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Friday, February 28, 2025

映画『知らないカノジョ』

【2月28日 記】  映画『知らないカノジョ』を観てきた。贔屓の三木孝浩監督作品。

2021年に日本で公開された。フランス映画の翻案物らしい。

主演は中島健人と milet。中島健人には驚かないが、 milet の起用には驚いた。

役柄からして歌えて弾ける人でなければならないし、できれば劇中の曲も書ける人が良いということで起用したのだろうが、それにしても演技初体験の彼女を抜擢するのはかなりの冒険だっただろう。

(演技未経験のシンガーソングライターの主演と言えば、2006年に YUI を起用した『タイヨウのうた』という映画があった。僕は当時 YUI の結構なファンだったが、これは観ていない)

ただ、三木監督は milet の MV を手掛けた時から彼女の役者としての可能性を考えていたりしたそうで、今回は演技のレッスンから始めたとのこと。

この映画では、最初のほうのシーンで milet のアップになる度に、「なんか取ってつけたような表情だな」と思ったりもしたのだが、中盤以降はそうでもなくなった。映画は順撮りしたわけではないだろうから、これは最初は僕の先入観であり、次第に見慣れたということなのかもしれない(笑)

僕が milet をしっかり認識したのは(それまでにも間違いなく聞いてはいたのだが)かなり遅く、昨年の TVアニメ『葬送のフリーレン』の EDテーマ曲『Anytime Anywhere』だった。この名曲でしっかり名前を憶え、音源も手に入れて何度も何度も聴き、自分でもカラオケで歌うまでに至った。

彼女はこの映画でもストーリーに納得感を与える、とても素敵な曲を披露している。

ボーカリストとしての彼女の魅力は、ファルセットの高音に注意が惹かれがちだが、僕は中低音の声の張りだと思っている。

話が逸れてしまった。映画に戻そう。

冒頭はいきなりセピア調の画面で、ヴァーチャル・ゲームに出てきそうな戦闘シーンである。中島健人が敵に追われ、逃げる中で milet と出会う。

── と、これは実はリク(中島健人)の頭の中で展開している自作のファンタジー・アクション・ノベルで、実は今は大学の講義の最中であり、隣席にいた友人の梶さん(桐谷健太、大学8年生という設定)に先生が来たと教えてもらいながら夢想に耽り続けていたため、先生に創作ノートを取り上げられてしまう。

やがて、リクは学内で同じ学部のミナミと知り合う。

教授の部屋でノートを取り返したリクが警備員に負われて逃げ込んだ講堂で、ミナミは一人で弾き語りをしていた。そして、そこにも警備員が現れ、一緒に逃げるうちに失くした創作ノートをミナミが拾って届けてくれたことから、二人は一気に距離を詰める。奇しくもミナミが、リクが書いた小説の最初の読者になったのである。

彼女は言った。「すっごく良かったよ」と。この台詞は後にも出てくる。その辺りの脚本上の仕掛けは巧い。

さて、その後だが2人が交際を重ねて結婚し、リクは応募作品が受賞して人気作家になり、ミナミは歌手を諦めて専業主婦となってリクを支えるところまでの8年間が、BGM に載せて、台詞のない点描として次々と描かれる。長い話をまことに手際よく進めたなと感心した。

ああ、いろんなこと考えたもんだから、冒頭の部分について書くだけでかなりの文字数を費やしてしまった。

この映画が本格的に動き出すのはその後である。

ミナミと喧嘩した翌朝、リクが目覚めると、まず自分とミナミとは結婚していなくて、自分は人気作家ではなく出版社に勤める一介の編集者で、ミナミは超人気のシンガーソングライターで、プロデューサー(眞島秀和)とはなんか怪しげだし、頼りになるのはこちらの世界では会社の先輩になっていた梶さんと、施設で暮らすミナミの祖母(風吹ジュン)だけという窮地に追い込まれる。

そこからリクが何を考え、人生をどう立て直して行くかという展開である。

映画全体について書くと、まず、いつも通り画がきれいなのである。

風景ではなく人物を撮っても画がきれいなのが三木孝浩監督の特徴だと思う。都市や浜辺やスタジアムや講堂など、いろんな景色を背景に、のたうち回るリクと、どこまで行ってもリクを信じて冗談言いながら応援してくれる梶さんと、警戒し反発しながら次第にリクに惹かれて行くミナミが描かれる。

僕は、「ああ、どうぞ不吉なことが起こりませんように」と祈るような気持ちでストーリーを見守っていた(それくらい引き込まれたということだ)のだが、結局それほどのハラハラドキドキはなかった。

基本的にこれはリクがどう気づくかという物語なのであって、とても素敵なお話だった。

ネタバレを書いてしまうと、そう、これはハッピーエンド。誰もが予想できるハッピーエンドだった(笑)

元来ハッピーエンドがあまり好きではない僕だが、でも、これは良かったなあ。

こういうお話をすぐに「バカバカしい」などと一蹴してしまう年配の観客もいるだろうが、僕はそういう爺さんにはなりたくないなとしみじみと思った。

とても後口の良い作品だった。心がほっこりと暖かくなった。

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