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Monday, September 21, 2020

映画『人数の町』

【9月21日 記】 映画『人数の町』を観てきた。荒木伸二監督。

50歳にして監督デビューである。と言っても、長年助監督をやっていたわけではない。CM の世界で生きてきた人だ。と言っても、CMでの独特の映像美が注目を浴び映画監督に起用された、というようなことでもない。

この人は主に CMプランナーを務めてきた人で、実際に映像を撮る CMディレクターではなかったのだ。その人が仕事の合間にシナリオ講座に通って脚本の勉強をし、キノフィルムズの新人監督賞に自ら書いた脚本で応募して準グランプリを受賞し、今回の映画化となったのである。

制作費は 5000万円。

──というようなことを、僕は映画・音楽ジャーナリストの宇野維正と荒木監督の対談記事を読んで知った。それで俄然観たくなった。

余談だが、宇野とは大学時代からの友だちであり、大学では蓮實重彦の薫陶を受け、同じころ豊島圭三らと一緒に映画を撮っていたというから、つまりは東京大学である。父親は荒木伸吾という、有名なアニメーターなのだそうだ。

主演は中村倫也と石橋静河。監督自身が語っているように、この新人監督の低予算映画にこれだけのキャスティングができたのは、プロダクションや会社が精力的に動いたからである。

さて、映画はかなりシュールな設定なので、あまりストーリーを語りすぎないほうが良いかもしれない。

借金が返せなくて借金取りに殴られているところを見知らぬ男に助けられた蒼山(中村倫也)。その男(山中聡)は黄色のツナギを着ており、胸には PAUL と書かれている。

居場所を用意してやるというポールの指示に従って指定された場所に行くと、そこには大型バスが停まっており、蒼山と似たような境遇なのか、大勢の人たちが無言でバスに乗り込み、フェンスで囲まれた知らない町に連れて行かれる。

そこで彼らは皆“デュード”と呼ばれ、お互いを“フェロー”と呼び合い、ポールら“チューター”の指示で時々奇妙な仕事をしてさえいれば、衣食住は保証され、セックスもやりたい放題だが、結婚や家族は禁止されている。

ところで、上記の記事にもある通り、石橋静河がなかなか出てこないのだが、監督も触れているように、彼女が出てきたところから映画のトーンが変わる。

実は紅子(石橋静河)は行方不明になった妹(立花恵理)とその娘を探しており、中盤で妹がこの町にいることを突き止め、そして単身乗り込んでくる。

意図して説明的な描写を排しているので若干分かりにくい映画ではある。僕自身もひょっとしたら大事な何かを見落としたのかもしれないという気がする。見終わっても疑問点がいくつか残っているのである。

でも、これは一方で、全部分からなくても良いという、制作陣の意志の現れでもある。そう、現実に生きている中で全てが分かることなんて全くないのだから。

そういう作り方をしているので、暗に現代社会の矛盾点を突くような非常に強いメッセージ性を持ちながら、そのくせ多様な解釈を許す不思議な映画で、その表現上の幅とでも言うべきものに感心した。 

ただ、映画としてはまだ少し話に引っ張られすぎている感じもした。もっと映像が引っ張る感じに仕上げられたらもっと凄みがあったのではないかと思う。

ちなみに撮影は『きみの鳥は歌える』や『さよならくちびる』を撮った四宮秀俊である。今回は設定が設定だけに非常に無機質な感じの画作りだった。

いずれにしても今後が楽しみな監督ではある。次はもっと写実的な作品を観てみたい気がする。

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