映画『夜のピクニック』
【10月1日特記】 映画『夜のピクニック』を観てきた。
恩田陸の『夜のピクニック』と山田詠美の『風味絶佳』。どちらも飛び切り上質な小説だった。その2つが映画化され、今公開されている。どちらの監督も僕には馴染みのない名前だ。では、どちらを観るか?
『シュガー&スパイス 風味絶佳』はひと足早く公開されて週ごとの興行成績TOP10にずっと入っている──ならば、とりあえずこれはパスして『夜のピクニック』を観るほうが賢明だろう。ヒットした映画を後から見る手段はたくさんある。
ところで、小説『夜のピクニック』を読んだ人なら誰だってそう思うはずだが、これを映画化しようというのははっきり言って無謀である。これはひとえに恩田陸の筆致に支えられた物語であって、おいそれと映像化できるものではない。
高校生が昼夜を徹してただ歩くだけの物語、ではない。確かに、同じ高校に通う異母兄妹という設定があり、ゆっくりだが起伏に富んだ展開がある。だが、読んだ者は「ただ歩いてるだけなのに、なんでこんなに凄いのだろう」と思ってしまう小説なのである。
それはひとえに恩田陸の圧倒的な文章力によるものだ。
そんな小説を映画化しようとするのは、しっかりとした計算が立っている有能な監督か、それとも何も考えずに手を出してしまった身の程知らずの監督であるかのいずれかだろう。
これを観るのは冒険だなあ、とつくづく思った。ただ、ひとつだけはっきり言えることは、多部未華子主演でなければ、僕はこの映画を多分に見に行かなかっただろうということだ。
『HINOKIO』の多部未華子には鮮烈な印象を受けた。この子の魅力は視線の強さである。特にあの映画では最初男の子だか女の子だか判らないような少女役で、強烈な個性を放っていた。その後ドラマW『対岸の彼女』でも心に闇を抱えた多感な少女を見事に演じきっていたし、打って変わって『ルート225』では弟を庇う優しくて気丈な姉を好演していた。
さて、この多部未華子を活かせるのか殺してしまうのかは監督の手腕による。1つ安心したのは、長澤雅彦監督は『青空のゆくえ』でも彼女を起用しているということ。ひょっとしたら非常に良い出来の映画に仕上がっているかもしれないという期待を持って見に行ったのであるが、はたしてその期待は当たっていた。
細部に至るまで見事に計算の立っている監督だった。あの原作を巧くまとめたなあというのが第一の感想。画面の隅々にまで心配りがちゃんとできている感じがする。
大勢が列になって歩くという設定を活かした、奥行きも広がりもある映像を作っていた。これだけの人間が公道を歩くとなると、交通整理やエキストラ管理の助監督さんたちはきっと大変だったと思う。
ある時はクレーンを使い、ある時は手持ちのカメラで寄るバランスが素晴らしい。風景も人間も非常に落ち着きのある構図で押えていた。最初の校庭での長廻しは設定の説明をしながらかつ雰囲気を伝えるという難しい芸当を一気にやってしまった感じがあって見事と言うより他にない。
頭の中にきっちりと画が見えている人なのだろう。
先に歩いている忍(郭智博)と美和子(西原亜希)が角を曲がって画面に登場する(やや上手寄りのカメラからの2ショット)。その後、少し遅れて歩いてきた融(石田卓也)と貴子(多部未華子)が同じように曲がってくる。その時画面には、下手から順に忍、融、美和子、貴子の顔が互い違いに並んで見えるのである。この辺の計算は巧いと思う。
長澤監督と三澤慶子の共同脚本も非常に良かった。アニメを使ったシーンを導入して、説明に時間のかかるところを一挙に解決している。原作を変えるところは大きく変えて、原作を活かすところは忠実に。
恩田陸が地の文で書いたところを巧く台詞化している。これは原作にあったかどうか記憶が定かでないが、みんながあの本を読んだ時に必ず感じた「みんなで夜歩く。ただそれだけなのに、どうしてこんなに特別なんだろう」という思いをそのまま台詞にして使っている。
ゴールした瞬間にゲートの上に見えるあの文字(それが何かは書かないけど)。あれなんかは相当含蓄に富んだ設定だ。
多分この映画は映画祭で賞を獲ったり、キネ旬ベストテンに入ったりするほどの高い評価はもらえないだろう。やっぱり、この原作の映画化で圧倒的な感動を呼び起こすところまで行くのは難しいのである。
だが、監督の技量は充分に判った。
トップアイドルではなくても、しっかりとした演技力の若手を集めて(僕には馴染みのある名前がたくさんあった)しっかりと撮った映画である。
原作を読んだ人はきっと満足すると思う。恩田陸も(パンフレットにはお約束どおり賞賛の言葉を寄せているが)多分本心から喜んでいるのではないだろうか。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。


Comments
まいどです。
TB有難うございます。
僕よりつねに一足早いので、最近は書き終わってから
yama_eigh さんのレビューを見るようにしております。
ほんと、押さえるポイントは似ていますね。
お互いシコウが似ているので、
目に止まるモノが同じなのかもしれませんね。
では、またやってきます。
Posted by: アロハ坊主 | Wednesday, October 25, 2006 10:21