私が選んだ邦楽カバーアルバムの傑作
隆盛を極めた昭和の歌謡曲が終わりに近づいた頃から、急にカバー・バージョンが盛んになってきたような気がしています。この傾向は今も変わりません。
今世紀に入ってからは、井上陽水の『UNITED COVER』(2001年)辺りを皮切りに、徳永英明が2005年から取り組んでいる『VOCALIST』のシリーズや、2008年から2枚出た中森明菜の『フォーク・ソング ~歌姫抒情歌』シリーズとか…。
上で挙げたものは実はどれも持っていないのですが、私もカバー・バージョン、カバー・アルバムは大変好きです。それで、今回は自分の手持ちの音源の中から、主に日本の歌をカバーしたアルバムに限定して、私が名盤だと思うカバーアルバムを紹介していこうと思います。
ただし、私がカバー作品に期待するのは、かつての大ヒット曲を忠実に再現したものではなく、むしろ皆が完全に忘れてしまっていた名曲を甦らせるような、あるいは斬新な解釈やアレンジによって昔の曲がまるで別の作品に生まれ変わるような、そんな果敢な取り組みです。
なので、そういう趣のあるアルバムが中心になります。すでに廃盤になっていて手に入りにくいものも少なくないと思いますが、ご容赦ください。
また、トリビュート・アルバムについては、私もたくさん持っていて、これももちろんカバー・アルバムの一種ではあるのですが、少し趣きの違うものと考えて今回は外しました。
さて、私が生涯最初に手に入れたカバー・アルバムって何だったろう?と考えてみて、最初に思い当たったのは甲斐バンドのリーダー・甲斐よしひろが1978年にソロで出した『翼あるもの』でした。
シンガー・ソングライター全盛の時代にこういうアルバムを出すなんて、甲斐よしひろって偉いなあ、と当時いたく感心したのをよく憶えています。
過去の名曲をリスペクトしようとする彼に対して、私も心からのリスペクトを捧げたのでした。
ところが、よくよく考えてみると、私はこれよりも前にもカバー・アルバムを持っていたのです。今回は時系列で書いて行くので、こっちを先に書きます。
それは吉田拓郎の『ぷらいべえと』でした。ジャケットの絵は確か拓郎自身の筆によるものだったはずです。
『ぷらいべえと』吉田拓郎(1977年)
- 夜霧よ今夜もありがとう
- 恋の歌
- 春になれば
- ルームライト
- いつか街で会ったなら
- 歌ってよ夕陽の歌を
- やさしい悪魔
- くちなしの花
- 赤い燈台
- 悲しくてやりきれない
- よろしく哀愁
- メランコリー
- あゝ青春
不思議なことに、私はこのアルバムに対しては『翼あるもの』に対するような熱い思いを感じませんでした。そんな風に肩に力が入ることもなく、なんかすんなりと受け入れてしまったのでした。その辺りが逆に拓郎の偉大さであるような気もします。
彼もまたシンガー・ソングライター時代を代表するシンガー・ソングライターだったことは間違いないのですが、しかし、彼は昔から他人の曲も演ってました。
日本のフォーク運動の歴史の初期には「替え歌をしてみよう」というというのは結構大きなテーマでした。そういう流れの中で、ザ・ディランⅡがボブ・ディランの "I Shall Be Released" から『男らしいってわかるかい』を作り、豊田勇造はなんとボブ・マーリーの "No Woman No Cry" を『走れアルマジロ』にしてしまいました。
同じように吉田拓郎はレイ・チャールズの "What'd I Say" を『わっちゃいせい』と歌い、ボブ・ディランの『ハッティ・キャロルの寂しい死』を『準ちゃんが吉田拓郎に与えた偉大なる影響』に作り替えました。そしてまた、斉藤哲夫の『されど私の人生』を、これはそのまま歌っていました。
自由そうに見えて、でも、その自由は今の自由のような気軽なものではなく、往々にして思想的な裏打ちを求められた結構窮屈な時代でした。岡林信康も、吉田拓郎も、豊田勇造も、他にも多くの歌手がステージ中に「帰れ!」という罵声を浴びせられました。
フォークのくせに歌謡曲と同じように恋愛を歌った『結婚しようよ』も一部の人たちから強い批判と拒絶に遭いました。
そんなときに吉田拓郎は「フォークって自由の歌じゃなかったのかい。フォークがそんなに窮屈なものなのなら、俺はこれから演歌歌手と呼ばれても構わない」と言い放ちました。
彼は多くのものを壊しました。ブルドーザに喩えられる所以です。
前置きが長くなりました。『ぷらいべえと』のようなカバー・アルバムを出すというのも、フォーク初期のシンガーソングライター時代にあっては画期的なことだったということが言いたかったのです。
ただ、多くのものを叩き壊しながら走ってきた吉田拓郎の闘いの中では、このアルバムは少し力の抜けた存在でした。だから私も何も考えずすんなりと受け入れたのだと思うのです。
このアルバムはカバーと言いながら、由紀さおり(4)、中村雅俊(5)、森山良子(6)、キャンディーズ(7)、梓みちよ(12)、トランザム(13)らに提供した楽曲のセルフカバーであったり、自分自身による再録(2)であったりが多いのですが、全く他人の曲である(1)(8)(10)(11)辺りが大変素晴らしい出来です。
交流のあった加藤和彦の作品である(10)は別として、当時既に拓郎は歌謡曲の歌手に曲を提供していたとはいえ、縁もゆかりもない歌謡曲歌手のレパートリーから石原裕次郎(1)、渡哲也(8)、郷ひろみ(11)を採ったところに私は驚きましたし、その気負いのない名演に感銘を受けました。
吉田拓郎は「あてがわれた曲を歌う」歌謡曲の歌手という古いテーゼに対するアンチテーゼとして、「自分で作って歌う」フォークの旗手として登場し、そしてついに「自分で選んだ曲を歌う」というジンテーゼに止揚したと言えるのではないでしょうか。
セルフカバー作品の中では、かなりアレンジを変えた(7)が良いです。
さて、1枚目の紹介が随分長くなってしまいました。その次が甲斐よしひろの『翼あるもの』です。
『翼あるもの』甲斐よしひろ(1978年)
- グッド・ナイト・ベイビー
- えんじ
- 10$の恋
- サルビアの花
- 喫茶店で聞いた会話
- ユエの流れ
- あばずれセヴンティーン
- 恋のバカンス
- マドモアゼル・ブルース
- 薔薇色の人生
選曲がシブいです。「幻の名曲発掘」的なものからアマチュア時代の友だちの作品まで入っています。
甲斐バンドと全く繋がりが見えない憂歌団の(3)が入っているのが不思議な感じです。
ザ・ピーナッツの(8)は別として、ザ・キングトーンズの(1)は誰もが忘れかけていた珠玉の名曲を思い出させてくれました。私にとっては、大瀧詠一が自分のアルバム『Niagara Moon』(1975年)にキングトーンズを起用したのと、このアルバムで甲斐よしひろがこの曲を取り上げたことが、キングトーンズの再評価に大きく寄与したと思っています。
他にも早川義夫/もとまろの(4)、かまやつひろしのB面の曲だった(5)、GS(しかもジャガーズ!)の(9)など非常にこだわりの感じられる選曲です。(9)では "Baby Be My Free" という原曲の文法無視な英語を "Baby, Be My Freedom" に変えて歌っていたのが強烈に印象に残っています(笑)
甲斐よしひろは2003年にこのアルバムの続編『翼あるもの(2)』を出しています。私はこちらは持っていないのですが、『八月の濡れた砂』とか『沖縄ベイ・ブルース』とか『そして僕は途方にくれる』など、なかなか良さそうな感じです。
さて、その次に買ったのが桑名晴子の『MOONLIGHT ISLAND』です。
『MOONLIGHT ISLAND』桑名晴子(1982年)
- ほうろう
- CHOO CHOOガタゴト
- ウララカ
- DOWN TOWN
- あの頃のまま〈MOONLIGHT SIDE〉
- I LOVE YOU
- ムーンライト・サーファー
- 夢で逢えたら
- 夜の海
- YORU NO UMI(PART2)
名盤です。選曲の良さを言う前に歌の巧さを挙げるべきでしょう。桑名晴子と岩崎良美は、ともに兄/姉の陰に隠れてしまって過小評価されているけれど、抜群に良い声だしテクニックもある歌手だと思います。
細野晴臣(2)、山下達郎(4)、ユーミン(5)、PANTA(7)、大瀧詠一(8)、下田逸郎(9)など、さまざまな(でも割合統一性のある)作家の作品を取り上げている中で、一番の注目は(1)でしょう(これも細野晴臣作曲ですが)。小坂忠の伝説的な名盤のリメイクです。
続いて、同じ年にはこんなものも買っています。
『民族の祭典』巻上公一(1982年)
- 森の小人
- 国境の町
- 桑港のチャイナ街
- アルタネイティヴ・サン
- 私の青空
- イヨマンテ(熊祭)の夜
- おおブレネリ
- マヴォの歌
- 赤い靴
- 不滅のスタイル
曲名リストに度肝を抜かれます。東海林太郎(2)とか渡辺はま子(3)とか榎本健一(5)とか伊藤久男(6)などという、昭和初期の名作が並んでいるかと思えば、(1)(7)(9)みたいな童謡・唱歌の類も入っていて。
知らない人もいるかもしれないので書いておくと、巻上公一はヒカシューのボーカリストです。村上春樹の『風の歌を聴け』が大森一樹監督で映画化された時には「鼠」役で出演していました(このアルバムが出る前年です。ちなみにその時の「僕」役は小林薫でした)。
ヒカシューは割合奇を衒ったサウンドを売り物にしていたバンドだと私は思っていたのですが、このアルバムではこんな風な正統/正調とも言える作品を並べていること、そして何よりも巻上の圧倒的な声の伸び! 怒涛の声量!──この2点が驚きであり成功です。
(6)なんか、あの原曲よりも迫力があるし、(9)が怖い!
彼はこの続編も出しています。年度が前後しますが先にこちらを紹介すると、
『殺しのブルース』巻上公一(1992年)
- さいざんすマンボ
- 女を忘れろ
- 待ちぼうけの喫茶店
- 悪人志願~雨と風の詩
- すきやきエトフェー
- 夜空の笛
- 東京の屋根の下
- 帰ってきたヨッパライ(ニューヨーク・ヴァージョン)
- うつろ
- マリアンヌ
- 殺しのブルース
こっちはちょっとマイナー志向になりすぎた感があります。ただ、トニー谷(1)とか、守屋浩の『僕は泣いちっち』ではなくて(6)とか、ジャックスの(10)とか、よくぞ選んでくれた!という曲が並んでいます。
それから(5)はこんなタイトルになっていますが原曲は "SUKIYAKI"、つまり坂本九の『上を向いて歩こう』です。
さて続いては私が持っている数少ない歌謡曲のアルバムです。
『星影の小径』ちあきなおみ(1985年)
- 星影の小径
- 雨に咲く花
- 港が見える丘
- 上海帰りのリル
- 青春のパラダイス
- ハワイの夜
- 水色のワルツ
- 雨のブルース
- 夜霧のブルース
歌謡曲においてはカバーなんてのは日常茶飯事なんでしょうが、なにしろ抜群に歌の巧い歌手ですし、選曲が良いので買いました。
アレンジは武川雅寛と倉田信雄が手掛けていて、選曲自体は定番ナツメロですが、結構歌謡曲離れしたテイストになっています。
発売当初は『港が見える丘』というアルバム・タイトルでしたが1993年にこのタイトルで再発されました。
これはもうちあきなおみの歌唱力が全てと言って良いアルバムです。私にとってはリアルタイムで聴いた記憶のない曲ばかりですが、それだけに新鮮な感じさえあります。
続いてはこんなアルバム。これも歴史的名盤と言って良いのではないかな。
『CHARMING』スターダスト・レビュー(1986年)
- Charming
- 踊りあかそう(I Could Have Danced All Night)
- 星に願いを(When You Wish Upon A Star)
- 上を向いて歩こう
- Lazy Afternoon
- Sweet Memories
- 雨に歌えば(Singin' In The Rain)
- Goodnight
独りアカペラ・コーラスとなると山下達郎ですが、アカペラ・グループの走りと言えばこの人たちでしょう(しかも歌うだけでなく、楽器もやるし、作詞作曲もする)。
私はひとえに(4)がほしくて買ったのですが、意外に良かったのが(2)でした。
この人たちはこの手の試みをかなりたくさんやっていて、私はこのアルバムしか持っていないのですが、その後もトータル・カバー・アルバムとして『DEVOTION』(1999年)、『ALWAYS』(2008年)などを発表しています。
特筆すべき選曲としては、『DEVOTION』では『大きな古時計』を、『ALWAYS』ではムーンライダーズの『あの娘のラブレター』を採り上げているところかと思います。
ちなみに上記ちあきなおみまでが LP、このスタレビからが CD でした。
さて、Jポップ満開の80年代後半にも次々とカバー・アルバムは発売されています。私が次に買ったのはこれです。
『POP TRACKS』EPO(1987年)
- 三番目の幸せ
- いつか
- セクシー・バス・ストップ
- さよならは2Bの鉛筆
- 夢見ちゃいなタウン
- TRY TO CALL
- 12月の雨
- いとしのエリー
- LOVIN' YOU
多分廃盤になっていると思います。曲名を聞いてもピンとこない作品も多いですが、私が聴きたかったのは(3)。歌手・浅野ゆう子の大ヒット曲が甦りました。
それから(8)。サザンの名曲中の名曲。この曲もレイ・チャールズをはじめたくさんの人がカバーしていますが、しっかりと EPO のテイストになっていると思います。
続いて80年代の最後はこれ。
『ナツメロ』小泉今日子(1988年)
- 学園天国
- S・O・S
- お出かけコンセプト
- 赤頭巾ちゃん御用心
- レディセヴンティーン
- 尻取りロックンロール
- 恋はベンチシート
- やさしい悪魔
- Soppo
- 赤ずきんちゃん御用心
- 夢見る16才
- バンプ天国
- アクビ娘
- みかん色の恋
これはキョンキョン全盛期ということもあり、ビッグ・セールスになりました。いやあ、このアルバムは楽しいです。
フィンガー5(1)やピンクレディ(2)、キャンディーズ(8)などのメガヒットはともかくとして、レイジー(4)、ジューシー・フルーツ(7)、ずうとるび(14)を選ぶあたり、抜群のセンスです。アニメ『ハクション大魔王』のエンディング・テーマ(13)も良いところに目をつけました。
90年代に入るとこんなのもありました。
『うたの引力実験室』チャカと昆虫採集(1991年)
- ひまわり娘
- バスストップ
- ハッピー・トーク
- アイスクリームの唄
- 地球はメリーゴーランド
- グッド・ナイト,スリープ・タイト・メドレー
- 春の唄
- 赤いサラファン
- ベンのテーマ
- スウィート・メモリーズ
- 明日があるさ
- 街の灯
- 大きな古時計
ともかく(1)と(2)が光ってるでしょ? 伊藤咲子と平浩二の名曲! 発売当時から大好きでした。
チャカと言っても馴染みのない人もいるだろうから書いておくと、松浦雅也と2人でPSY・S(サイズ)というユニットを組んでいた女性で、彼女が楠瀬誠志郎らと実験的に組んでいたのがこの"昆虫採集"でした。
「おとぎばなしの王子でも昔はとても食べられない…」の(4)とか「ラララ紅い花束車に積んで…」の(7)とか、ものすごく懐かしい曲があります。松田聖子(10)や堺正章(12)もあります。
で、最後に入っているのが『大きな古時計』。これは上に書いたようにスタレビの1999年発売の『DEVOTION』にも収められています。平井堅が2001年にヒットさせたのは決して唐突ではなく、今までも広く愛され何度もカバーされてきた曲だということが分かります。
1991年発売のアルバムをあといくつか。
『COME AGAIN』SANDII(1991年)
- 蘇州夜曲
- SURIRAM
- TE CHÉAIA À JAMAIS
- IKAN KÉKEK
- SUKIYAKI
- 花
- SURIRAM
- TE CHÉAIA A JAMAIS
- IKAN KÉKEK
- U DON'T CARE
このアルバムも廃盤のようです。サンディーはカバーアルバムを数多く出しています。主にハワイアン/ポリネシアンが中心ですが、この当時は東南アジアから沖縄あたりにかけての曲をよく採っていました。
夫君・久保田麻琴を通じて(だろうと思うのですが)ディック・リーとの親交もあり、お互いに似た曲を演ってました。
(5)もそうです。この曲はこの後のブレイヴ・コンボのアルバムにも収められていますが、私は一時『上を向いて歩こう』のカバー集めに熱中していた時期がありました。さすがに日本を代表するポップスだけあっていろんな人がカバーしています。
しかし、私がサンディーのこのアルバムをほしかったのは何と言っても(1)のせいです。私はこれは日本の歌謡史に残る名曲だと思っています。このアルバムにおけるアレンジも素晴らしいと思います。
この曲はサンディーのお母さんが亡くなる間際にサンディーにリクエストしたという、彼女にとっての思い出の曲らしくて、アルバム『Pacific Lounge Classics』にも収められています(タイトルは『Soshu Yakyoku』になってますが)。こちらもルネ・パウロのピアノと、ザ・ナショナル・オペラ&バレエ・オブ・チャイナのストリングスが素晴らしく、まさに絶品の仕上がりです。
それから(6)に喜納照吉とチャンプルーズの『花』が入っていますが、これは後述するおおたか静流のほうが先です。
さて、次は皆さん、きっとご存じないでしょう。ブレイヴ・コンボというバンドです。
『ええじやないか』ブレイヴ・コンボ(1991年)
- 青い山脈(Blue Mountain)
- アキラのええじゃないか
- カスタネット・タンゴ
- スキヤキ・トゥイスト
- ダイナ
- スキヤキ・トゥイスト(カラオケ)
このアルバムは笑えます。もう最高傑作! 音楽のジャンルとしては "ポルカ" です。んで、メンバーは日本人じゃないです。外国のバンド。何人だかよく分からない(笑)
その外国人が意味不明の日本語の書かれたはっぴや鉢巻きを着用して、カタコトの日本語で、ポルカのリズムに乗って、日本のナツメロを歌うんです!
1曲めはなんせ服部良一先生の『青い山脈』ですから。んで(2)の "アキラ" は小林旭です。それからツイスト・バージョンの『上を向いて歩こう』があって、酔っぱらいが歌う『ダイナ』があります。もう、解説読んでるだけで笑けてきそうです。
さて、1991年と言えばおおたか静流(しずる)の『リピートパフォーマンス』が出た年です。このカバー・アルバムのシリーズは vol.5 まで出ましたが、私が持っているのは初めの3枚です。
『リピート・パフォーマンスI』おおたか静流(1992年)
- マンジュシャゲ
- ブンガワンソロ
- 林檎の木の下で
- アカシアの雨がやむとき
- 夜来香
- 悲しくてやりきれない
- じんじろげ
- ゴンドラの唄
- ウスクダラ
- 花(すべての人の心に花を)
- 流れのままに
おおたか静流と言えば何と言っても(10)の『花』でしょう。喜納照吉のオリジナルも買って持ってましたが、富士フィルムの CM で女性の声でこの曲が流れて来た時に強い衝撃を受け、「これは一体誰なんだ?」と調べ回ったらおおたか静でした。
今でこそ元ちとせをはじめ何人かいますが、当時は琉球唱法を身に付けた歌手はほとんどいなかったのではないでしょうか。
『蘇州夜曲』『桑港のチャイナ街』と並ぶチャイニーズ歌謡名曲の(5)とか、拓郎もカバーした(6)とか、日本最初の流行歌と言われる(8)とか、ムーンライダーズもカバーした(9)とか、非常に多彩な選曲ですが、このアルバムは『花』に尽きます。
91年1月に発売になった時、飛びつくようにして買いました。そして、その後も私はこのシリーズを買い続けたのでした。
『リピート・パフォーマンスII』おおたか静流(1993年)
- 水源(みなもと)~ホエア・トゥ・ビギン
- みんな夢の中
- 月がとっても青いから
- 夏の日の想い出
- 蘇州夜曲
- 安里屋ユンタ
- 戦争は知らない
- あんまりあなたがすきなので
- 何日君再来
- 風に抱かれて~レインボウズ・ハイ
ここでも『蘇州夜曲』が出てきました。それ以外でも高田恭子の(2)とか、日野てる子の(4)とか、しばらく忘れられていた、とっても素敵な選曲です。
『リピートパフォーマンスIII』おおたか静流(1995年)
- 鎮魂詠歌
- 上を向いて歩こう
- 真赤な太陽
- 野ばら
- 花・太陽・雨
- 星屑の町
- 天国と地獄
- ちいさい秋みつけた
- いとしのエリー
- 愛は降る
ここでは "SUKIYAKI"(2)です。そして美空ひばりの(3)、ポスト GS時代の幻の名グループ PYG のデビュー曲(5)、そして童謡の(8)があって、サザンの(9)へと続きます。
その後『リピート・パフォーマンスIV』が1998年に、『REPEAT PERFORMANCE V』が2005年に出ましたが、外国曲が増えて来たので私は買うのをやめた次第です。
大物シンガー・ソングライターのカバーアルバムではこんなのを持っています。
『SUPER FOLK SONG』矢野顕子(1992年)
- スーパー・フォーク・ソング
- 大寒町
- サムデイ
- 横顔
- 夏が終る
- ハウ・キャン・アイ・ビー・シュア
- モア・アンド・モア・アモール
- スプリンクラー
- おおパリ
- それだけでうれしい
- 塀の上で
- 中央線
- プレイヤー
これは廃盤にはなっていないようです。とても良いアルバムですから。
矢野顕子の超絶センス&テクニックのピアノの弾き語りが脳と心に沁みてきます。デビュー・アルバムにも変拍子の『丘を越えて』が収められていたように、良いものは屈託なく採り込んで行くのが矢野顕子の魅力の一つです。
このアルバムにおける白眉ははちみつぱいの(11)と宮沢和史(THE BOOM)の(12)。あと矢野顕子が佐野元春(3)を歌うなんてとても意外でした。
それから、これはどうじゃ。
『イミテーション・ゴールド』あがた森魚(1993年)
- 星のフラメンコ
- 恋のバカンス
- さらばシベリア鉄道
- 禁区
- りんご園のロボットさん(THE ROBOTS)(りんご追分入り)
- 天使の誘惑
- 君のひたいに光る汗
- 白銀はまねくよ
- サイレント・イヴ
- 夜明けのうた
- 丘を越えて
大好きなんですよ、あがた森魚。この良さは筆舌に尽くしがたい。真の意味での "抒情派" だと思います。
選曲の多彩さ(時代もジャンルも)。音の多国籍ぶり。アレンジャーは細野晴臣、白井良明、高浪敬太郎ほか。この名前を見ただけでも垂涎ものでしょ?
ちなみに、山口百恵の『イミテーション・ゴールド』は入っていないので要注意(笑)
そして、21世紀に入ってすぐに次の2枚組名盤が出ました。
『唄ひ手冥利~其の壱~』椎名林檎(2002年)
ディスク:1
- 灰色の瞳 (with 草野マサムネ)
- more
- 小さな木の実
- I WANNA BE LOVED BY YOU
- 白い小鳩
- LOVE IS BLIND
- 木綿のハンカチーフ (with 松崎ナオ)
- YER BLUES
- 野薔薇
ディスク:2
- 君を愛す
- jazz a go go
- 枯葉
- I won't last a day without you (with 宇多田ヒカル)
- 黒いオルフェ
- Mr. Wonderful
- 玉葱のハッピーソング (with 椎名純平)
- starting over
- 子守唄
亀田誠治プロデュースの<亀pact disc>と森俊之がアレンジを担当する<森pact disc>の2枚組です。草野マサムネ、宇多田ヒカルって、何その豪華ゲスト!
私は CDショップでディスク2のジョン・レノンの(8)を耳にして即買いしました。ディスク1の朱里エイコ(5)なんて、どこからこんな忘れられた名曲を掘り起こしてきたのかと思います。しかもこれが素晴らしい! 聴いていて震えが来るぐらい。この1曲だけでも買う値打ちがあると思います。
さて、かなり疲れてきましたが、まだあと何枚か紹介しておきます。
『The Golden Oldies』福山雅治(2002年)
- 青春の影
- ファイト!
- 飾りじゃないのよ涙は
- 秋桜
- ルビーの指環
- 雨のバス
- ラスト・ダンスは私に
- お嫁においで
- プカプカ
- ケンとメリー〜愛と風のように〜
- 勝手にしやがれ
- ロックンロールの真最中
- 浅草キッド
- おでこにキッス
- タイムマシンにおねがい
- そして僕は途方に暮れる
これは選曲のセンスの良さが光ります。忘れてはいけない曲をたくさん集めてくれています。
1曲目、バッハの『G線上のアリア』がオルガンで流れてきて、誰もがこれはプロコル・ハルムの『青い影』かと思うとチューリップの名曲でした。秀逸なアイデアです。
いずれの曲もあまり厚い音のアレンジにはなっていませんが、それが良いんです。沁みてきます。アレンジは多彩です。
そして、その2年後に変なアルバムが出ました。
『ミスゴブリンのおとみさん』ミスゴブリン(2004年)
- ミスゴブリン・ジングルNO.5 ~美しき天然
- おとみさん / TOMMY
- ミスゴブリン・エンターテイメント・レビュー オープニング
- 恋は気分
- 哀愁駅員 ~恋のアナウンス~
- 哀愁列車
- 月影のランデヴー
- ソープシアター「ラストオーダーをあなたに」
- さよならはダンスの後に
- ミスゴブリン・プチレビュー ~嘆きのボンジュール~
- 憧れのハワイ航路
これもかなり面白いです。なんと言うかディスコ/ハウスっぽいお笑い昭和歌謡。ラジオから(2)が聞こえてきて、探して即買いでした。春日八郎(2)とか三橋美智也(6)とか岡晴夫(11)とかいう大ナツメロで一生懸命遊んでいるところが秀逸です。
んで、なんだか分からんけど、聴いてると乗ってくるんです。いや、ホントに。プロデュースが高浪敬太郎だと言えば、その感じがお解りいただけるでしょうか。
続いてこれ。
『ワンスモア』the Indigo(2006年)
- そして僕は途方に暮れる
- 赤い風船
- 情熱の薔薇
- 眠れぬ夜
- HELLO, MY FRIEND
- 不思議なピーチパイ
- MY GIRL
- やつらの足音のバラード
- 天使のウィンク
the Indigo ──大好きなデュオです。過小評価されているバンドだと思います。
彼らは2002年にまず洋楽カバーの『My Fair Melodies』を出します。"FEEL LIKE MAKIN' LOVE" とか "PERFECT" とか "LOVIN' YOU" とか、いかにも the Indigo らしいと言うか、逆に彼らのルーツは奈辺にあるかが窺えるような選曲でした。
そして、2004年には続編『My Fair Melodies 2』を発売します。今度は "Satisfaction" とか『名前のない馬』とか凡そ彼らのイメージからは遠い曲を、逆にいかにも彼ららしいアレンジで聴かせてくれました。
そして、その2年後に出たのがこのアルバムです。
多くの歌手がカバーしている大沢誉志幸の(1)、もう一度聞きたいけどできれば浅田美代子では聞きたくない(2)、The Blue Hearts の名曲(3)、オフコース初期の傑作(4)、そして一番凄いのがかまやつひろしの(8)。こんな地味な、でも良い曲、どこから見つけて来たのか不思議。
それから、これ全然知らない曲だったんですが(7)がなんか素晴らしく良いです。調べてみたら E-ZEE BAND というグループの作品らしいんですが、ポップで、コーラスの絡み方も心地良くて、良い仕上がりです。
田岡美樹の声がとても魅力的で、市川裕一のアレンジも原曲の魅力を消してしまわずに、かといってただなぞるだけには終始せず、よく頑張っています。好感のもてるアルバムと言えるでしょう。
さらに、もう一枚。
『東京ハワイ』Alani Ohana Band(2007年)
- Opening
- 銀座カンカン娘
- 天使の誘惑
- 木綿のハンカチーフ
- 喝采
- お嫁においで
- 瀬戸の花嫁
- 黄色いさくらんぼ
- ジョニイへの伝言
- 東京ブギウギ
- Vacation
- 17才
- 憧れのハワイ航路
- 見上げてごらん夜の星を
- 「ダイスケの悩み」メイン・テーマ(Long Version)
- WAIKIKI 〈BONUS TRACK〉
山内雄喜率いる Alani Ohana Band による昭和歌謡×ハワイアン。ボーカリスト MEG の透き通った伸びのある声に山内雄喜のスチール・ギターとキヨシ小林のウクレレが絡んできます。
良いですよ、このゆったりしたカバー。スロー・ロッカバラードになった加山雄三(6)とかジャズ・ビートでの小柳ルミ子(7)なんてその最たるもの。なんと言っても選曲のセンスが抜群ですね。
さて、2008年にはこんな音源が復刻されています。
『小山ルミ&ドラム・ドラム・ドラム』小山ルミ(2008年)
- ザ・スネーク
- 恋の追跡
- あの人はいま札幌
- フレンズ
- 裁かれる女
- 夜明けの太陽
- 愛するハーモニー
- 北国行きで
- ふたりは若かった
- 今日からひとり
- 許されない愛
- 孤独の街角
これは1972年6月2日にアポロンから8トラックのカートリッジ・テープとしてのみリリースされた小山ルミのアルバム『小山ルミ&ドラム・ドラム・ドラム』を全曲デジタル・リマスター。アート・ワークを新装して紙ジャケット仕様で復刻したものでした。
高護(こう・まもる)氏の仕事です。ソリッドレコードです。すごいですね、この目利き。どこからこんなものを発掘してきたんでしょう、と言うより、多分発売の時から知ってたんですよね、そして買って持ってたんでしょうね、高護氏は。
タイトルに偽りなく、まずドラム・ドラム・ドラム!です。それに次ぐ印象としてはベース・ベース・ベース! 正調ロック歌謡です! とにかく選曲がシブイ!ですね。そして、敢えて定番ヒットは避けてあります。
欧陽菲菲の『雨の御堂筋』でも『雨のエアポート』でもない(2)。平山三紀の『真夏の出来事』ではなく(4)。(8)こそ朱里エイコの代表曲ですが、(9)は尾崎紀世彦の4番目のヒット曲です(この曲は私も大好きでした)。(11)はジュリーこと沢田研二がザ・タイガース、PYG を辞めてソロになっての第2弾です、等々。
ともかくアレンジも時代掛かって凄いし、歌も凄い。惜しむらくは、小山ルミという人が多分器用だからなんでしょうが、彼女が(4)を歌うと平山三紀に、(8)を歌うと朱里エイコになってしまうということです。
でも、良いアルバムです。そして、次はこのアルバム。
『KABA』UA(2010年)
- モンスター
- 夜空の誓い
- きっと言える
- 買い物ブギ
- セーラー服と機関銃
- Day Dreaming
- Under The Bridge
- Paper Bag
- 私の赤ちゃん
- Hyperballad
- Love Theme From Spartacus
- 蘇州夜曲
- No Surprises
- 妖怪にご用心
- tru-ru-shi
盤面にカバの絵まで描いてありますが、KABA とはカバーです(笑) このアルバムは何と言ってもアレンジが強烈にすごいです。圧倒的に斬新です。その不思議なコード進行に乗せて UA の存在感溢れる歌唱が走ります。
子どもたちに受けたピンクレディの(1)がギレルモ・デル・トロの映画に出てきそうなモンスターに大変身します。笠置シズ子の(4)もよくカバーされる曲ですが、私は UA のこのバージョンが一番好きです。このリズム・セクション!
そして極め付きが薬師丸ひろ子の(5)。この不思議なサウンドが脳内から出て行きません。こういうのを気持ち悪いと言う人もいるのかもしれませんが、これこそ知的な遊び。快感です!
そしてこのページで何度も何度も登場する渡辺はま子の(12)。服部良一作のこのナンバーが如何に名曲かが分かるというもの。ここではおとなしめのアレンジでしっとりと歌われています。
その翌年にはこのアルバムが出ています。
『大人のまじめなカバーシリーズ』安藤裕子(2011年)
- ジ・アザー・サイド・オブ・ライフ
- 林檎殺人事件 feat.池田貴史
- セシルはセシル
- 君は 1000%
- 君に胸キュン。 -浮気なヴァカンス-
- ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ
- 春咲小紅
- Woman -Wの悲劇より-
- 松田の子守唄
- ワールズエンド・スーパーノヴァ
- ぼくらが旅に出る理由
- ワールズエンド・スーパーノヴァ live ver 〈BONUS TRACK〉
私は安藤裕子という歌手についてはあまり詳しくないのですが、普段からカバーを手掛けてきた彼女が、その7年間の軌跡をまとめたアルバムなのだそうです。
長らく安藤裕子をサポートしてきた山本隆二ほとんどの曲をがアレンジしています。特にジャズっぽい4ビートにアレンジした1986オメガトライブ(4)が良いです。単なる恋の歌ではなく儚く切実な感じが増しています。
他にも、ベースがカッコいい鹿取洋子(6)、ピアノのコード感を前面に出した矢野顕子(7)など、選曲もアレンジも秀逸です。東京スカパラダイスオーケストラの茂木欽一とのデュエットである小沢健二(11)も素晴らしいです。曲調がそのまま(12)のくるりに繋がっています。
さて、この辺りから昭和の歌に目をつけた企画が出てきます。
『昭和の歌よ、ありがとう』泉谷しげる(2013年)
- 黒の舟唄(泉谷しげる&大竹しのぶ)
- 涙のかわくまで(泉谷しげる&カルメン・マキ)
- ヨイトマケの唄(泉谷しげる&佐々木秀実)
- 花 ~すべての人の心に花を~(泉谷しげる&手嶌葵)
- ざんげの値打ちもない(泉谷しげる&クミコ)
- 生きてるって言ってみろ(泉谷しげる&中村中)
- 悲しくてやりきれない(泉谷しげる&森高千里)
- 胸が痛い(泉谷しげる&夏木マリ)
- 夜につまづき(泉谷しげる&八代亜紀)
- 見上げてごらん夜の星を(泉谷しげる&夏川りみ)
見ての通り、これは昭和の歌を泉谷が女性たちとデュエットしたアルバムです。ここでは泉谷しげるは決して悪ノリはしていませんが、それでもなんとなく中小企業のおっさん社長がホステスの姉ちゃんとカラオケやってるみたいな感じがします(笑) でも、選曲は斬新です。
野坂昭如の名曲(1)を大竹しのぶと朗々と歌い、いしだあゆみの名曲(2)はなんとカルメン・マキと。北原ミレイの代表的ヒット(5)があるかと思えば、唐突に東北フォークの友川かずき(6)が出てきてびっくりします。
サウンド的にはそれほど面白いアルバムではありませんが、フォーク・ロック歌手として心から敬愛する泉谷しげるの作品なので取り上げておきました。
少し時代が飛んで、最後に昨年の大ヒット作。
『ROMANCE』宮本浩次(2020年)
- あなた
- 異邦人
- 二人でお酒を
- 化粧
- ロマンス
- 赤いスイートピー
- 木綿のハンカチーフ-ROMANCE mix-
- 喝采
- ジョニィへの伝言
- 白いパラソル
- 恋人がサンタクロース
- First Love
カバー・マニアの私はこのアルバムも当然早い時期に聴いてはみたのですが、なんか選曲が良いだけという気がして、とりあえず初回限定盤は見送りました。
でも、世間の評判は良いし、自分で聴いて良くないと思ったくせにいつまでも気になります。それで何ヶ月か経ってもう一度聴き直してみました。その結果が、「やっぱり買おう」という決断でした。
確かにアレンジにそれほどの新味はありませんが、随所にラインクリシェをあしらったり、ハーモニーを重ねたりするなどの細かい工夫はあって、安定したアレンジです。
そして、宮本浩次の歌の力! 改めて調べてみたらNHK東京児童合唱団出身だと言うから驚きました。限界ギリギリのハイトーンがすごいです。ひょっとしたら、これ、全部原曲のキーで歌ってます?
そして、何度聴いてもやっぱり選曲が素晴らしいのです。
全て女性歌手の歌です。小坂明子(1)や岩崎宏美(5)、松田聖子(6)など、およそ男が歌うような歌ではありません。それをなんと切実に彼は歌っていることでしょう。
宇多田ヒカル(12)まで聴き終えたら、誇張でも何でもなく、涙が出そうになりました。ひたむきな感じがぐいぐい迫るように伝わって来るアルバムでした。
さて、以上が私が生涯かけて集めた日本の秀作カバー・バージョン・アルバムです。如何でしょうか? 皆さんのご参考になりましたでしょうか?
これ以外にもたくさんの名作カバーアルバムがあり、皆さん一人ひとりがお気に入りの作品をお持ちかと思うのですが、もしも私が今回選んだ作品のうちのひとつでもそれに加わるようなことになれば嬉しい限りです。
(この文章はかつて自分のホームページに載せていたものに書き足したものです。掲載した時期以降の作品について触れ、文章を推敲して、ここに転載しました)
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