映画『ハチミツとクローバー』1
【7月23日特記】 映画『ハチミツとクローバー』を観てきた。
客層は若い男女。特に女性多し。おっちゃん/おばちゃんは視認できた限りでは僕の他にもう1人。率にすれば2%というところか。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』にしようかと思ったのだが、この映画は夫婦で見ることになっており、妻は今日家で仕事をしていたので、彼女を置き去りにして取りあえずハチクロを観ることにした。
僕がこういう業界にいることもあるが、さすがにここまで有名な原作については随分前から知っていた。ただし、原作を読んだこともなければ、アニメ化されたCXの深夜番組も見たことがない。知っていたのは登場人物全員が実らない片想いをしているという程度のことだけである。
他の映画評でも書いたことだが、原作ものの映画化となると常に原作とのギャップが争点になるのだが、これはそういうことから自由な1人のおっちゃんによる純粋映画評である。
んで、結論から言えば割と良かった。凄みと言うか、圧倒的な何かがない映画だなあ、と思いながら観ていたのだが、クライマックスでは少しだけウルッとした。
主人公は蒼井優が演じる花本はぐみだと思っていたのだが、描かれ方からすれば桜井翔が演じた竹本のほうだった。浜美大建築科3年。青春ドラマを地で行くようなタイプ。はぐみに一目惚れするが、うまく気持ちを伝えられず逃げてばかりいる。なかなかの好演であった。
で、蒼井の“はぐ”は同じ大学の油絵科の1年。将来を嘱望された天才少女で特待生。以前から思っていたことなのだが、蒼井優は実は可愛いだけではなくかなり変幻自在の演技派なのである。ここでも、あまり人づきあいの巧くない、ややひきこもり気味の作り上げられたキャラを、作りすぎることなくリアルに演じていた。
そのはぐに惹かれるのが浜美大彫刻科の森田。伊勢谷友介が存在感溢れる演技をしていた。不意にいなくなっては海外を放浪する生活を続け既に8年生になっている。自信過剰の変人ではあるが天才的な才能を持ち、芸術家としてちゃんと金を稼げるところまで来ている。
そして、この2人の天才同士が、この2人だけで芸術を解り合え、そして芸術を実現する力を持っている──このことを物語るいくつかのシーンがとても良かった。見ていて何等論理的な描写にはなっていないのに、ああ、なんか芸術っていいなあという気がしてくる、とても印象的なシーンだった。
ひょっとしたら、この点がこの映画の最大の魅力かもしれないと思う。
そして、同じく浜美大の学生が2人。陶芸科3年の山田あゆみ(関めぐみ)と建築科4年の真山(加瀬亮)。あゆみは真山に片想い、真山はバイト先の年上の女性社長(西田尚美)に片想い。そして2人ともストーカーじみた行為に走ってしまう・・・。
ダイアローグが非常に良かった。無駄な台詞も浮いてしまいがちな言葉もなく、かつニュアンスいっぱいで余韻が深い。
あまり何もない展開の最後に、落ち込むはぐ(とその周辺)、はぐの力になれないことに絶望して自転車で遠くへ逃げ出す竹本、という2つのシーンを交錯させた構成も良かった。
役者では前述の3人(桜井、蒼井、伊勢谷)に加え、はぐの叔父であり浜美大の先生でもある花本を演じた堺雅人と、終盤のシーンで桜井翔に絡む中村獅童の2人が抜群に良かった。
唯一の難点は絵柄。短いカットが多くて落ち着きのない感じがして随分気になった。例えて言えば、画面の中を人物が動いている時に、絶対にフレームアウトする前に次のカットに移ってしまうのである。時間の経過を説明するために短いカットを切り替える手法も多かった。
もう少し落ち着いて長目のカットをいくつか挿入することも必要だったのではないだろうか?
などと思ってスタッフを確かめると、監督も撮影もCM出身。なるほど、この辺がネックになったのかもしれない。
音楽の話をすると完全に趣味の問題になってしまうが、僕は非常に好感を覚えた。いや、オープニングのスピッツとエンディングの嵐(スガシカオ作)のことではなく、菅野よう子による劇伴のこと。既存の外国曲かと思うような作品で優れたポップスであったと思う。
総合すると、ま、アイドル青春ものの佳作ってとこかな?
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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