嫉妬心、労働者全体の利益、論理破綻
【7月2日特記】 理解できないのである。何故こんなにも風当たりが強いのか。福井日銀総裁に対して。
彼は日銀の内規には抵触していない。言わば道義的な問題であり、本人も軽率であったことは認めている。
軽率であっただけで総裁を辞任しなければならないのかどうか。僕はそうは思わない。けど、「辞めるべきだ」と考える人もいるのだろう。事は考え方の違いということか。
いや、単に考え方の違いだけではないような気がする。「辞めろ」と言う人たちが異常にヒステリックなのだ。
「法律に違反しなければ何をしても良いということではないぞ!」と激怒していた人がいた。
僕は基本的には、法律に違反しなければ何をしても良いと思う。それが自由主義経済の原則である。
いや、それよりも、彼が今みんなから咎められている行動は「何をしても良いということではないぞ!」と言われるような筋合いのものなのだろうか?
彼は日銀総裁として知り得たインサイダー情報を基に投機的な利益を得た訳ではない。彼が総裁になる前に出資していた会社がインサイダー情報を基に投機的な利益を得たにすぎない。
法律を犯してしまったホリエモンや村上ファンドは逮捕された。法律を犯していない福井総裁は逮捕されないし辞める必要もないのではないか?
むしろ、怒っている人たちの心にあるのは謂れなき敵愾心、嫉妬心ではないか?
「人が10万20万儲けるためにあくせく働いているのに、1,000万円以上も儲けやがって」という敵愾心。いや、それ以前に「人が10万20万儲けるためにあくせく働いているのに、そもそも1,000万円も出資する余裕があるなんて」という嫉妬心。
解らないではない。しかし、嫉妬心で辞めろと言うのは間違ってやいないだろうか?
ルールから逸脱しない限り、投資は悪ではない。もちろん不労所得ではある。だが、投資行動なくして今の経済は既に成り立たなくなっている。貯蓄から投資に金が回り始めて経済が復旧してきたという側面もある。
「俺たちから高い利子を取ってる一方で自分はそんなに儲けやがって」と言った人がいた。これには大層驚いた。
「俺たちから高い利子を取ってる」という認識はかなり歪んでいる。総裁が個人で利子を取っている訳でもないし、一般人から利子を取っている訳でもない。日銀は金利を取って銀行に融資し、その金利を操作することによって景気を調節しているのである。
「金貸しは悪だ!」とでも言うのだろうか? 彼はイスラム教徒なのだろうか?
いや、一番気になるのは、自分たちよりも少しでもリッチな人間を見つけるとそういう人たちを引きずりおろそうとする風潮ができることである。
ホリエモンも村上ファンドもついこの間まではジャパニーズ・ドリームの担い手であったではないか? 今福井総裁を非難している人はホリエモンも村上ファンドも(あるいは孫正義や三木谷をも)最初から快く思っていなかったのだろうか? それとも逮捕されたのをこれ幸いと非難し始めたのだろうか? 判らない。
ただ、いずれにしても投資行動は悪ではない。現代の経済においては必要不可欠のものである。確かに金がないと投資はできない。金のない身としては悔しい。だが、それは仕方がない。
昨今、例えば公務員の給料なんかでもそうなのだが、「あいつらあんな高給を取っている。給料を下げろ!」といった主張をよく耳にする。僕はこれは良くないと思う。
「あいつらあんな高給を取っている。ならば俺たちの給料ももっと上げろ!」というのが正しい主張なのではないだろうか? 少なくともかつてはそれが正しい労働運動であった。そういう主張をすることによって、労働者全体のレベルアップを図ろうとした。
自分より高給取りの給料を下げることを繰り返していると、労働者全体の給与水準は確実に下がる。だから底の浅い嫉妬心に振り回されていると労働者の権利自体が弱体化してしまうのである。
また、点と点の比較で「自分たちより高給取りである」と判断するのも誤りである。給料、ボーナスだけではなく、社宅や保養所などの福利厚生、そしてその他の諸手当や保険、残業がちゃんとついているかどうか、休みは取りやすいのかどうかまで考えなければ、自分より恵まれているかどうかは判断できないはずである。
そして、あっちで自分より基本給の高い奴を見つけては「下げろ」と言い、こっちで自分より良い社宅に住んでいる奴を見つけて「けしからん」と憤り、そういう風にバラバラに敵愾心を振りまいていると、あちこちの労働者があちこちでいろんなものを削られて、結局労働者全体のレベルダウンになってしまうのである。
僕は別に福井総裁が僕より高い給料をもらって大きなキャピタル・ゲインを得ていても構わない。そもそも儲かったのは結果であり、投資である以上はパーになる恐れもあったはずだ。それよりも僕は、「日銀総裁がそんなに給料をもらっているなら俺にももっと寄越せ」と主張したい。
現在の日銀の内規に不備があるのであれば、求められるのは内規を改正することであり(そして事実その方向で議論が進められている)、不備のある内規を守っていた総裁を辞めさせることではないと思う。
ところで、一方「今彼を辞めさせると日本経済がズタズタになる」という理由で福井総裁を擁護する人たちがいるが、この主張が一番間違っている。論理破綻も甚だしく、全くお話にならない。
その論に沿えば、仕事のできる人は何をしても咎められないということになる。ムチャクチャだ。それなら福井総裁に対する嫉妬心のほうがまだ理解ができると言うものだ。


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