『肌馬の系譜』山田詠美(書評)
【12月20日 記】 僕はデビュー当時の山田詠美には何となく反感を覚えていて、その後 20年間は全く読まなかった。それが『風味絶佳』を読んで一気に大ファンになった。
しかし、大ファンになった割には5冊しか読んでいない。そして、例によってどんな登場人物によるどんな話だったのかは、どの本についてもほとんど憶えていない。おぼろげに憶えているのは『風味絶佳』だけで、他の4冊については一切の記憶がない。
ただ、彼女がとても巧い作家であるということと、固定観念から自由な作家であるということだけは脳裏に焼きついている。
この本は『肌馬の系譜』というタイトルに猛烈に惹かれて買った。
僕も、この小説に出てくる多くの人物と同様、「肌馬」という言葉は知らなかった。そして、僕の辞書には「肌馬」という項目はなかった。ネット上の辞書にもなかった。これは雄の「種馬」に対する単語で、種付けされて子供を産む牝馬を指すのだそうだが、競馬用語? それとも、まさか作者の造語?
まあ、それはともかくとして、表題作は冒頭でも巻末でもなく、13篇収められているうちの最後から2つ目に置かれている。
冒頭に据えられたのは『わいせつなおねえさまたちへ』だ。如何にも山田詠美らしいエロい作品で嬉しくなる。
主人公は、祖母が所有するアパートの管理人である小島さんに性的な指南を受ける男の子。2人で覗きをする。この小島の言うことにいちいちポリシーが感じられて愛着が湧く。そして、主人公は覗きをしているから目が綺麗だと褒められるようになったと思っている。
ああ、こういうのは彼女でないと書けないなと思う。
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