映画『ブライアン・エプスタイン』
【9月27日 記】 映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』を観てきた。
ビートルズの、厳密には2代目だが、実質的には初代にして彼らを世に出したマネージャーのブライアン・エプスタインの伝記映画である。
僕は洋画に明るくないので監督も役者もあまり知らないが、監督のジョー・スティーブンソンは映画とテレビの実績はあるがそれほど有名な人ではないようだ。それに対して役者たちは結構名のあるところを揃えたようだ。
この手の作品を見るときに注意しなければならないのは、いつも書いているように、ここで描かれていることがそのまま歴史的事実ではないということだ。登場人物に 24 時間密着取材していたわけではないので、その時に何があって何を言ったのかなんてことは誰にも分からないし、仮に誰かが密着していたとしても、もしも2人が密着していたらその2人が書き留めたことにも少なからず違いが出るだろう。そんなものだ。
ドラマを観ていて一番驚かされた展開や感動した台詞が、実は脚本家の創作だったなんてことはザラにあるだろう。
ただ、さすがに脚本家も残っている資料に正面から食い違うことは書きにくいだろうから、概ね大筋はこんな感じだったのかな、と思いながら見るのが良いと思う。
その前提で、この映画についてまず言えるのは、一時はドレス・デザイナーになりたいと言ったり、演劇学校に通ったりしていた家具屋の息子が、一家が多角経営でやっていたレコード屋に若者向けのロックの在庫を増やして一大人気店に育て、ビートルズの評判を聞いて興味を持ち、キャバーン・クラブに彼らのライブを観に行って感激し、やったこともないのに彼らの楽屋を訪ねてマネージャーをやらせてくれと頼み、とうとう本当のマネージャーになってしまう──なんてことが本当にあるのか!という驚きである。
しかも、彼らは大ブレイクして大ヒットを連発し、時代を代表するバンドになってしまうのだ。うーん、今ならありえないかな。
でも、戦後の日本の音楽界もそうだけど、才能ってなんかこんな風に集まってきて、言ってみれば梁山泊ができてしまうのである。
ビートルズの4人も、ブライアン・エプスタインも、ジョージ・マーティンも。
それにしても驚いたのはビートルズのメンバーによくもこれだけ似た顔の役者を探し出してきたなあ、ということ。ジョンやポールの声も実物に近かったし、ジョージもジョージっぽかった。まあ、リンゴが一番似てなかったかな。
当然ポール・マッカートニー役は左利きでなければならないからハードルは高かったはずだが、歌っているときの首の振り方までしっかり似せていて驚いた。
音楽は実際には吹き替えだったようだが、ちゃんと演奏しているように見えたし…。
僕はリンゴがどの時点でどんな経緯で加入したのか定かに知らなかったので、ああ、その時点なのかと思いながら観ていた。
あとは、ブライアンがいつまで生きてマネージャーを務めていたのか。これは僕が思い込んでいたよりも長かった。
そして、あくまでビートルズとの関係でしかブライアンが語られるのを見たことがなかったので、てっきりビートルズだけかと思っていたら、その後もそんなにたくさんのスターを送り出していたのかと驚いた。
彼はゲイだった。何と言っても 1960年代だもの、辛かっただろう。
家族にも打ち明けられない(しかし、家族は薄々勘づいている)。大っぴらに出来ないから悩みは内にこもるし、数少ない相手に出会ったと思ったら騙されることもある。当時は同性愛が犯罪行為として罰せられていたということも今日初めて知った。
何のかんの言って、ビートルズのメンバーには結局とても感謝され、愛されていたのだが、しかし、ブライアンはやはり孤独だったのである。
そういうところを、この映画は、テンポよく場面転換しながら伝えていく。時々ブライアンが観客に向かって語りだすという構成も悪くなかった。
だが、あの終わり方はどうだろう。突然出てきた文字テロップで終わりというのでは、あまりに唐突すぎて余韻を残すところまではたどり着けないんじゃないだろうか?
まあ、でも、資料的価値は高かったし、エンタテインメント作品としてもそこそこ楽しめたかな。
一番印象に残ったのは、ビートルズの売り込みが巧く行かず落ち込んでいるブライアンに対して、母親が励まそうとして、
まだ終わりじゃないわよ。自転車から落ちたらあなたはどうするの?
と問いかけたところ、ブライアンが
親に自動車を買ってほしいとねだる。
と答えたところだった。
そう、ブライアンってそういうビジネスマンだったのである。だから、ビートルズを売り出せたんだろう。この台詞が仮に脚本家の創作であったとしても、とても良いシーンだった。


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