香水考
【11月17日特記】 映画館で後ろの席から香水の匂いが漂ってきて、少年時代は香水が苦手だったのを思い出した。
いや、香水と言うより、母が化粧すると何の匂いだか定かではないのだがどこからともなく香って来る化粧品の匂いが悉く嫌だった記憶がある。
それが、ある時期から全然苦手ではなくなった。いつごろからなのかは正確に思い出せないが、それは多分女性とのセクシュアルな体験を覚えた頃からだと思う。
ここでセクシュアルな体験と書いたのは、身体を重ねるというような直接的なものだけではなく、かなりの至近距離で言葉を交わすなどというものまで含めた広い意味でのものだと考えてほしい。
嫌な匂い、過剰な嗜み、余計な飾りだと思っていた香水の匂いが、ある日突然違うものになった──今まで嗅いだことがなかったほどの至近距離で嗅いで、頭がクラクラして目が回った。悩殺ってこういうことなのかな、なんて思った。
良い匂いか悪い匂いか、好きな香りかそうでないか、などということとは全く関係がなく、ただ自分が知らなかった「女」を感じさせる何か、「女性性」を体現する何か、そして大げさに言うならば、めくるめく官能にいざなう何かなのであった。
そう思うと、香水の類はひたすらセクシュアルな効果をもたらすものなのであろう。
だから、セクシュアルなことが起こるはずのない場面で嗅ぐと、時に昔のように嫌悪感を覚えることもある。
こないだは映画館だったから、そして昔からあまり好きでなかった類の香り(かつて大流行したプアゾン系)だったからか、そして、その香りがあまりに強すぎたからか、ちょっと嫌だなあ、映画に集中できないなあ、と思った。
同じ香りであってもこれがもっとセクシュアルな状況であったならそうではなかったのではないかと思う。
不思議なものである。
女の人は香水をセクシュアルなものと直結するのを嫌がるのかもしれない。僕も頭では解っている。でも、体はそういうものと結びついている気がする。
香水って、そんな存在ではないかな。


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