『ムーンライト』
【12月9日 記】 昨日に引き続いて WOWOW で観た映画についての記事。これも妻が観たいと言って録画したもの。『ムーンライト』、2017年、ハリー・ジェンキンス監督。
観ているときはそれほど良い映画だとは思わなくても、見終わったあとの余韻が長くて、いつまでも胸に、なんだかもやもやと残っている映画は間違いなく良い映画である──というのが僕の持論で、例えば 2007年の『魂萌え!』(阪本順治監督)なんかはその典型的な例だ。
観た直後にはそれほどの感慨はなかったのだが、なんだかいつまでも心に残っていて、そういうのはきっと良い映画なんだと思って、このブログで毎年書いている「『キネマ旬報ベストテン』の 20位以内に入ってほしい 10本」に選んだら、キネ旬でもきっちりベストテンに選ばれて「やっぱりな」と思った。
この『ムーンライト』も、大部分を見終わった時点の一番の感想は「起承転結のない映画」ということだった。
ちなみに、僕自身は起承転結をそれほど重んじるわけではなく、自分が文章を書く時には、もちろんある程度起承転結を意識した上で、逆に起承転結の型にあまり嵌まってしまわないようにという意識もある。
ある黒人の半生を描いた映画。
リトルと呼ばれた幼少期はいじめられっ子で、売春をやっていて(その辺りはあまり明確には描かれていないのだが)麻薬中毒の母親を憎んでいた。それがひょんなことから麻薬の売人であるフアンと、その妻のテレサと知り合い、彼らに助けられながら心の安寧を取り戻していく。
漸く本名のシャロンで呼ばれるようになった高校時代には、やはり学校でいじめられていて、唯一心を許していたクラスメイトのケビンにも裏切られ、いじめた相手に暴力を奮って逮捕される。
そして、少年院を出て大人になったシャロンはいつの間にか麻薬の売人になっている。そこにケビンから突然電話があり、ある日彼に会いに行く。
彼は今はレストランのコックで、シャロンのことを当時と同じくブラックと呼んで、昔のことを詫び、彼なりのやり方でシャロンをもてなすが、同じように出所してから更正した自分と違って、シャロンが麻薬の売人になっていることに少し失望してしまう。
ストーリー上でキモになる出来事についてはあえて詳しく書かなかったが、大体が以上のような3部構成である。
結構暗くて、辛くて、うら寂しい、物悲しい話だ。そして、前述の通り、何か良いところに帰結するような話ではないのである。そんな中で人間は生き延びていかなければならないのである。
僕は最初、どうしてこんなストーリーで映画を撮ろうと思ったのかな、と思った。でも、見終わってみると、こういうストーリー、こういう構成でないと伝えられないものがあるのだということをはっきり認識した。
見終わってから調べたら、アカデミー作品賞受賞作だった。キネ旬でもベストテンに入っていた。
良い映画というのはこういう映画なんだなと改めて思った。
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