映画『ふれる。』
【10月16日 記】 映画『ふれる。』を観てきた。長井龍雪監督、岡田麿里脚本、田中将賀キャラクターデザイン/総作画監督。
僕はこのトリオの「青春三部作」では『心が叫びたがってるんだ。』しか観ていないが、岡田自身が監督を務めた『アリスとテレスのまぼろし工場』は観ている。アニメ以外で彼女が脚本を担当した映画も 2~3本。
そんなに刺激的ではないが良い話を書く人だと思っている。これもそんなアニメだった。
「島」で生まれ育った秋、諒、優太の3人。諒と優太は早くから友だちだったが、秋は言いたいことをほとんど口にせず、腹が立つとすぐに暴力を振う手のつけられない存在だった。
その秋が海で伝説の小動物“ふれる”を拾った。ふれるに触れることによって何も言わなくても気持ちが通じるという魔法のような効果のおかげで3人は親友になる。
そこまでの展開が速いのなんの。静止画を多用しながら大胆に省略して時間を飛ばす。
物語はこの3人が上京して一軒家を借りて共同生活を始めるところから本格的に始まる。全員が 20 歳になっている。
制作チームと同じく同い年のトリオである。
冒頭の海のシーンが、変な表現だが、まるで絵に描いたような海で、とても美しく印象的だった。
長井監督は当初「海を描くのは難しいから」と、舞台を海辺にするのを嫌がったそうだが、良いオープニングになった。
この映画は一種のコミュニケーション論だと思う。
何もしなくても心が通じて、とても楽に、そして楽しく過ごしていた3人が、この不思議な能力を共有しない人たちとのコミュニケーションで少し躓く。それから何らかの気づきに持っていって話が終わるのかと思ったら、そうではなかった。
その後3人はそこからさらに“ふれる”の落とし穴みたいなところに嵌って行く。これはアニメ的なクライマックスとして必要な展開ではあったが、解釈の余地を少し残しすぎて、抽象的に流れてしまった感もあった。
最後の回想部分で少し出てくるとは言え、彼らの少年時代を、エピソードひとつだけでも良いからもう少し詳しく描いておいたほうが後の感動が大きかったような気もする。
また、秋の性格の設定がやや人工的な感じがしたのと、諒の CV を務めた坂東龍汰の声(彼と先生役の皆川猿時だけは誰なのかすぐに判った)が少し硬い感じがした(実写のときはもっと柔らかい演技をしているように思う)のも気にはなった。
だが、最初に書いたように、とても良い話ではある。コミュニケーションって、そんなもんだよな、という気がした。ただ、そのテーマがあまりにくっきり見え過ぎたために、少し深みに欠けるような気にもさせてしまうという恨みはあったが…。
いずれにしても、まずまずのアニメだった。
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