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Sunday, August 25, 2024

映画『ラストマイル』

【8月25日 記】 映画『ラストマイル』を観てきた。

監督は TBSスパークルの塚原あゆ子。

放送局の子会社のドラマ制作会社に所属するディレクターが映画を撮るなんてことは、前世紀にはあまり考えられなかったことだが、今では結構実例がある。とても喜ばしいことである。今作が彼女にとっては3作目の劇場公開映画。僕は全部観ている。

僕が塚原あゆ子の名前をはっきりと認識したのは、奥寺佐渡子目当てで観た TBSの『夜行観覧車』(2013年)だった。ちなみに、僕が奥寺佐渡子の名前を憶えたのは 2007年の映画『しゃべれどもしゃべれども』である。

そのあと塚原は同じく奥寺の脚本で『Nのために』(2014年)と『リバース』(2017年)を演出しており、その辺りで彼女に対する僕の評価は完全に固まった。つまり、大ファンになったということだ。

なお、余談になるが、『夜行観覧車』と『リバース』にはサブ脚本家として清水友佳子が入っており、その頃から清水もぐいぐい頭角を表して、今や完全に一本立ちし、素晴らしい作品を送り出している。

というわけで、僕はこの3人ともの大ファンである。

そして、これらの作品の合間に、塚原が野木亜紀子と組んだ『重版出来』(2016年)があり、これもべらぼうに面白かった。

『逃げるは恥だが役に立つ』(同じく2016年)に先立つこの作品で、僕は野木亜紀子を自分の「見逃せない脚本家」のリストに加え、それ以降の作品は映画も含めてほとんど観ている。

そして、その次に野木=塚原コンビで撮ったのが『アンナチュラル』(2018年)と『MIU404』(2020年)で、この2つのドラマの成功が、作を織り込んだ今回の映画に繋がっていると言っても良いかもしれない。

ただし、今回の映画の主人公はこの2作の登場人物ではなく、これらはあくまでファン・サービスであると当時にストーリーを進行するための背景に使われているので、ドラマを一切観ていない人でも問題なく楽しめる。

ただ、UDIラボや MIU404 がどういう組織で、誰がどういう立場なのかというようなことは、当然ファンは知っているものとして説明が省かれているので、その点は分かりにくいかと思う。

さて、この映画の主演は、Amazon を想起させる巨大企業「デイリーファスト」の物流倉庫の新任センター長・舟渡エレナを演じた満島ひかりだったのだが、もうこの映画は彼女に尽きると言っても良い。

アメリカ帰りの、ウルトラ・ポジティブで、脳天気なほど明るく、やり手で、日本人から見るとちょっとイタイ感じのする女性像が、野木亜紀子の見事な人物造形と満島ひかりの縦横無尽な演技力で、めちゃくちゃリアルに出来上がっていた。

観客は驚いたり、反感を持ったり、ちょっと見直したり同情したりしながら、とにかく彼女に引きずり回されて、そのまま映画は終わる。

映画の冒頭と最後は彼女が居眠りするシーンで、同じ居眠りでもシチュエーションも意味合いも違っていて、こういう映画のまとめ方ってとても面白い。

そのセンター長に翻弄されるのが直属の部下である梨本(岡田将生)であり、下請け運送会社の八木(阿部サダヲ)である。そして、彼女と敵対するのがデイリーファストの日本法人のトップ・五十嵐(ディーン・フジオカ)だ。

舞台となっている物流倉庫の映像も、本物の倉庫を8箇所借りて撮影したらしいが、まさに圧巻である。

あ、その前に肝心なことを書いていなかった。事件はエレナの倉庫から配送された荷物が次々と爆発するところから始まる。そういう事件モノだから UDI も MIU も絡みやすい展開となって、超豪華オールスターキャストが実現している。

そして、その事件の周辺を描くために末端の配送業者の父と息子(火野正平と宇野祥平)や、離婚して母子家庭になった家族(安藤玉恵ら)が配されていて、かなりの重層構造のドラマである。

ストーリー展開は書かないが、如何にも野木亜紀子らしい、綿密な取材に基づいた、社会構造のひずみを突くような形になっている。彼女は現代社会の難しい部分をいつも描くのだが、「矛盾を浮き彫りにする」とか「巨悪を暴く」みたいな感じに堕ちないところが良いところではないだろうか。

野木亜紀子はインタビューでいろんなことを語っているが、僕が印象に残ったことが3つある。

ひとつは、サスペンスの主人公は大概男性だが、この映画の主人公はどうしても女性にしたかったということ。

ふたつめは、主人公に対する見方が途中で変わるといいなと思ったということ。テレビドラマだと主人公が好感度の低い人物だとそれだけで視聴者にそっぽを向かれて終わりになるが、映画はもっと自由で良いと思ったと言っている。

それから最後に、今回はあえてラストをスッキリさせていないということ。「映画だし、それでもいいかなと」。

この3つめの方針によって映画は少し分かりにくい印象を残したかもしれず、そこで評価が下がる可能性もあるが、まあ、じっくり考えてみると、それで良かったんじゃないかなという気がする。

僕自身があまりサスペンス的な展開に興味がないのでそのことについては書いていないが、事件は二転三転しながら、悲しくもあり、仕方がないような気にもなり、この構造をなんとか変えなければという思いにもなる形で終わる。

塚原=野木=新井プロデューサーという枠組みらしい、重厚な作品になったと思う。

それにしてもパンフを読むと塚原監督の手腕を激賞している役者さんが結構いて驚く。

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