Friday, February 16, 2024

『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈(書評)

【2月16日 記】 『成瀬は天下を取りにいく』の続編である。とにもかくにも前作を読んで僕は成瀬あかりに心酔してしまったのである。

前作では中学2年から大学受験を控えた高校時代までの成瀬あかりが描かれていた。

作者の宮島未奈が京大卒なので、きっと成瀬も京大に行くのだろうと思っていたら、今作では大学受験の少し前から始まり、果たして成瀬は京大生になった。京大生になったが成瀬は何も変わらない。

ただ、僕らは前作で成瀬の突拍子もない行動をとことん満喫してきたので、今作で成瀬がびわ湖大津観光大使に応募しようが、フレンドマートのレジのバイトをしようが、京大受験の日に見ず知らずの男子学生を拾って来ようが、あるいは紅白歌合戦に出場しようが、残念ながら前作ほどのインパクトがないのは確かではある。

また、前作での M-1グランプリに出るとか、高校在学中は髪の毛を切らないといった奇行と比べると今作のエピソードは少し穏やかでもある。

ま、成瀬も少しずつ大人になってきたということだろう。

ただ、その人柄は相変わらずとんでもなく魅力的なのである。ぶっ飛んでいる一方で常識をわきまえており、ぶっきらぼうなようで優しさに満ち溢れている。

僕は小説に教訓を求めたりするのは大っ嫌いだが、でも、ひょっとして「私はどうして皆と違うんだろう?」みたいなことで悩んでいる若い人が読んだら、「皆と違ってたって構わないんだ!」と勇気を持って言えるようになるかもしれない。

いや、この小説はそんなところに留まらない。「皆と違ってたって構わない」んじゃなくて、一人ひとりが違うってことはこんなにステキなことなんだ! その個性の違いをお互い尊重して生きることはこんなに心地良いことなんだ!──と、身に沁みて思うと思う。

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Sunday, February 04, 2024

『テレビ局再編』根岸豊明(書評)

【2月4日 記】 僕は放送局員としての最後の十余年をテレビとインターネットの結合に心血を注いできたつもりだ。この本はそんな僕の同志が書いたのかもしれないと思って読んだのだが、「なーんだ、”あっち側”の人か」とがっかりした──というのが偽らざる感想である。

読み始めてすぐに、テレビと YouTube(著者はこれを「ユーチューブ」と仮名書きにしている)が提携し始めたことに関して

いまでもあれは、「トロイの木馬」ではなかったかと思うことがある。

という記述にぶつかってげっそりした。所詮はそういう見方しかできない人か…。

NHKプラスの開始に関しても

私たち民放は、NHKが行うネット事業に危機感を募らせ、こう批判した。

といった表現がある。ああ、そっち側の陣営の人ね、という感じである。

結局、携帯ユーザーたちが求めていたものは、携帯でテレビを視ることではなく、ネットを通じて世界とつながることだった。(中略)その変化に対する感性が、私たち関係者にはなかった。それゆえに「NOTTV」はうまくいかなかったのだろうと今にして思う。

などとも書いている。所詮はその程度の御仁なのである。そのくせ当時は自らを「デジタル・マフィア」などと称してカッコつけていた一味なのである。

(日テレの)氏家会長の考えに私たちは全く納得していた。

とか、亡くなった安倍首相について

ここに衷心より哀悼の意を表したい。

とか、そんなことここに書く必要があるんかいな、とムカッ腹が立ってきた。

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Wednesday, January 31, 2024

三宅香帆の記憶力

【1月31日 記】 最近僕は三宅香帆のことばかり書いているが、また彼女の記事を読んで感心してしまった。

先日読んだのは note で『ゴールデンカムイ』(原作漫画と実写映画)を夏目漱石の『こころ』と対比して、いずれも「生き残った者の罪悪感を描いた物語」であると総括した記事(有料)である。

この読解力、分析力はすごいと思う。

その読み込む力をすごいと思うのも確かだが、しかし、僕にはできないなと思う一番の理由は、度々書いているように、僕は読んだもの、観たものをいつまでもはっきりと憶えていないということだ。

『ゴールデンカムイ』はさすがに映画を見た直後だからまだいろんなことを思い出せるが、例えば『こころ』となると(僕は少なくとも2回読んでいるはずだが)非常に心許ない。

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Monday, January 22, 2024

『チーム・オルタナティブの冒険』宇野常寛(書評)

【1月22日 記】 僕は評論家・宇野常寛に結構共感する部分が多い。彼が小説を発表するのは多分これが初めてではないかなと思うのだが、しかし、これを発表するのは勇気が要っただろうなと思う。

何故ならこれを読んで「いろんな有名作家の作品をあれだけ酷評してるからどんな素晴らしい小説を書くのかと思ったら、なんだこんなクソみたいなものを書いたのか」と言われるのが目に見えているからだ。

いや、これを読んでそう言うというより、そう言うために、そんな風に言いたいがために、そう言うことを前提に読む奴が必ずいるだろうと思う。

しかし、僕が思うに、彼は決していろんな作家や作品(小説だけでなく映像作品も)をディスっているのではなく、作者を非難しているわけでも断罪しているわけでもなく、常にその背後にある時代性を批評しているのである。

しかし、そういうことを全く理解できずに感情的になって宇野につっかかってくる読者がいる。彼の著書の中にはそういう読者に対する苛立ちがときどきはっきりと顔を出している。

それを思うと、よくこの本を出したなあ、というよりは、彼は一体どんな心境でこの本を出したのかなと思う。

主人公の僕(森本)は地方都市に暮らす高校生だ。ちょっと斜に構えて、想像力が欠如したまま凡庸な人生を送っている大人たちを、そして、やがてそうなりそうな同級生たちをも軽蔑して、ごく少数の仲間たちとつるんでいた。

そんな彼を理解して何かと目をかけてくれていた葉山千夏子先生が突然死んでしまう。自殺だったとのことだ。そして、そのあとしばらくして、彼とはお互いに一目置き合ってつるんでいた同級生の藤川も失踪してしまう。

この小説の前半はそんな風に進行する。

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Wednesday, January 10, 2024

『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』宗像明将(書評)

【1月10日 記】 これはムーンライダーズのファン/マニアにはたまらない本だ。逆に言うと、ムーンライダーズのファン/マニアでなければ面白くもなんともない本だ。

ムーンライダーズのファンではあるけれどマニアでない人は少ないと思う。彼らのアルバムを 5~6枚だけ持っている人は少ないはずだ。

「1枚聴いてみたけど好きな感じの音楽じゃなかった」とか、「1枚買って良かったから 2枚目を買ったが、それはあまりピンとこなかったのでそれっきりになった」とかいう人はいるだろう。しかし、3枚、4枚と買って気に入ってしまったら今度は全部ほしくなるはずだ。

僕は彼らのアルバムを全部持っているわけではない。つまり、ベスト・アルバムやライブ・アルバム、それにメンバーそれぞれのソロ・ワークやユニットとしてのアルバム、そして他のメンバーと組んだ他のグループの作品を全部取り揃えているわけではない。だが、少なくともムーンライダーズとしてのスタジオ録音のオリジナル・アルバムについては全部持っている。

アルバムが出るたびに毎回毎回傾向が違っていて、しかもそれぞれにこれだけ強い印象が残ると、どうしてもアルバムが出るたびに買い揃えてしまうマニアになってしまうのである。

彼らの作品に『マニアの受難』というのがある。僕はこの歌が大好きなのだが、ライダーズのファンになるのはまさにマニアの受難なのである。

この本は鈴木慶一の 72年の生涯を語ったロング・インタビューである。幼少期から現在に至るまでの 70年近くに亘るめちゃくちゃ濃い話が詳細に語られている。その詳細さに鈴木慶一の記憶力のすごさを感じずにはいられない。

聞き手/著者は宗像明将という音楽評論家。僕ははちみつぱいから全部リアルタイムで聴いてきたが、この人は中学時代に『9月の海はクラゲの海』を聞いてファンになったと言うから、そこそこ若いファンである。1998年に『20世紀のムーンライダーズ』(この本は僕も買って読んだ)でライター・デビューしたとある。

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Monday, January 08, 2024

『骨灰』冲方丁(書評)

【1月7日 記】 賞を獲って一躍名を馳せた作家であっても、自分が読まなければ名前をすぐに忘れてしまうものだ。だが、冲方丁については忘れなかった。その名前の漢字の読み方がとても難しかったからだ。

僕は彼の作品を読んだことはなかったが、彼の原作が映画化された『天地明察』は観た。世間ではあまり評判にならなかったが、僕はこの映画をとても高く評価していた。

で、この映画を観たおかげで、僕は彼のことを勝手にこんな作品、つまり時代がいつであれ科学を取り扱う作家だと思っていたのである。

そんな状態で、去年直木賞候補になった『骨灰』を読んでみたら、これは科学とは対極の「祟り」を描いた物語だった。

大手ゼネコンの IR部に勤める松永光弘が twitter に投稿された悪意のあるツイートの真偽を確かめるために降りた、渋谷に建設中の巨大ビルの地下で悪いものを引き込んでしまい、まずは誰も来ていないのに家のチャイムが鳴り、そのあと家には異臭が漂い始め、彼自身も死んだはずの父親に促されてどんどん異常な行動をしてしまうという話である。

となると、これは僕があまり好きな類の小説ではない。そうか、こういう話を書く人だったのか。これはちょっと「しまった!」かもしれないな、と思いながら先を読んだ。

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