Tuesday, November 11, 2025

『ゲンセンカン主人』

【11月11日 記】 映画『旅と日々』を観たら、急に気になって、WOWOW から録画したっきりになっていた『ゲンセンカン主人』を観た。石井輝男監督、1993年。

驚いたのはここにも「企画」として、SEDIC の中沢さんがクレジットされていたこと。『無能の人』にも『雨の中の慾情』にも、昨日観た『旅と日々』にも全て中沢敏明の名前が記されている。

中沢さん、つげ義春にはよっぽどの思い入れがあるんだろうなと思う。

そして、『旅と日々』にも出ていた佐野史郎が、ここでは(つげ義春の作品の中に出てくる、彼自身の分身である)漫画家・津部(つべ)を演じている。

他の映画でもそうだったが、つげの原作は映画にするにはやや短いので、何作かを織り込んで1本の映画にすることになる。

ここでは津部が自らの作品を語ったり、編集部の人間が彼の作品を読んだりする形で4つの話が扱われているのだが、最後に本人役で本物のつげ義春が出てきて、これまた驚いた。

ここで取り上げられたのは、『李さん一家』、『紅い花』、『ゲンセンカン主人』、『池袋百点会』の4つ。

そのうちの『池袋百点会』は映画『雨の中の慾情』でも扱われていた。そして、僕が持っている新潮文庫版の作品集『無能の人・日の戯れ』にも収められている。

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Monday, November 10, 2025

映画『旅と日々』

【11月10日 記】 映画『旅と日々』を観た。

僕は大体は監督で映画を選んでいるし、三宅唱は好きな監督の一人だが、今回は監督で選んだのではない。原作がつげ義春の漫画だと知ったからだ。

そんなにたくさん読んでいるわけではないのだが、やっぱりつげ義春はすごい作家だと思っているし、どうしようもなく惹かれるものがある。

寂寞として、ある種不条理の世界に見えて、しかしどこか絵空事ではなく、それは現実に妙に根ざしていている気がする。

切ないようで、切ないという表現はちょっと違うような気もする。

そこにあるのはかなしみとおかしみだ。そう、かなしさとおかしさではなく、曰く言い難いかなしみとおかしみなのだ。

それは映画になっても同じで、僕が観たものでは『ねじ式』(1998年)にしても『リアリズムの宿』(2004年)にしても、『雨の中の慾情』(2024年)にしても、適任な監督が適切に撮れば、そこにはそこはかとないかなしみとおかしみが浮き出てくる。

そんなことを考えながらパンフレットを読んでいたら、三宅監督がインタビューで「おかしみと哀しみ」と言う表現をしていて驚いた。

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仲間由紀恵は松坂慶子になれるか?

【11月10日 記】  最近、仲間由紀恵は果たして松坂慶子になれるのかどうかを注視している。

松坂慶子と言えば昭和中期を代表する“美人女優”だった。歌手としての実績もあり、バニーガール姿で網タイツを穿いて歌った『愛の水中花』は大ヒットした。

そんなひたすら美しくてセクシーなヒロインで売ってきた彼女だったが、年を経るにつれて次第にイメージを変えてきた。

単に青春ドラマ、メロドラマやシリアスなドラマばかりではなく、ライト・コメディもこなすようになったというだけのことではなく、トップクラスの主演女優としてたくさんの賞も獲ったあと、美しいヒロインのイメージを脱して、いつの間にかちょっとふっくらとして、なんだか少し抜けたおばさん役やお母さん役を多くこなすようになっていたのである。

ごく最近の作品で言えば、Netflix の『舞妓さんちのまかないさん』でのおかあさん(常盤貴子の母で、蒔田彩珠の祖母)や、同じく Netflix で是枝裕和が撮った『阿修羅のごとく』のおかあさん(國村隼の妻で、宮沢りえ・尾野真千子・蒼井優・広瀬すずの母)や、映画『父と僕の終わらない歌』でのおかあさん(初期の認知症を患った寺尾聰の妻で、松坂桃李の母)役などが挙げられる。

今ではすっかりそんな感じのイメージが定着してきたのではないかと思うのである。

特に彼女が若かった頃の飛び抜けた美しさを知らない若い人たちは、そういうちょっと間抜けで、でも憎めない中年~初老の女性を演じる巧い役者としか思っていないのではないだろうか。

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Sunday, November 09, 2025

宮川安利 Ari Miyakawa

【11月9日 記】 最近、宮川安利 Ari Miyakawa の YouTube チャンネルにハマっている。

宮川安利は作編曲家の宮川彬良の娘であり、ということは宮川泰の孫である。

宮川泰は筒美京平と並んで僕が敬愛してやまない歌謡曲の作編曲家である。

彼が作曲した数多のヒット曲には目を瞠るような素晴らしい作品が目白押しだし、僕の個人的な体験としては、FMラジオで毎週土曜日の昼に放送していた『コーセー化粧品 歌謡ベストテン』の司会者として、彼がベストテン入りしたいろいろな楽曲を理論的に、しかし、分かりやすく分析してくれるのを聞くのがものすごく楽しみだった。

そして、この宮川安利のサイトでは、最近“父と娘の音楽教室”と銘打って宮川彬良が頻繁に登場しているのだが、これがめちゃくちゃ面白い。

そして、これら一連のビデオを観て、僕は今まで(馬鹿にはしていないまでも)あんまり大した人だと思っていなかった宮川彬良が如何に凄い人なのか、改めて再認識したのである。

全4回の『奇跡の転調シリーズ』もいちいち目から鱗だが、

父と娘の2人で、父であり祖父である宮川泰(安利は「じったん」と呼んでいたらしい)の名曲を解説しているこのビデオなんか、もうべらぼうとしか言いようがない。

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Wednesday, November 05, 2025

映画『爆弾』

【11月5日 記】 映画『爆弾』を観てきた。

僕が永井聡監督を初めて観たのは『ジャッジ!』(2014年)だったので、どうもいつまでもあの手の業界ものドタバタ・コメディを作る人だというイメージが強いのだが、その後の作品を並べてみると、『世界から猫が消えたなら』(2016年)、『帝一の國』(2017年)、『恋は雨上がりのように』(2018年)、『キャラクター』(2021年)と、ものすごくバラエティに富んでいる。

これは彼の趣味が広いということなのか、あるいは、どんなオファーでもこなしてしまう器用な監督だということなのか、その両方なのか?

それにしても、僕は『キャラクター』以外は全部観ているにも関わらず、そして『ジャッジ!』に特別惚れ込んだわけでもない(「賞をとるような映画ではないし、一生記憶に残る作品でもない」と僕は書いている)のに、いつまでも『ジャッジ!』のイメージを引きずっているのは何故だろう?

その後の作品はいずれも悪い映画ではなかった(どの映画も僕は、全体としては褒めている)けれど、やっぱり少し印象が薄かったということなんだろうか?

で、今回は連続爆破事件だ。僕にとっては7年ぶりの永井作品。

野方署が酔っ払って酒屋で暴行を働いた男(佐藤二朗)を逮捕した。男はスズキタゴサクなどというテキトーな名前を名乗るが、それ以外は住所も何もかも記憶喪失で分からないと言う。だが、タゴサクは「自分には霊感がある」と言い、その直後に起きた秋葉原での爆発事件を予言してしまう。

その後もタゴサクは面白がってクイズを出すみたいにして、取り調べの警察官に対してその後に起きる爆破事件のヒントを与える。それによって、中には警察が未然に防いだケースも出てくるが、死傷者多数の大惨事も起きる。

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Tuesday, November 04, 2025

Kindle の“ハイライト”

【11月3日 記】  僕は普段 Kindle で本を読んでいる。

Kindle ユーザならご存じだと思うが、あれは読みながら指でなぞって文中任意の箇所にマーカーを引くことができる。これをハイライトと言う。

そして、読み進んで行って、他の何人ものユーザがハイライトした箇所に来ると、そこに破線の傍線が引かれていて、小さな文字で例えば「29人がハイライトしました」みたいなことが添えてある。

僕はこれを目にするといつも、「はぁ、君らはそんなところに、なんか心を動かすものを感じたの?」と思ってしまう。僕がハイライトする箇所とはほとんど重ならないのである。

あくまで評論などではなく、小説を読んでいるときの話だが。

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Monday, November 03, 2025

『カフネ』阿部暁子(書評)

【11日2日 記】 2025年本屋大賞受賞作である。

出だしから面白かった。41歳のバツイチ社会人・野宮薫子が、先日亡くなった弟・春彦の婚約者だった小野寺せつなを喫茶店で待っている。待ち合わせの時間を 20分過ぎてもやって来ない。

ブルーデニムのつなぎ服を着て「どこの作業員だ?」と思われるようないでたちのせつながやっと現れたと思ったら、弟に紹介されたときと同じく無愛想でつっけんどんで物の言い方に遠慮がない。

その薫子が、ひょんなことからせつなが働いている家事代行会社「カフネ」が宣伝も兼ねてやっている家事代行ボランティアを手伝うことになる。2人は決して意気投合したわけではなく、むしろその逆だったが、薫子の片付けの才をせつなが見出したのだった。

困っている家庭に2人が行き、薫子がビニール袋を2枚持って猛然と片付けをやり、せつなが途轍もなくテキパキと見事な料理を大量に作る描写が読んでいて小気味良い。

困っている家庭も事情はそれぞれで、薫子とせつなに対する人当たりもさまざまだ。

その辺の描き方が面白く、どんどん読み進む。

その間に弟の謎の死の状況や、(終盤では)その真相が語られ、弟ばかりを可愛がってきた薫子の母親と薫子との関係が語られ、薫子の不妊治療と離婚が語られ、カフネの創業者や、春彦の死の第一発見者であり親友でもあった男とも関わり、そんな風に周囲の風景がどんどん流れる中で、薫子とせつなの関係も微妙に変わって行く。

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Sunday, November 02, 2025

映画『恋に至る病』

【11月2日 記】 映画『恋に至る病』を観てきた。

館内は恐らくなにわ男子のファンと思われる女の子たちがいっぱい。中に女の子に付き合って男の子も来たという感じのカップルもチラホラ。でも、僕はいつも通り監督目当てだ。

廣木隆一監督の作品はこれまでに映画館で 19本を観てきたが、ここのところ作品がなかったのでこれが3年ぶりということになる。

斜線堂有紀による同名恋愛小説が原作で、転校してきた内気な高校生・宮嶺望(長尾謙杜)とクラスの中心人物・寄河景(山田杏奈)のラブ・ストーリーに、クラスメイトの連続不審死事件というミステリ要素を絡めてある。

ちなみに最初の事件に関しては景がさらっと宮嶺に「私が殺した」と告白するが、どうやって殺したのかも、あるいは本当に彼女が殺したのかどうかも定かでない描き方をしている。

廣木監督の画作りの特徴は長回しと引き画だと僕は思っている。

この映画でも少なからぬシーンをワン・カットで撮っている。

宮嶺が転校してきた日のシーンでは、2人が会話しながら自転車で走るダイナミックな長回しになっているが、最初は同じ道ではなく、並行していてお互いの姿は見えていて声も届くけれど別々のところを走っている ── という面白い構図だ。

そして、そのシーンでもそうなのだが、喋っている俳優の顔がアップにならない。

宮嶺が体育館に入ってくるシーンでもそうだ。冒頭は場所を説明する必要があるから当然ロングの構図なのだが、多くの映画ではその後すぐに人物の1ショットになる。でも、この映画では引いたままの構図で話を進めている。

こういうアイドルを起用した映画などではとにかくアイドルの表情を見せようとするものだが、そこはグッとこらえてカメラは寄らないのである。

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Saturday, November 01, 2025

映画『ミーツ・ザ・ワールド』

【11月1日 記】 映画『ミーツ・ザ・ワールド』を観てきた。

これは金原ひとみの原作小説を読んでいる。柴田錬三郎賞を受賞した作品だが、僕にはあまりピンと来なかった。

しかし、そういう小説が映画化されると、もちろん監督や脚本家、そして出演者次第ではあるが、素晴らしい作品になることは往々にしてあるので、とても楽しみにして観に行った。監督は松居大悟である。

観る前に、一番問題だと思ったのは、原作では確か由嘉里はあまり器量の良くない女性で、だからとてもきれいなキャバ嬢ライに憧れるわけだが、それを杉咲花みたいな愛くるしい女優が演じるのは如何にも違和感があるということだった。

そういう役をやらせるのであれば、例えばこの映画には松居組の常連・大関れいかが出ていたが、彼女とか、あるいは江口のりこクラスを持ってこないとリアリティが出ないんじゃないかな。しかし、大関が主演では客が来ないだろうし、江口では年齢が上すぎるし…。

映画では杉咲にブカブカの服を着させたり、安っぽい髪留めをさせたり、顔にはソバカスがあったりして、必死にダサい感じを出そうとしていたが、結局その点は払拭できなかった。

でも、だから映画の出来が悪かったかと言えば、決してそんなことはなかった。

やっぱり杉咲花は女優としての安定感が抜群で、どんな役でもこなしてしまう。今回の役柄ではあの早口が如何にも腐女子、と言うよりは何かと自信の持てない女子にありがちな感じが見事に出ていた。

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Friday, October 31, 2025

優勝セールにまつわる疑問

【10月31日 記】  昨日福岡ダイエーホークスが阪神タイガースを破って日本シリーズ優勝したので、早速福岡のデパートでは優勝感謝セールが始まったというニュースをやっていた。

その一方で、大阪のデパート(これは間違いなく阪神百貨店だが)も「応援感謝セール」をやっているとのニュースも入ってきた。

なんや、どっちにしてもやるんやん、と思ったのだが、優勝感謝セールと(優勝できなかったけど)応援感謝セールとでは規模などが大きく違ってくるんだろうか、とふと気になってきた。

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Sunday, October 26, 2025

Accessible Facility

【10月26日 記】  僕はこのブログに「果てしないトイレ談義シリーズ」というのを書いていて、トイレにまつわるおかしな話を収集しています。

で、先日、ある公衆便所でまた変な表記を発見してしまいました。それが右の写真です。Accessiblefacility

Accessible Facility って何だか変だと思いませんか? 一番下手糞な訳をすると「到達可能設備」、もうちょっとまともな訳をしても「使いやすい施設」って、それでこれが障碍のある人のためのトイレだって判ります?

── と意気込んで、一応念のため辞書を調べてみると、意外にもこの表現はこれで良いのですね。ちょっとびっくり。

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Friday, October 24, 2025

映画『愚か者の身分』

【10月24日 記】 映画『愚か者の身分』を観てきた。

永田琴という監督のことは全く知らなかったが、脚本が向井康介だったので俄然観る気になったのである。

しかし、いやあ、えらいものを観てしまった。えぐい。バイオレンス部分がえげつないのである。

もちろん向井康介が脚本を書いているので、バイオレンスのみの映画にはなっていない。

タクヤ(北村匠海)がマモル(林裕太)の頭を撫でようとしたらマモルが片手で遮って身構えるところとか、タクヤが梶谷(綾野剛)に目隠し外してくれませんかと頼むところとか、筋運びも台詞回しも、小道具の使い方も抜群にうまくて、やっぱり向井康介らしい、人間の深いところまでしっかり分け入っていて他の脚本家には書けない話に仕上がっている。

しかし、如何せん、バイオレンス部分がえぐいのである。

これが単に銃で撃ち殺したとか、刃物で刺し殺したとか、あるいは爆弾で何人も死んだとか、そういうのであれば僕らもフィクションだと思って流して観ることができるが、頼むから生きたままえげつないことをするのはやめてくれ、という感じ。

少なくとも僕は勘弁してほしい。そういうのが平気な人、好きな人にだけ見せてほしい。

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«『百日紅』杉浦日向子(書評)