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Wednesday, October 02, 2024

Netflix『極悪女王』

【10月2日 記】  Netflix の『極悪女王』全5話を見終わった。日本ではトップ独走の大ヒットらしいが、海外ではあまり振るわないようだ。

当然である。

外国の視聴者はビューティ・ペアもクラッシュ・ギャルズも全く知らないわけだ。まずなんでプロレスラーがリング上で歌を歌っているのか見当もつかないだろう(その点では、当時の僕も全く理解に苦しんだがw)。

その上ゆりやんレトリィバァさえ見たことないわけで、「なんだ、このデブ、こいつ女優なのか???」ぐらいにしか思わないはずだ。

でも、リアルタイムで全日本女子プロレスを見てきた我々(と言っても、僕はそんなにいっぱいは見ていないが)にとっては、これはなんかこみ上げてくるものがあるドラマなのだ。

この企画の成功のポイントはドキュメンタリではなくドラマにしたことだと思う。

プロレスの映像は多分結構残っているだろう。そして、関係者もほとんど存命だから、いろんな人から取ろうと思えばインタビューも取れたはずだ。

しかし、ドキュメンタリにしてしまうと女子プロに郷愁を感じる人しか見ないだろう。

それをドラマにしたことによって、(もちろんドラマにしたことによって虚構を交えることができたからということもあるだろうが)、しっかりとプロレスを知らない人たちの心にも刺さる作品になったのではないだろうか。

小学校時代は僕はプロレスに興味なんかなかった。だが、我が家の隣に住んでいた母方の祖母が、近所の公園の特設リンクで行われたプロレスの試合を見に行って血を見て卒倒し、でもそれ以来強烈なプロレス・ファンになったので、祖母が我が家に来て見ていたテレビの画面はちらちら覗いていた。

中学一年のとき、その祖母が亡くなったのだが、それから間もなく、何のきっかけもなく、僕と母は突然テレビのプロレス中継を見始めた。何故なのか自分でも分からない。

時はジャイアント馬場とアントニオ猪木の黄金時代である。

そして、馬場と猪木が袂を分かち、猪木が新日本プロレスを設立してからは、毎週必死で猪木の試合を追うようになっていた。中でもストロング小林との死闘は、今でも最後の原爆固めをはっきりと思い出せるくらいだ。

しかし、女子プロとなると、ビューティ・ペアに対しては「なにがビューティやねん」という感じで見ていなかった。でも、クラッシュ・ギャルズは違った。特に長与千種だ。

彼女のプロレスには、何と言うか、とてもひたむきなものを感じた。男子のプロレスで言えば、元横綱の輪島大士のプロレスに通じるひたむきさだ(あのゴールデン・アーム・ボンバーには胸が熱くなった)。

そして、彼女のプロレスは、「相手の得意技を全部受けた後で、最後に必殺技で勝つ」と言われたアントニオ猪木に通じるスタイルだったと思う。とにかく彼女には魅せられた。ぐいぐいと引きつけるひたむきなものを感じた。

その長与千種を演じきったのが唐田えりかだ。

僕は早くから唐田えりかは良いなあと思っていた。それは東出昌大が彼女を見ていたのと同じ見方だったのかもしれないが…。

最初は深夜ドラマ『覚悟はいいかそこの女子。』だった。そして、映画『寝ても覚めても』も抜群に良かった。ところが東出昌大とのあんなことからあんなことになってしまい、まことに残念だと思っていたのだが、今回の役で見事に第一線に返り咲いて、もう狂喜乱舞したいくらい嬉しい。

他ならぬ長与千種本人がプロレスの指導をしているということもあるが、プロレスなんてやったこともない女優たち(中には見たこともない人もいただろう)が、鍛錬して、よくここまでのシーンをこなしたと思う。

単に相手を持ち上げるだけでも大変だろうに、そこからきれいにブレーンバスターやアトミックドロップを決めるので、僕は目を丸くして見ていた。

それぞれのキャストが秀逸である。ゆりやんのダンプ松本、唐田の長与、そしてライオネス飛鳥を演じた剛力彩芽がまた最高だった。いやあ、前澤友作と別れて良かったよ(笑)

この3人がみんな顔貌はそれほどでもないにしても、やっぱり上手に雰囲気を再現している。

そして、プロモーターの役をやっていたのが音尾琢真で、彼が途中から突然レフェリーとしてリングに上がるのだが、アナウンサーが紹介した彼の名前が阿部四郎だ。おう!その名前には記憶があるぞ。悪徳レフェリーだった! そうそう、そんなパーマ・ヘアで結構似ているではないか。笑けてくる。

ジャガー横田だけは明らかにイメージが違ったが、演じた水野絵梨奈は良い仕事をしたと思う。調べてみたら元E-girls とはびっくり!

で、話は単なる悪役女子プロレスラーの悪行三昧を描いた伝記ではない。その深奥に強固なイデオロギーがある。

僕が思うにこの話は、ブックというものの存在に支配されたプロレスという不自由な世界で抗い、自らの意思を貫いて闘い抜く女性たちの autonomy を描いた物語なのである。

全女の経営者である3兄弟(村上淳、黒田大輔、斎藤工)は、決めたとおりにやらない彼女たちを「ブック破り」と言うが、彼女たちにしてみれば、「偉い男たちが自分たちの都合で勝手に決めたルールになんか誰が従うものか!」と、あくまで彼女たちの autonomy を貫いた話なのである。

だから、観ていて熱くなるのである。

昔見ていたと言っても、僕は彼女たちをそれほど見ていたわけではない。たまにテレビでチラ見する程度だった。長与とダンプの髪切りマッチも見ていない。でも、それでも長与のひたむきさは知っている。

ダンプ松本はただのヒールだと思っていたが、ここまで突き進んだのか(もちろんドラマが作った部分は多分にあるだろうけれど)と驚いた。

企画・脚本・プロデュース の鈴木おさむ、共同脚本の池上純哉、演出の白石和彌と茂木克仁(僕はこの人がチーフ助監督を務めた作品を 映画館で 10 本観ている)ら、スタッフみんなの、女子プロレスに対する愛、あるいは彼女たちの autonomy に光を当てようとする姿勢に、僕は武者震いするほど感動した。

素晴らしいシリーズだった。

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