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Sunday, May 18, 2025

映画『金子差入店』

【5月18日 記】  映画『金子差入店』を観てきた。古川豪監督の長編映画デビュー作。監督自身のオリジナル脚本である。

知らない監督のデビュー作を観るかどうか決めるに際しては、彼がどんな監督の下で助監督を務めてきたかをわりと参考にしている。

ま、これはあくまで可能性の話だが、その監督が僕の好きな監督だとしたら、その下である程度の薫陶は受けたはずの人が撮った映画だから、何らかの点で僕が作品を気に入る可能性はあると思ってのことだ。

で、調べてみると、三池崇史(『ゼブラーマン』シリーズ)や滝田洋二郎(『おくりびと』)らの下で助監督を務めてきたとあり、僕自身も、彼が「助監督」としっかりクレジットされている作品としては、『東京リベンジャーズ』シリーズ3本と二宮健監督の『真夜中乙女戦争』の合計4本を観ていたので、それじゃ観てみようかと思った。

刑務所に差入を代行する差入店を扱った映画。受刑者に差入をするには厳しい制約があり、また遠方からだと却々面会にも来られないということもあって、本当にそういう商売があるのだそうだ。

しかし、金子差入店の店主である金子真司(丸山隆平)が最初に登場するシーンは、彼が差入を届ける側ではなく、真司自身が刑務所に収監されており、面会に来た妻の美和子(真木よう子)にキレて怒鳴り散らすシーンだ。

美和子は耐えきれず面会室を飛び出すが、そこで初めて妻のお腹が小さいことに気づき、自分の子どもが生まれたことを知る。すぐに怒鳴ったことを後悔し、妻を呼び戻してくれと看守に頼むがもう後の祭りである。

このシーンがまず彼の怒りに対する沸点の低さと、家族に対する強い想いを表しており、手際の良いスタートだと思った。

その後徐々に真司の過去と人となりが描かれる。

彼は仕事上のことでカッとして暴力を振るってしまい実刑判決を受ける。彼が怒りに任せて怒鳴り散らした妻と、息子の和真(三浦綺羅)は、しかし、彼の出所を待っていてくれた。

就職もままならない中、音信のなかった伯父の星田辰夫(寺尾聰)が手を差し伸べて、自身の経営する差入店に雇ってくれて、今では引退した辰夫に代わって店を切り盛りしている。

実は真司が刑務所にいるときに、辰夫は差入に来ていたということも後のシーンで描かれている。

この映画はそんな真司の、過去の自分に対する葛藤を描いたものだが、そこに2人の受刑者への差入の話を絡めてある。

ひとりは、真司の息子・和真の同級生の花梨を殺害したサイコパスっぽい小島高史(北村匠海)。そして、彼への差入を依頼してくるエキセントリックな母親(根岸季衣)の話。

もうひとりは元暴力団員で、出所まもなく強盗に入って女性を刺殺した横川(岸谷五朗)。そして、被害者の娘なのに何故か横川に面会しようと毎日拘置所を訪れるが、彼に拒否されて会ってもらえない女子高生の佐知(川口真奈)と、真司とは仕事上の古馴染みで、横川の事件を担当している弁護士の久保木(甲本雅裕)の話。

さらに、真司の母親で、いい歳をして男狂いの容子(名取裕子)のエピソードもあり、こんなてんこ盛りの構成を結構上手にまとめたと思う。11年もかかって脚本を書き上げただけのことはある。

久保木弁護士が守秘義務を全く守っていなかったり、小島高史が何故か真司の過去を知っていたりと、ちょっとストーリー上無理なところもあるにはあるのだが、でも、まあ、全体としては良い映画だったと思う。

丸山隆平と真木よう子以外は、『東京リベンジャーズ』シリーズの北村匠海をはじめとして、監督がこれまでに一緒に仕事をしたことがある役者が多く、しかも、その多くが当て書きであるらしい。

だから、役者たちは皆うまく役に嵌まっており、しかも北村匠海や名取裕子のように今までににはなかった側面をうまく引き出している。

そして、何よりも素晴らしかったのは真木よう子で、僕は昔から大好きな女優なのだが、この映画では彼女の演技もピカイチだが、そもそも演じた人物の人間性が素晴らしくて、うるうるしてしまった。

撮影は、これまた古川豪がかつて一緒に仕事をしたことがある江﨑朋生で、人物の表情が際立った、非常に印象的な画が多かった。

デビュー作としては上々の出来なんじゃないだろうか。

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