« WOWOW『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック』(1本目のみ) | Main | 回顧:2024年鑑賞邦画 »

Wednesday, December 25, 2024

映画【推しの子】 -The Final Act-

【12月25日 記】 映画【推しの子】 -The Final Act- を観てきた。Amazon Prime Video で配信した全8話に続く、これが最終話である。

どうやって繋ぐのかと思っていたら、配信版では始まってすぐ、アイ(齋藤飛鳥)が子どもたちと新居に引っ越してすぐにストーカーに刺されて死んでしまうが、映画版は入院中のさりな(稲垣来泉)と雨宮医師(成田凌)のところから説き起こして一気にアイの死までを綴り、そこから配信ドラマで描いた部分を全部すっ飛ばして終盤に持って行っている。

当然のことながら、総分数で6~7時間に及ぶ配信版を観ていることが前提となっており、それを観ていない人にはさっぱり分からないだろう。

さて、原作やアニメのファンは別として、それらを全く知らない人(僕もそんな人のひとりだった)は、とかくこの手のストーリーを「茶番だ」みたいなことを言いがちだが、僕は決してそんな風には思わなかった。

むしろ、原作が大ヒットしたのもむべなるかな、という感じである。

最終的な決着としては、真犯人があまりにも一色に塗りつぶされた描かれ方をしていたことが少し興醒めだったかもしれないが、しかし、ポイントはそこではなく、そんな「何の価値もない奴」をひたすら憎んで復讐するのか、それともそいつをさえ赦そうとするのか──そこに話の収束点を持ってきたのがミソである。

そのおかげで、決して単なるアイドル映画には留まらず、そこそこいろんなことを考えさせられる作品に仕上がっていると言えるのではないだろうか。

どこまでが原作通りなのか分からないのだが、この物語(配信8話 + 映画)ではリアリティ・ショーにおける出演者に対する視聴者からのバッシングや、漫画原作者とテレビ・ドラマのスタッフとの軋轢、未成年タレントへの性的加害等々、近年世間を騒がせたさまざまなテレビ的問題と全く同じ状況が描かれていた。

もし、こちらが先であったのならすごいことだと思うし、実際の事件を受けて漫画にしたのであれば非常に果敢な取り組みだと言える。

また、前世の記憶を持って転生、しかも母親は自分の推しで、生まれた子供は男女の双子、母はトップアイドルで娘も同じ道を目指す、親子揃って父親が誰なのか知らない、前世での関係と現世での兄妹、等々、次から次へと二重構造を重ねてきた構成がよくできている。

そして、何よりもトップアイドルになった新生B小町のステージを丸々フルコーラス見せたのも成功の大きな要因だ。あれは見ごたえがあった。ステージ・セットやエキストラを含めて圧巻だった。なんだかうるうるもした。アイドルものって大体こういう盛り上がりがある。

その3人を演じた齊藤なぎさ、原菜乃華、あのの3人も本当に良かった。三者三様に魅力たっぷりで、本物のアイドルに見えた。もちろんそれ以前に元々本物のアイドルであった齋藤飛鳥の強い存在もある。

アクア(櫻井海音)がルビー(齊藤なぎさ)に「さりなちゃん」と呼びかけるところは感動のシーンだった。五反田監督役の金子ノブアキの抑制された演技も良かった。そして、二宮和也のあの役柄と演技は完全に新機軸だった。彼にとっては大きな経験になったのではないだろうか。

というわけで僕は概ね満足である。こういう企画自体に大きな賛意を表したい。今年最後に観る映画としてふさわしいものであったと言っておこう。

【同日追記】 映画を観るまで読むのを辛抱していた三宅香帆の note (こちらは最終回を迎えた漫画原作に対するレビュー)を読んでみたら、彼女はこの物語を「ちゃんと子供を守る大人が存在している芸能界を描く」ことを主眼にしたのではないか、と分析しており、いつもながらの慧眼にさすがに言葉を失った。

見事な解題だと思う。

|

« WOWOW『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック』(1本目のみ) | Main | 回顧:2024年鑑賞邦画 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« WOWOW『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック』(1本目のみ) | Main | 回顧:2024年鑑賞邦画 »