下手になったベテラン歌手
【8月2日 記】 若かった頃に大好きだった歌手が年老いて下手になった歌を聴くのは大変辛いものだ。最近それを痛感する。
もちろんそういうことは昔から何度も繰り返されてきたことなのだろうけれど、しかし、自分が小さい頃に聞いた年老いた歌手たちについては、例外なく若い頃を全く知らない人たちだったから、何のショックもなかったのである。
ところが、最近「ああ、この人、なんでこんなに歌が下手になっちゃったのかな」と思うのは、自分が若かった頃のスーパースターだったりスーパーアイドルだったりするわけだ。その落差は如実に痛々しい。具体名を何人か挙げれば大いに納得してもらえると思うのだが、もっと悲しい気分になりそうなのでやっぱりやめておく。
現象としては、まずは声量が落ちる。音程が悪くなる。リズム感がなくなる。張りのあるロングトーンがあんなに気持ちよかった人がどうしてこんな発声になってしまうのか、聴いていてこちらが苦しくなってしまう。
昔からあまり巧くなかった人が年のせいでさらに巧くなくなるのはある程度仕方がない。仕方がないとは言え、昔から低かったレベルがさらに低くなると、もはや聴くに耐えなくなる。その点、抜群に巧かった人は少し下手になってもまだ聴けそうなものだが、しかし、昔巧かっただけにそのギャップは印象を膨張させてしまい、こちらのほうがむしろ痛々しく感じてしまうのである。
どうしてこんなに下手糞になってしまったのにまだ歌うのだろう? もちろん生活のためということもあるだろうが、それにしても自分の実力がどれくらい落ちてしまっているのか、この人たちはちゃんと把握できているのだろうか?と不審に思う。
ひょっとしたら自分では気づいていないのかもしれない。年を取れば耳だって悪くなるだろう。日常生活には支障をきたさなくても、プロの歌手として自分の声をモニターしながら音程を維持するには少なからず影響があるのかもしれない。
あるいは自分でも声が出ないなとうっすら気がついてはいるものの、それが一般聴衆の耳にどんな音で届いているかが正確に把握できていないのかもしれない。自分の想像を超えて実力が減衰してしまっているのである。
あるいは、過去の栄光が、現在のそんな自分を認めさせまいとするのかもしれない。
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