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Saturday, September 26, 2020

映画『甘いお酒でうがい』

【9月26日 記】 映画『甘いお酒でうがい』を観てきた。大九明子監督。4/10公開予定だったのが半年以上延びて漸く昨日からの上映となった。

いつも大九監督が多用する女性の足許のアップから映画は始まる。玄関で赤いローファーで出かけようとした女性が、一旦扉の外に出て鍵をかけたのに、もう一度戻ってきてシルバーグレイのハイヒールに履き替える。

足しか映っていないのに、気持ちがちゃんと写し取られている。巧いなと思う。

そう思っていたら、今回はこの足許のアップがやたら多い、映画が始まってからしばらくはそればかりだ。その後も、手のアップや足のアップ、お酒を飲み下している喉許のアップ、自転車のサドルのアップなど、表情以外のものでいろんなことをしっかり伝えてくる。

主人公は派遣社員の川嶋佳子(松雪泰子)。傍から見ればきっと孤独な中年女性だろう。アフター5は自宅で独り酒を飲むか、バーのカウンターで独り酒を飲むか。数少ない親友の一人に久しぶりにメールを送ったら、そのアドレスは使われていなかったり。

でも、本人は決して不幸でもなく、やさぐれてもいない。生き方がとても思索的な分、他の人より豊かであるとも言える。生涯独身で男性とお付き合いしたこともない、というようなタイプでもなく、別れた男たちから時々誘いもあるし、本人も恋をする。

聞けばこの川嶋佳子というキャラクターは、お笑いコンビ「シソンヌ」のじろうが長年コントで演じてきたキャラクターなのだそうだ。この映画の脚本も当然じろうである。ちなみに、大九監督の前作『美人が婚活してみたら』の脚本も彼だった。

物語は佳子の独り語りで進む。佳子が日記に書き込んだ文章である。面白いのは、日記なので「誰に読ませるものでもない」のは当然として、合せて「自分でも読み返したりしない」と書いているところ。後で日記で「好き」と書いちゃった日には自分で「読み返しませんように」と添えている。

こういうニュアンスがいちいち面白い。

結局佳子の当面の友だちは、会社の同僚の若林ちゃん(黒木華)だけで、でも、毎月彼女が給料日に誘ってくれるのが嬉しくて仕方がない。元々コントを書いていたじろうの脚本だけに、この若林ちゃんの不思議ちゃんぶりが相当おかしい。

その若林ちゃんの大学の後輩で同じ会社に勤めている岡本くん(清水尋也)に、佳子は恋をする。2周りも離れていることに少し気後れしながら、でも、恋をしている自分に少しはしゃぎながら。

言ってみれば、この映画全体が一篇の“詩”である。普段物語ばかりを追いかけている人には物足りないのかもしれないが、これもひとつの、しかもかなり優れた表現だと思う。

川嶋佳子の感性と発想と行動の面白さに、僕らは引き込まれ、ああなるほどと妙に納得し、そして、何と言うか、“ほだされる”ような感じがする。

会話ではなく、独り語りと独りの行動(後ろ向きに歩いたり、スキップしたり、反対方向の電車に乗ったり)がこれほど面白い映画って、そうそうないのではないだろうか。ええ感じの映画である。

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