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Sunday, July 16, 2023

映画『君たちはどう生きるか』

【7月16日 記】 映画『君たちはどう生きるか』を観てきた。

僕は別にジブリが嫌いなわけでもないし評価していないわけでもないけれど、さりとてジブリのファンでもない。今回も、「ま、とりあえず観とこうか」みたいな感じで観に行ったのだが、しかし、宮﨑駿はやっぱりすごいわ。

この会社は動画検査がしっかりしているので、人や物の動きが本当に自然だ。

冒頭から、階段を駆け上がり駆け下りる時の着物の裾のはためき、前傾姿勢で走る時の腕と足の動き、人力車(自転車で引っ張るやつ)に乗り降りする時の台の軋みと傾き、足元が凸凹の洞窟を歩く時の体のよろめき…などなど、どれを採っても本当に見事な描写である。

3DCG とは一線を画す従来の平面マンガ型、線画の描きなのだが、3DCG では描ききれない生命の息吹が感じられる。涙や汗などは他の一流アニメ・スタジオのほうがもっとリアルに描くかもしれないが、こちらの描写には個性と一貫性がある。

歩く時の足の動きなどについては、こんなに自然には描けないまま放送しているテレビアニメも少なからずある。風や草や鳥の動きなどについても同じ。

そして、この神秘的で寓意に満ちた、壮大なドラマ。

見終わって帰りのエレベータで一緒になった女性2人組が「難しくて分からなかった」と言っていたが、それは何かにつけて「作者が一番言いたかったこと」を生徒に答えさせようとする日本の国語教育がもたらした悪弊ではないかと思う。

宮﨑駿はそんな風に何かひとつを読み取らせようなどとはしていない。難しかったかもしれない。でも、何か感じたことはいろいろあったでしょう? それで良いのである。

アオサギは何の象徴だったのだろうか?大叔父さんは宮﨑駿自身なんだろうか?などと、いろいろ解釈してみるのも良し、全くそんなことを考えずにただ目の前で展開される目くるめく絵柄に没頭するも良し。──これはそういう作品なのだと思う。

「作者が一番言いたかったこと」教育を粉々に粉砕する圧倒的な映像芸術だったと思う。今回は多くを語るまい。観るべし。

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