映画『かくかくしかじか』
僕も名前だけは知っている(が読んだことはない)東村アキコの自伝的漫画が原作。この作品で 2015年度のマンガ大賞を受賞したとのこと。
そういうこともあって、この映画では東村が「製作」にも「脚本」にも「方言指導」にも名を連ねている。脚本は実際には「伊達さん」(これがペンネーム)が書いた脚本にいろいろ意見を述べて修正してもらう役割だったようだが。
監督は CM出身の関和亮。もともと東村アキコのファンだったと言う。
林明子(東村の本名、永野芽郁)が高校時代に通っていた宮崎の絵画教室の日高先生(大泉洋)の話。
日高は絵画教室で大声を上げて竹刀を振り回すようなやり方で絵の指南をしている。画家としてはそれなりの成功を収めているようだが、絵を始めたのが 29歳と遅かったこともあり、自身は大学にも行っていない。
その日高が美大を目指す多くの若者だけでなく、小学生や近所のおじさんにまで絵を教えているのだが、誰に対しても容赦がなく、罵倒はするがどう直せば良いのかは明確に指導せず、ともかく「描け」の一点張りだ。
一方の明子は、小学校時代からなりたかったのは画家ではなく漫画家であり、美大を目指したのも単に美大出身の漫画家だったらカッコいいかなと思ったからに過ぎないのに、その明子の本心に全く気づかず(明子が日高に対してはそれを隠していたのも事実だが)、日高は明子に日々の練習と精進をどこまでも強制してくる。
ま、そういう話である。全体としてコメディっぽいテーストで、何箇所か声を上げて笑った。
ただ、僕から見るとあまりにもストレートで素直な映画で、良い話ではあるのだけれど、正直言って僕にはもの足りなかった。僕はもっともっとひねりの効いた作品が好きだ。
田舎の高校生だった明子がやがて東京に出ると、ファッションも化粧もどんどん洗練されてきて、でも功成り名を遂げた後も宮崎に帰るとまたジャージを着ているというような演出が、如何にも当たり前過ぎて面白くない。
最後は日高が癌になって死ぬという、これも事実だから仕方がないのだろうが、ストーリーとしては弱い。
大仰な BGM で盛り上げようとするのも気に食わない。
日高は大声を上げて怒鳴り散らすばかりの、とにかく押しの強い人物で、ま、確かにそういう人はいるし、実際そういう人であったんだろうけれど、それにしても単調で、演じていた大泉洋もあまり面白くなかったのではないかな。
あくまで想像だけれど、これは東村アキコが前面に出過ぎたか、あるいは周りが彼女に忖度しすぎたのではないだろうか?
漫画と映画では媒体の特性が全く違うのだから、映画サイドの人間がもっと自分たちの感覚や知見を主張して、映画らしい構成、映画らしいトーンを押し出すべきだったのではないかなという気がする。
漫画で読んだら結構良いのかもしれないが、のっぺりした、棘のない映画になってしまったように思う。
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