう片方の手でビューラーを使い、個室から出てきたゆかり刑事(黒木華)と悪口雑言を交わすというもの。
かと思ったら、犬カフェで突然フラッシュ・モブみたいに全員が踊りだすシーンでは彼女がセンターの位置にいる。しかし、この犬カフェのシーンで思いっきり振り切れていたのは麻生ではなく、彼女の父親役の鹿賀丈史や従妹役の吉岡里帆、そしてマスター役の嶋田久作らだった。
で、「なんで急に踊りだしたの?」みたいな台詞があって、それを受けて誰かが「そうだよ、インド映画じゃあるまいし」などと返すおかしさ! これはほとんでオダギリの自らの脚本に対する自虐ではないか(そう言えば、「フレディ・マーキュリーじゃないんだから」なんてのもあったな)。
しかし、その一方で、突然海に向かって歩いて失踪してしまったスーパー・ボランティアのコニシさん(彼も TVシリーズからのレギュラー・メンバーである。佐藤浩市)の行方を探るメインのストーリーが進行し、そこに元犬係で今はフリー・ジャーナリストの溝口(これまた TV からのレギュラー。永瀬正敏)の不思議な体験が絡んでくる。
異界と繋がる赤いドアが出てきてからは、これはもうナンセンスとかコメディとかいうものではなく、ほぼミステリになる。
パンフレットでは「ダーク・ファンタジー」と銘打っているが、いやいや、ここまで来るとこれはもう不条理劇である。
しかし、まあ、考えてみれば、オリバーが一平にだけダラケたおっさんに見えるという最初の設定からして、これは不条理劇だったのだ(笑)
オダギリジョーは、本人の弁によると、最初は「分かりやすいエンタメ路線の脚本」を書いたのだそうだ。それを完全に棄てて、一から書き直したのがこの脚本とのこと。ちなみに深津絵里の役は当て書きとのことだ。
やっぱり彼はいろんなものを壊して行く人なのだ。それが小気味よい。
この脚本も、前半で撒き散らした謎をいちいち「回収」したりせずに終わっている。それがまた小気味よい。
ほんで、このバカでかいパンフレットは何だ? で、高嶋政宏なんかどこに出てたの?と思ったら「小さいおじさん」かい!(笑)
その一方で、コニシさんにオリバーの父親で名警察犬だったルドルフの魂が乗り移ったという設定は、実は TVシリーズの最初からあって、当時からそれらしい「動き」を芝居にも取り入れていたとのこと(そう言われるともう一回見て確かめたくなる)。
小さなことで何度も笑ったが、笑っただけの映画ではなかった。うむ、オダギリジョー恐るべし。すごいわ、この映画。


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