「キネマ旬報」2月号増刊(2)
【2月9日 記】 今年もまた毎年やっているキネマ旬報ベストテンの得票分析をしてみます。
キネマ旬報ベストテンは、審査員がそれぞれ合計 55点を持って、1位には 10点、2位には 9点、…、10位には1点と入れて行き、その合計得点で順位が決められています。今回 2024年第98回の審査員は、前回と同じく「本誌編集部」を含めて 60名でした。
で、僕が何をやっているかと言うと、それぞれの映画の得点を、「合計点=点を入れた審査員の人数×平均得点」という形に分解してみるのです。
例えば同じ 150点獲得の映画でも、一方は
(a)合計150点=30人×平均5.00点
他方は
(b)合計150点=20人×平均7.50点
だったとすると、(a) は多くの人に広く受けた映画、(b) は特定の人の心に深く刺さった映画と言えるのではないか、ということです。
これは統計学的には必ずしも正しい手法とは言えないのでしょうが、1~10位くらいまでに絞ってやってみると、それなりに審査員たちの評価の傾向が見えてくる気がして、それが面白くて毎年やっています。
さて、2024年の結果は:
- 夜明けのすべて
251点=34人×7.38点 - ナミビアの砂漠
187点=29人×6.45点 - 悪は存在しない
177点=32人×5.53点 - Cloud クラウド
131点=21人×6.24点 - ぼくのお日さま
131点=22人×5.95点 - ぼくが生きてる、ふたつの世界
114点=18人×6.33点 - ルックバック
97点=15人×6.46点 - 青春ジャック 止められるか、俺たちを2
91点=14人×6.50点 - ラストマイル
88点=14人×6.29点 - あんのこと
82点=15人×5.47点
ふむ、人数に関して言うと、今年は極めて面白くない結果が出てしまいました。数字を縦に並べてみると、明確な逆転現象が起きているところがあまり多くありません。
人数が大きく逆転しているのは『ナミビアの砂漠』と『悪は存在しない』のところぐらいですね。
人数だけでランクを付けると2位が『悪は存在しない』、3位が『ナミビアの砂漠』ということになります。
他にも逆転しているところはありますが、その差は1人と僅少なのでここでは問題にしないことにします。
一方、平均点で見ると、『悪は存在しない』の点数が異常に低いことが分かります。これは上で述べたことの裏返しですね。
しかし、それにしても平均点だけで順位をつけると9位になってしまいます。これはちょっとすごいですね。
そして、平均点だけで見ると、『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』が2位に、『ルックバック』が3位に、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が4位に、『ラストマイル』が5位に浮上してきます。
そうやって見てみると浮き上がってくる傾向は2つ:
『悪は存在しない』はそれぞれの審査員がそれほど高い点数をつけたわけではないが、多くの審査員が投票した映画。この傾向はかなり顕著です。
もうちょっと大胆に言ってしまうと、審査員に「万人受けした映画」だったというわけです。もちろんだからと言って一般人に万人受けしたとまでは結論づけられないんでしょうけれど。
もうひとつは、逆に『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』、『ルックバック』、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』、『ラストマイル』の4本は投票した人数は少なかったが、投票した審査員たちが結構高い点数をつけた映画。
もうちょっと大胆に言ってしまうと、一部の審査員の心に「深く刺さった映画」ということになります。この中ではとりわけ『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』が際立っていますね。
もちろん1位の『夜明けのすべて』などは、多くの審査員に受け、かつ心に深く刺さったと言えるんですけどね。
ま、今回はそれほどおもしろくない結果でした。しかし、まあ、こういう年もあります。
ではまた来年。
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