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Wednesday, August 06, 2025

『べらぼう』がべらぼうに面白い

【8月6日 記】  前の記事で NHK の朝ドラは長らく観ていないと書きましたが、同じく大河ドラマについても、もう何十年も観ていませんでした。昔は全作見ていた母につられて一緒に観たりもしたのですがが、大人になってからは全く観なくなっていました。

その僕が今は、毎週毎週『べらぼう』をものすごく楽しみにして、テレビに釘付けになっています。

僕は映画は主に監督と脚本家で、そして、テレビドラマは概ね脚本家で選んでいます。誰が出演しているとか、どんなジャンルの物語かといったことよりも、自分が好きな監督が演出していること、信頼する脚本家が書いていることのほうが僕にとっては優先事項なのです。

今回このドラマを観ようと思ったのは、脚本が森下佳子だと知ったからでした。はい、動機はたったそれだけで、物語の内容にも出演している俳優にも取り立てて惹かれるものはありませんでした。

僕がこのブログで初めて森下佳子について書いたのは 2006年1月19日、「森下佳子から目が離せない」というタイトルで、TBS金曜ドラマ『白夜行』の見事な脚色について触れています:

ある意味で平板であったり単調であったりする原作を枠組みだけ活かして一旦ぶっ壊し、そこにオリジナルの台詞で息吹を吹き込んで行くその才能たるやタダモノではないと思う。

その後、彼女が手掛けたさまざまなテレビドラマや映画について、僕は度々このブログに記事を書いています。まさに目が離せない脚本家なのです。

この『べらぼう』においては、史実に則しながら、部分部分で大胆にアレンジしたオリジナルの筋運びがまことに見事なのです。

  • 幼少期についてはあまり資料が残っておらず、若い頃の素性がよく分からない喜多川歌麿を、火事場で記憶喪失になっていたところを主人公・蔦屋重三郎に拾われて育てられたという設定にした。その後、大プロデューサー蔦重の下で売れっ子絵師として開花するのは広く知られたこと。
  • 吉原のトップ花魁で、盲目の高利貸し・鳥山検校に身請けされたことぐらいしか分かっていない五代目・瀬川を、吉原育ちの蔦重とは幼馴染で、互いに思いを寄せていたという設定を加え、吉原の掟のために添い遂げることはできなかったという切ない関係を描いた。
  • 同じく看板花魁であった誰袖については、史実としては田沼意次・意知親子の家来であった土山宗次郎に身請けされたという伝承ぐらいしか残っていないところ、それを実は誰袖は田沼意知と相思相愛の関係にあり、意知が世間体を嫌って表向きは土山に見受けさせたという設定にしたことによって、田沼意知が佐野政言に斬り殺された事件を絡めて悲恋のストーリーを構成した。

などなど、枚挙にいとまがありません。

こんな風に書いていますが、僕自身はそんな「史実」についてはそれまで全く興味も知識もなく、実はこのドラマを観た後にいろいろ見聞きしたのです。

今までにも何度も書いたことですが、僕はドラマや映画が事実に基づいているかどうかで心が動くことはまずありません。

世の歴史マニアみたいな人たちは、こういうドラマを見ると「一体どこまでが”史実”なんだろう?」と興味を持つのかも知れませんが、僕は全く逆で、「一体どこからが森下佳子のオリジナルなんだろう?」とワクワクしてくるのです。

事実としていろいろなことが書き残されている人物を題材にしてドラマを構成するのは、いろいろな障害物があって却々難しいことだと思います。あまりに勝手にストーリーを作ってしまうと、「それは史実とは違う」「そのとき彼は江戸ではなくどこそこにいたはずだ」「誰それと誰それは生きていた時代が違う」などと、ツッコまれると言うよりは厳しくお叱りを受けることになるでしょう。

でも、「そんなことはどの歴史書にも書かれていない」ようなことであれば、そこを自由な発想と構成力で新しいドラマを生み出すのは勝手でしょう。

森下佳子はそういうことができる脚本家なのです。そして、もちろんここぞという所で唸るような名台詞も出てきます。

でも、僕はダイアログ・ライターとしての森下佳子よりも、物語の構成者としての森下佳子に、誰にも真似のできないものを感じるのです。

森下佳子からますます目が離せなくなってきました。

この記事に少し手を入れて、note に転載しました。

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Comments

今回のコラムを読んで、全然関係ありませんが、山田風太郎の「明治もの」を思い出しました。

物語をつむぐ才能って、どこから湧いてくるんでしょうね。

Posted by: 野原 | Thursday, August 07, 2025 10:08

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