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Friday, June 13, 2025

映画『ドールハウス』

【6月13日 記】  映画『ドールハウス』を観てきた。これはもう、内容がどうとかいうことではなく、ほぼ6年ぶりの矢口史靖監督ということで、居ても立ってもいられなくて見に行ったという感じ。

しかし、今回はホラーと来たか!と驚いたのだが、実はテレビではこれまでに『学校の怪談』シリーズで3作も撮っていたのである。全く知らなかった。

そんな矢口が「知り合いの新人脚本家が書いた」と嘘をついて渡した脚本が映画会社の上のほうまで上がって、「これは一体誰だ!」と大騒ぎになり、最後は誤魔化しきれずに「自分が書いた」と白状したのがこの脚本だと言う。

元々怖いものは好きだったが、この映画を撮るには自分の名前があると邪魔になると思ったからだそうだ。なるほどと思った。

娘を亡くした母親がある日骨董市で日本人形を見つけて魅入られたように買い、そのことによって立ち直り、やがて次女を産み育てるが、そこから人形が呪われた動きをし始め…というような筋であることは予告編を見て知っていた。

冒頭は小さな子どもたちを連れた母親たちが道路の真ん中で集っておしゃべりをしている、いかにも平和な住宅街の図である。おお、そんなところから描き始めて間に合うのかと心配になったが、途中何度か時間を飛ばして辻褄を合わせてきた。

主人公の佳恵を演じたのは長澤まさみ、その夫で病院勤務の看護師である忠彦を瀬戸康史が演じている。

パンフレットを読むと、怖がらせるための仕掛けが随所にあったことが分かるが、でも、全体としては、ホラーとしてそれほど目新しい怖がらせ方があったわけではない。定番の、怖い顔が画面全体に突然アップで映るとか、不吉な感じが漂い始めると、カメラが速くもなく遅くもない速度で人物に寄ってくるとか、そんな感じである。

しかし、扱っているテーマが人形である。人形というのは昔から怖いのだ。特に日本人形は。

僕が幼少の頃、僕の家にもケースに入った日本人形が飾ってあったが、僕は家の中に人形があるのがなんか怖くてずっと嫌だった。

その人形の、当たり前なのだけれど無表情をカメラで映すだけで、僕らの背筋は凍りつく。目も口も動かず、表情が変わらないから余計に怖いのだ。

そして、この映画で特筆すべきは素材としての髪の毛である。

最初の幸せなシーンでは佳恵の髪型はショートである。

自分が買い物に行っている間に、かくれんぼをしていた娘が洗濯乾燥機に閉じ込められて死んだ後は自責の念に駆られて精神がおかしくなってしまうのだが、その時の髪型はもう少し伸びている、と言うより、もう何ヶ月も美容院には行かず伸びるに任せている髪型だ。

それが日本人形を買って実の子どものように“世話”し始めて次第に気分が高揚してくると、またこざっぱりとカットされた髪型に変わる。

やがて、次女を妊娠・出産すると、完全に回復して人形はもういらなくなる。娘も5歳になり、今では佳恵の髪型はロングである。そして、ある日、5歳の次女が収納庫から人形を見つけ出してくるとなんと、佳恵と同じように人形の髪型もロングになっている。

それで佳恵はまた人形を構うようになり、嬉しそうに人形の髪にハサミを入れて、亡くなった長女と同じオカッパにするのである。次女もまたこの人形といつも一緒にいて、お話をするようになる。ゾ~~ッ!

そういう設定に加えて、髪の毛が巻き付いて首を締めるとか、髪の毛が喉の奥に詰まって窒息しそうになるとか、棺桶の蓋に挟まった髪の毛を引っ張られるとか、これは相当怖い。

そして、MRIだ。MRI に霊が写るなんてことはない。だが、実際に人形を MRI にかけると…、人形にはあるはずがないものが写る! ── この設定もよく考えたなと思う。

こういう組み立てにはやはり矢口脚本らしい巧さを感じる。

長女がかくれんぼ中に死んでしまったことがあって、次女が何度佳恵に「かくれんぼしよう」と誘っても声を荒らげて拒否する辺りも、小さなことだがよく練られた台詞だと思う。

でもって、最初はこの家族だけの話だったのが、忠彦の母(風吹ジュン)や、悪徳僧侶(今野浩喜)、警官(安田顕)、呪術の専門家(田中哲司)らいろんな人たちがどんどん巻き込まれて、怖さが広がって行く。

監督も言っているが、これは「抜け出せない怖さ」ではなく「広がって行く怖さ」なのである。

で、これで終わりかと思ったら、これでもかこれでもかと、さらに禍々しい出来事を畳み掛けてきて、最後まで観た時の後味の悪さたるや、もう笑けてくるほどの凄まじさである。

いやあ、怖い。

僕はほぼ必ずパンフレットを買うのだが、このパンフレットには見開きで大きな人形の写真が載っていて、こればかりは早く捨てたい気分である(笑)

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