『婚活マエストロ』宮島未奈(書評)
【4月14日 記】 表題は婚活マエストロだが、この小説の主人公は一部で「婚活マエストロ」と呼ばれている鏡原奈緒子ではなく、彼女が勤めるドリーム・ハピネス・プランニングのイケていないホームページの文章の執筆を頼まれた、40歳の冴えない独身フリーライター猪名川健人であり、彼の視点で物語は語られる。
ひょんなことから健人は“ドリハピ”のパーティに体験参加したり、助っ人として運営を手伝ったりするようになる。参加したバス旅行パーティではひとりの女性といい感じになるが、結局カップル成立までには行かなかった。
そんな展開を読みながら、正直、この物語がこの後どういう展開をするのか見えなかった。
そして、途中まで読み終えての素直な感想は、成瀬あかりのシリーズ(『成瀬は天下を取りにいく』、『成瀬は信じた道をいく』)ほどは面白くないな、と言うか、どっちかと言うと、この小説はそれほど面白くもないなというものだった。
非常にエキセントリックで、でも妙に人を魅きつける成瀬あかりのような人物を主人公にしたあの2作と比べると、こちらの小説は飛び道具に欠ける感じがしてしまうのである。
でも、読んでいると、舞台は浜松なのにやっぱり琵琶湖に行って観光船に乗るのかい!とか名前こそ池田だけれど、この参加者は妙に成瀬あかりっぽいではないか!などと、成瀬あかりシリーズを想起させるツッコミどころが出てきて、結構楽しくなってくる。
こんなドキドキは中学校の林間学校のオクラホマミキサー以来ではないか。
とか、好意を持った女性に対して突然彼女とのセックスを想像してしまって、
いやいやそれは違うだろうと頭をぶんぶん横に振る。
などと、ユーモラスな表現も随所に出てくる。鏡原が婚活を成就させるのに長けているのは彼女の(比喩ではなく文字通りの)嗅覚によるところであるという設定も面白い。
そして、結局のところ、この作家はやはり話の構成がうまいのだ。
読み進んで行くうちに、果たして健人はこの恋愛を成就できるのだろうか?と興味が湧く、と言うか、心配になる、と言うか、ともかく前のめりになってしまって、ページがどんどん進んで行く。
そうやってどんどん読むスピードが上がってきて、いつの間にか僕らは良い終わり方にたどり着く。そう、ぼんやりとポジティブになれる良い終わり方なのである。
まあ、確かに成瀬あかりほどのインパクトはない。だけど、しっかりと作家の才能を感じさせてくれる良い小説であったと思う。


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