ハゲと白髪
【8月30日 記】 この間、自分の頭頂部に3箇所禿げ始めている箇所があるのを見つける夢を見た。
なんであんな夢を見たのだろう? 自分が禿げるということに関して僕は切実に考えたことがない。
というのも、小学校低学年のときだったと思うのだが、親戚中が集まった大きな法事があって、そのときに来ていた多数のおじいさんたちがいずれもハゲではなく白髪だったのに気づいて、僕は「あ、僕もきっとハゲじゃなくて白髪になるんだろうな」と思ったのである。
そして、現時点でその予想はほぼ当たっていると言って良いだろう。ただし、親戚にはフサフサの総白髪の人もいたが、僕の場合はそんなに白髪が進んでいるわけではない。
初めて白髪染めを使ったのは満53歳になる誕生日の前日で、それ以来、毎日ではないが定期的に白髪を染めているので、これを止めてしまうとどれだけ白いのかはよく分からないが、控えめに見積もってもまだ半分以上は黒髪なんじゃないかなと思う。
まだ会社にいたころに、エレベータで当時の社長と一緒になったことがある。社長が僕の顔を見て「やまえー、髪の毛黒いなあ」と言うので、「いや、染めてますよ」と言ったら、僕が何を使っているかという話になった。
「商品名は忘れたけど、トリートメントタイプのやつです。髪の毛洗ったあと、水分を拭ってから髪につけて、しばらく置いてから洗い流すだけ」
「え、そんな簡単に染められるやつあんの?」
「はい」
「専用の櫛とか手袋とか使わんでええの?」
「はい」
「あなたが染めたあとはお風呂の壁に黒いシミがいっぱいついてる、って嫁はんに怒られたりせーへんの?」
みたいな会話をした記憶がある。
そもそも小さい頃から僕の髪は太くて硬くてゴワゴワで、通っていた散髪屋のおっちゃんに「兄ちゃん、髪の毛ぇ硬いなあ。ハサミ痛むわ」などと嫌味を言われたものだ。
朝起きたら寝癖がひどくて、何をつけても、どんなになでつけても言うことを聞いてくれず、まるで髪の毛が意思を持っているみたいだった。僕は自分の髪の毛は質量と方向を持つベクトルなのだと認識した。
そんな髪の毛はあまり禿げるタイプではなく白髪になると聞く。
でも、別に絶対禿げたくないとも、白髪は嫌だとも思っていない。ま、年を取れば少なくともどちらか一方は進むものだと了解している。
ただ、自分としてはこれだけは避けたいなと思うのは、行きつけの理髪店で以前見かけた高齢のお客さんのような姿。この人は理髪店で毛染めをしてもらっていて、その髪の毛は、もうカラスも驚いて逃げて行くばかりの、艶々の真っ黒けなのである。
なのに、昔の村山首相みたいな眉毛は雪のように真っ白なのだ。僕は思わず「それはおかしいやろ!」とひとりごちそうなった。
その人を手掛けていたのは僕の髪を長年切ってくれている木村さんだったので、訊いてみると、
「そうなんですよ。わたしも一応『眉毛も染めますか?』って訊くんですけど、頑として『要らない』とおっしゃるので…」とのこと。
ま、確かにそんなことは個々人の自由である。
髪の毛で一喜一憂しても仕方がない。
ただ、その一方で髪の毛で死ぬほど悩んでいる人がいることも知っている。でも、年を取ればみんなハゲか白髪になるわけだから、それまで生き延びればもう悩むこともないんじゃないかな。
僕の髪の毛も、若い頃に比べたら相当柔らかくなってきた。
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