回顧:2024年鑑賞邦画
【12月26日 記】多分昨日観た【推しの子】 -The Final Act- が今年最後に観た映画になるだろうから、今年も恒例の
『キネマ旬報ベストテン』の 20位以内に入ってほしい邦画 10本
を選んでみた。今回で 19回目である。
毎年書いているように、これは僕が選ぶ今年のベストテンはない。
決して「映画賞の上位に入るであろう邦画 10本」の予想でもない。
あくまで僕が応援する 10本である。
そして、これは他の映画賞ではなく「キネ旬の」、10位以内ではなく「20位以内に」、「入るだろう」ではなく「入ってほしい」 10本である。
だから、どんなに良い映画であっても、僕としてそれより他に推したい作品があれば、迷わずそちらを選ぶことにしている。放っておいても間違いなくキネ旬ベストテンに選ばれるだろうと思う映画は外したりもしている。
さて、今年は映画館で 59本の邦画を観た。奇しくも去年と全く同数である(しかも、外国映画は 4本で、これも去年と全く同数である)。今年はこの 59本の中から選ぶことになった。
まずは例年通り、本数を考えずに年初から観た順番に考察し、選んで行った。すると残ったのは、(『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の前後章を一作と数えると)以下の 16作になった。
- 笑いのカイブツ
- 夜明けのすべて
- 52ヘルツのクジラたち
- デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章/後章
- 水深ゼロメートルから
- 青春18×2 君へと続く道
- ミッシング
- からかい上手の高木さん
- あんのこと
- 違国日記
- 劇場版モノノ怪 唐傘
- きみの色
- ナミビアの砂漠
- 八犬伝
- 本心
- 雨の中の慾情
さて、どれを削るか?
まずは、『からかい上手の高木さん』は大好きな今泉力哉監督の作品だが、こちらはテレビ版8話の続編であり、どうしてもテレビ版と映画版を合わせての評価ということになってしまうので、ここでは除外することにした。
しかし、それにしても、あの多作な今泉監督が、今年はこれ1本しか劇場用映画を撮っていなかったとは少し意外だった。
さて、そこから先の選び方が難しくなってくるのだが、これまた例年通り、先に逆にどうしても外せないのはどれかと考えたら、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』、『青春18×2 君へと続く道』、『ミッシング』、『あんのこと』、『違国日記』、『劇場版モノノ怪 唐傘』、『ナミビアの砂漠』、『八犬伝』、『本心』、『雨の中の慾情』と、なんときっちり 10本が選べてしまった。
改めて並べると、
- デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章/後章
- 青春18×2 君へと続く道
- ミッシング
- あんのこと
- 違国日記
- 劇場版モノノ怪 唐傘
- ナミビアの砂漠
- 八犬伝
- 本心
- 雨の中の慾情
となる。毎年書いているが、これは僕が観た順であって、評価の高い順番ではない。
これらは「必ずしも一般受けする映画ではないかもしれないけれど、キネ旬なら選んでくれるかもしれない。どうか選ばれますように」という僕の希いを込めた作品である。
それぞれについて考察すると、
アニメ作品から 2本選んだ1)と6)のすごさは、やっぱりその圧倒的な画力にある。僕はアニメ作品を評価するには何を措いてもその描画力が一番のポイントになると思っている。
構図、動き、スピード感、色彩、質感、光と影、写実性とアニメ的技工の融合、人物と背景の調和、そして作画自体の独創性…。何をとってもこの2作は超一流だと思うし、それに加えて、両作ともその圧倒的な世界観に完全に魅了されてしまった。
2)の藤井道人は、何度も書いているように、僕は好きな監督ではない。ただ、この映画は良かった。
映像の一部がいつまでも頭の中に残っている映画は間違いなく良い映画であるというのが僕の持論で、そういう意味でこの映画は選ばずにはいられなかった。
台湾の町並み、ランタン祭り、アミが壁に描いた絵、そして握った手。いつまでも印象に残る良質の作品だった。ただし、このタイトルはひどいと思った(笑)
3)は吉田恵輔監督の真骨頂。いつも通り残酷で悪意に満ちた世界を、とても優しい目で描いている。世界はこのように過ぎて行くのである。石原さとみがすごかった。
4)もまた暗い映画。こちらは僕にとっては久々の入江悠監督。ここにも解決はなく、ひたすら観客がその力量を試される映画だと思った。河合優実と佐藤二朗の2人がまさに怪演していた。
人は死んでしまったら終わりなのである。
5)も良かった。初めて観た監督・脚本・編集の瀬田なつきに圧倒された。すごい才能である。原作者が意図した通り、まさに「人と人は絶対にわかりあえないことを大切に」描けている。
ストーリー構成も画作りも申し分ない仕上がりだ。出演者の銀粉蝶が語った通り、「人を想うってこういうことだよね、と、ほんのり希望の灯りがともる。そんな映画」であった。
7)は4)に続いて河合優実の主演作。こちらも救いのない映画。僕は総じてこういう絶望的な映画が好きだ。僕はこの映画で河合優実が演じた主人公に対して共感は微塵たりとも覚えない。だが、映画には共感を覚える。
山中瑶子監督は初めて観たのだが、こんな風に人生のノイズを描いて行く感じがとても斬新だった。
8)はアニメ2作と同様、まずはその CG の作画力が目を惹くが、これは曽利文彦監督が単なる CG屋さんではないことを如実に示した力作だと思う。
八犬伝をそのまま描くのではなく、それを作中作として作者の滝沢馬琴を描くという原作のアイデアが秀逸だし、その馬琴を演じた役所広司と、その相棒たる葛飾北斎を演じた内野聖陽が、余人を持って代えがたい名演だった。
作中にコンテンツ論議も入れ込まれており、そういう意味で意欲的であり、却々印象深い映画となった。
9)は 平野啓一郎による原作の面白さもあるが、これだけの作品になったのはやはり石井裕也監督の面目躍如だと思う。
レストランで朔也と彩花が、お互いの体に触れずに踊るシーンが忘れられない。また、三吉彩花という女優を初めて魅力的に感じた映画としても僕の記憶に長らく残るだろう。
10)はもうべらぼうとしか言いようがない。これぞ片山慎三監督! そして、今回はつげ義春との合体!
やばい設定でやばいストーリーを撮る監督だと思って観ていたら、戦場シーンでいきなり怒涛の長回しがあったりして、これまでにはなかった形で度肝を抜かれた。
そして、これは今までになく深く静かな愛を描いた作品なのである。慾情は愛の一部でしかないのである。
◇
個別の作品については以上のような感慨を持ったのだが、さて、このうちの何本がキネ旬の 20位以内に選ばれるだろうか? 今回も大きく外すことになるかな?(笑)
いずれにしても、また2月頭に結果が発表されたら総括記事を書く。
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