【5月16日 記】 note に文藝春秋の「本の話」というアカウントがあります。多分、これ書いているのは僕の知人(twitter で知り合って、何回か会ったこともある)の女性ではないかと思うのですが、twitter にも同じアカウントがあって、そのツイートで「本で元気に! 文春文庫人気シリーズ 期間限定1話無料公開中」という企画があるのを知りました。
リンクを辿って見に行くと、そこにあったのは三浦しをんの『まほろ駅前多田便利軒』の「多田便利軒、繁盛中」でした。てっきり冒頭だけ公開して本の購入ページに飛ばされでもするのかと思っていたら、なんと第1話がまるまる読めるじゃないですか。
あっという間に読んでしまいました。で、気がついたらこれは第2弾で、第1弾では伊坂幸太郎の『死神の精度』から同名の第1話が公開されていて、こちらも一気に読んでしまいました。

コロナで引きこもっている人たちへのサービスなのでしょうが、これはなんとありがたい企画でしょう。
僕にとっては人選がとても良かったです。2人とも全く読んだことのない作家ではなく、かと言って大好きで追っかけている作家でもなく、決して嫌いではないけれど、でも、のめり込んではおらず、まあ、今回のようなチャンスがあると読んでしまうし、読んで面白いと思える作家と作品だったからです。
『まほろ駅前多田便利軒』のほうは大森立嗣監督が撮った映画2本を観ていたこともあって、多田が出てくると瑛太の、行天が話し出すと松田龍平の顔が浮かんできます。で、あの映画を見たときの映画評に、僕は随分不思議なトーンだということを書いたのですが、原作を読んでみて、ああ、あれは原作から映画まで地続きのトーンだったんだと気づきました。
小説の冒頭も、便利屋の多田が預かった子犬の姿を見失って探し回っていると、バス停で他ならぬそのチワワを抱いて座っている、高校の同級生・行天を見つける──という映画と同じシーンだったので、何を読んでも何を観てもすぐに忘れてしまうこの僕にしては珍しく、記憶が甦ってきました。
そうか、大森監督の映画は三浦しをんの小説そのままだったんだ、と何だか妙に嬉しくなってしまいました。
改めて思ったのは、三浦しをんって、巧い書き手ですね。凝った表現ができるかどうかということではなく、読み手に書き手の存在を全く意識させることなく、読み手を物語の世界に導き出してくれます。これでこそ作家だなあという感じ。
このシリーズを一から読んでみるのも良いかもしれません。
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