映画『侍タイムスリッパー』
【9月13日 記】 映画『侍タイムスリッパー』を観てきた。
複数の知人が褒めていたので、これは池袋のシネマ・ロサに観に行くしかないなと思っていたら、なんと今日から TOHOシネマズとピカデリー系(SMT)及び一部の T・ジョイ系劇場に拡大公開されていた。
これはまさに『カメラを止めるな!』が通ってきた道ではないか。
で、ま、シネマ・ロサみたいな映画館の雰囲気が好きだという人もいるだろうが、僕は迷わず TOHOシネマズに行った(笑)
京都のインディーズ映画会社「未来映画社」の制作で、安田淳一という人が監督・脚本・撮影を兼ねているのだが、スタッフ・ロールを見ているとそれ以外にも何度も名前が出てくる。恐らく最初は彼一人の迸るような情熱からスタートしたのだろう。
そして、この未来映画社だが、この会社の構成はよく分からないのだが、これがこの会社の3本目の劇場映画で、その3本ともが安田監督の作品である。
恐らく最初はこの小さな組織でなんとか映画化しようと思ったのだろうが、しかし、映画というものは大規模になればなるほど小さな組織では作り切れなくなってくる。特に時代劇となると金も人も手間もべらぼうにかかってしまう。
それで資金難で頓挫しかけたところに、「とにかく脚本が面白いから」という理由で東映の京都撮影所が救いの手を差し伸べて映画は完成に至ったという。
さすがに東映京都だけあって、いやいや堂々たる、本格的な時代劇である。
主演の山口馬木也は、僕は記憶になかったが、数多くの時代劇で脇役を務めた実績のある俳優らしい。他にも、とっさに名前は出てこなくても顔を見たら知っている俳優がちょこちょこ出ている。
面白いのは、この映画の言ってみればマドンナ役である撮影所の助監督・山本優子を演じた沙倉ゆうのは、実はこの映画製作においても出演の傍ら助監督(と他にも何役か)を兼務しており、かつ、これまでの2本の未来映画社の映画では主演女優だったということだ。現在は東映京都の俳優部所属とのことである。
さて、この映画の設定は、江戸時代の侍が現代にタイムスリップしたら、そこはなんと時代劇の撮影所のセットだったというものである。
会津藩の高坂新左衛門(山口馬木也)ともうひとりの藩士は長州藩士の山崎彦九郎(庄野﨑謙)暗殺の命を受けて待ち伏せする。高坂と山崎が降り出した雨の中、剣を構えてにらみ合っているところに落雷があり、気がつけば高坂は京都撮影所にいた。
初めはとにかく狼狽えるばかりの高坂だったが、やがて自分の置かれた状況を理解し、撮影所近くのお寺に居候しながら撮影所の斬られ役となって生きて行くという話である。
言ってみれば、ジャスト・ワン・アイデアの映画である。
高坂が現代のいろんなものにいちいち驚きわななくというだけではいつまでも観客を引っ張ることはできないはずで、制作者もそこは分かっていて、その辺のところはしつこく描きはしない。街に貼ってあったポスターの「江戸幕府が倒れてから 140年」という文言を読んで高坂は全てを悟るのである。
で、最初は斬られ役のくせにうっかり斬ってしまったりもするのだが、なんであれ剣については腕に覚えがあり、カツラをかぶるまでもなくチョンマゲ姿であり、佇まいや語り口も武士そのものでサマになっていることもあって、高坂は次第に頭角を表して行く。
しかし、それだけでどうやってこの映画を終わるのだろう?と思っていたら、ここはちょっとキモの部分なのでネタバレを避けて書かないことにするが、途中から登場する新たな人物によって新たな展開があり、同じ発想がラストシーンにも活かされており、確かに結構よく書けた脚本だった。
観ていてところどころ大笑いしたし、時代劇としてのクオリティも高いし、良い話の収め方にもなっており、インディーズがよくここまでの作品に作り上げたなと感心した。
ただし、僕の知人は「文句なしに今年一番の映画」みたいな書き方をしていたが、僕はそこまで称賛はしない。ちょっとまともすぎる感じもした。まあ、面白かったけどね。
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