Monday, February 15, 2021

『微妙におかしな日本語』神永暁(書評)

【2月14日 記】 2010年に岩波書店から出た『日本語 語感の辞典』は、僕が持っている書籍や辞書の中でひときわ僕の趣味を物語るものである。

文字通り、日本語の語感を書き綴った辞書で、ことばの「意味」ではなく「語感」に分け入っているところが、他には類を見ない、言わばマニア向けの辞書なのである。

いきなり話は逸れてしまったが、『微妙におかしな日本語』はこんな辞書を持っているような人向きの本である。

何年か前の日本語ブーム以来、「日本語のこの表現は間違い。正しくはこちら」みたいな本はたくさん出ているが、この本は、「『日本語のこの表現は間違い。正しくはこちら』みたいなことはよく言われているが、それは本当にそうなのだろうか?」という本なのである。

例を出したほうが早い。例えば「火蓋を切る」と「火蓋を切って落とす」はどちらが正しいか。これは前者が正しくて後者は誤りである。

これはこの本の一番最初に出てくる対比で、しばらくこんな感じの文章が続くのだが、途中から「多くの国語辞典でこの言い方は誤りとしているが、本当にそうだろうか」みたいな例がたくさん出てくる。そして、こちらこそがこの本の真の狙いなのである。

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Thursday, February 11, 2021

『パチンコ』ミン・ジン・リー(書評)

【2月11日 記】 (上下巻を通じての書評です)評判が良い。調べてみると全米図書賞の最終候補にもなった作品だった。でも、僕は最初却々読む気にならなかった。

物語の舞台は日本だから、自分と遠いところの話ではない。でも、同じ土地にいても、それは川を隔てた向こう側から描かれたものであって、自分には共感できないのではないかという思いもあった。

そう、ここで描かれているのは在日コリアンの家族四代の話なのだ。

ところがある日、知人が facebook に上げていた「今年読んだ本」の写真の中央にこの本があるのを見つけ、読書家の彼女に「面白かった?」と聞いてみたところ、「今年度ベスト」との返事を得て、漸く手に入れて読み始めた。

まず言えることは面白いということ。面白くて面白くてやめられないくらい面白い。これは連続ドラマにすると面白いな、と思っていたら、すでに Apple TV がドラマ化したのだとか。

とは言え、最初から面白いかと言えば、決してそうではない。冒頭からしばらくは展開が早すぎるのだ。

展開が早い物語を好む人もいるが、僕はそうではない。展開が早すぎると物語は往々にして薄っぺらくなる。ストーリーを考えるのに汲々としている感じが読者に伝わるのである。

リアリズムは得てして細部に宿っている。例えばこの本で言えば、ソンジャが初恋の人であり金満家のハンスと年月を経て再会したときに、本当にハンスなのかと、思わず彼の足許を見て、ピカピカの白い革靴を確かめる辺り。

人の記憶というものは、抽象的な概念ではなく、具体的な色や形や匂いなどの形をとっていることが多いのだ。

学のないソンジャが必死にハンスの話を理解しようとするときの記述も、如何にもソンジャらしい生活感に塗れた喩えを織り込んであって巧い:

それでも、豚の腸がはち切れそうになるまで詰め物をして腸詰を作るように、彼から聞いた話を頭に詰め込んだ。

イサクが自分の結婚について語るのを聞くとはなしに聞いてしまった女たちの描写も秀逸だ。

下働きの娘ドクヒはどぎまぎして首まで真っ赤になり、姉のボクヒから何を考えているのかといった目でじろりと見られた。台所では、ソンジャが夕食の膳から皿を下ろし、大きな真鍮のたらいの前にしゃがんで洗い物を始めようとしていた。

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Sunday, January 17, 2021

『ある男』平野啓一郎(書評)

【1月17日 記】 前にも書いたが、僕は平野啓一郎に関しては、彼が京大在学中に書いて芥川賞を獲った『日蝕』を読み、そのあまりにペダンティックな文体に辟易して、以来一切読まなかった。

ところが、2018年に『ドーン』を読んで、あまりの面白さに驚いたのと、僕が20年近く平野啓一郎に対して勝手に抱いてきたイメージとのギャップの大きさにもう一度驚いたのである。

そこにはもはや、ちょっと鼻につく文学青年はいなかった。何と言うか、もう“うだうだ書いている”感じがまるでなかったのである。

それで機会があったら他の作品も読んでみようと思っていたのだが、次の作品を選ぶのに2年半以上もかかってしまった(笑)

さて、今回はまた違っていた。『ドーン』のような、近未来SF的な舞台仕立てはない。現代の日本で生きる弁護士の話だ。

冒頭は少しややこしい作りにしていて、小説家である書き手がとあるバーである男と会う。男がそこで自分の結構辛かった過去について語るのを小説家は親身になって聞く。

でも、小説家が彼について書こうと思ったのはその話を聞いたからではなく、その後彼が、実は今の話は全部嘘で、本当は自分は弁護士なのだが、他人になりすまして話をしていたと告白したことが発端だった。

さて、小説ではまずその弁護士の話が始まるのかと思ったら、今度は宮崎で夫の大祐と死に別れた谷口里枝の話になる。彼女にとっては2度目の夫。そして、彼女にとっては3度目の家族の死──父親、前夫との間に生まれた息子、そして再婚した夫。

里枝は幼くして息子を亡くしたのをきっかけに前夫との間がうまく行かなくなり、離婚して長男を引き取って実家の宮崎に帰り、家業の文房具店で働いていた。そして、店にスケッチブックを買いに来た谷口大祐と出会う。

彼はどこからかこの地に流れてきて、今は林業に従事している。

多くを語らず、巧くはないが実直そうな絵を描いている大祐に好意を抱き始めていた里枝は、ある日大祐から「友だちになってほしい」と言われ、そこから二人の交際が始まり、やがて結婚し、女の子が生まれたが、ある日突然、大祐は事故で死んでしまう。

大祐は自分の親兄弟を憎んでおり生前は一切連絡を取りたがらなかったが、さすがに肉親の訃報であるからと、里枝が大祐の兄の恭一に連絡を取ったところ、とんでもないことが判明した。谷口大祐と名乗っていた自分の夫は、実は谷口大祐とは全くの別人だったのだ。

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Thursday, January 14, 2021

『細野晴臣と彼らの時代』門間雄介(書評)

【1月14日 記】 note で最初の章が無料公開されており、読んだらめちゃくちゃ面白くて即 Amazon でポチッとした。

何故そんなに面白いかと言うと、それは当然僕が昔からの細野晴臣のファンだからであり、考えてみれば、断続的にではあるが、もう50年くらい彼の作り出すサウンドを聴いてきたのだ。

実際買ってみると公開されていた章の前にプロローグがあり、それは細野晴臣のファンとして夙に有名な某歌手兼俳優の話で書き起こされており、改めてそのキャッチーな構成に感心したりもした。

でも、このプロローグが、細野晴臣をあまり知らない読者をどれくらい惹きつけるのかは僕には分からない。

僕はさすがにエイプリル・フールは知らなかったが、はっぴいえんどの解散にはなんとか間に合ったという世代である。そこから聴き始めて、一番好きで聴いていたのははっぴいえんど解散後のソロ時代。所謂トロピカル三部作、とりわけ『泰安洋行』である。

YMO が結成されたときには、「あ、細野さん、なんか割とつまらないもんを始めたな」と思ったのをよく憶えているが、世間的には YMO で知って、YMO からファンになった人も多いのだろう。

この本は概ね年代に沿って書かれているが、20世紀時代のパートで言えば、そこに登場する日本のミュージシャンについては、僕はほぼ全員の名前を知っていた。単に名前を知っているだけではなく、作品や演奏スタイルを即座に思い浮かべられるぐらいだ。

さすがに、(僕があまり熱心に聴かなくなった)21世紀の記述に入ってからは名前を記憶していないミュージシャンもちょこちょこ現れたが、でも楽曲名に関しては知っているものも結構あった。

それくらいの長い長いファンだからこそ面白いのだ。あ、あと、僕の卒論のタイトルが『ニュー・ミュージックの新展開』であったというようなことも当然関係がある(笑)

この本の何が面白いかって、それは筆者が8年もかけて細野晴臣にインタビューをし、細野さんの周りの様々な人の話も聞き(残念ながら大瀧詠一はその前に亡くなってしまったが)、膨大な資料と音源を当たって書いているところである。

そして、書いている人が単なるドキュメンタリストではなく、音楽に関する基礎的な知識がしっかりとあり、それを分析する能力もあり、それに加えて人間存在に対する洞察力と理解があるということだ。

以下、僕が読みながら思ったことを箇条書き風に列挙するが、これはこれから読もうとする人にとっては明らかに「過剰書き」になっていると思うので、読むのをやめるのであればここですよと言っておこう(笑)

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