『女の国会』新川帆立(書評)
【8月21日 記】 女性たちの話だ。章ごとに語り手が変わるが、主人公グループとでも呼ぶべき登場人物は4人。
まずは野党・民政党衆院国対副委員長の高月馨(46)。そして、その政策担当秘書の沢村明美(29)。次に毎朝新聞社の記者で与党・国民党担当の和田山怜奈(33)。最後に国民党所属の O市の市議会議員で元地方局アナウンサーの間橋みゆき(39)。
小説の冒頭は高月のライバルである国民党衆院国対副委員長・朝沼侑子の不可解な自殺から始まる。そして、それをきっかけにこの4人が順番に繋がって行く。
高月は口癖のように言う。「私、憤慨しています」と。言うと言うより、ひどい目に遭うたびに怒声を上げる。
だが、憤慨しているのは高月だけではない。他の3人も、それぞれ個性は異なるが、多かれ少なかれやはり憤慨しているのだ。何に憤慨しているか?──ひとことで言うならジェンダー・バイアスにであり、それを許している社会に対してである。
僕はこの小説を読み始めて、ああ、著者も同じように憤慨しているんだな、と思った。
無愛想にしていれば女らしくないと言われ、女性らしくすれば女を使っていると言われる。障害だらけの環境で、それでも負けじと泳いでいこうとする高月の決意があらわれている気がした。
そういう表現には同じように著者の思いも読み取れる。
だが、これはそれだけの小説ではない。
国会議員やその秘書、そして、彼らを取り巻く派閥の動きなど一般人には想像しにくい特殊な世界、新聞記者や地方議員の日常などを交えながら、冒頭の事件の謎が徐々に解かれ、そこにさらに別の謎を絡めてきて著者の気を逸らせない。
その展開が巧みなので、後半は一気に読んでしまった。
最後の最後になって明かされる謎は、予想できたとかできなかったとか言う前に、僕からすればあまりに突飛すぎて逆に安っぽい感じまでしてしまったが、ま、こういうのが好きな人もいるんだろうとは思う。
その辺りには僕は惹かれなかったのだが、人間の描き方には惹かれた。4人の人物がそれぞれ四人四様に、魅力たっぷりに描かれている。
実際に沢村と一緒に働いてみると、淡々とした表情の中に確固とした情熱がある豆電球のような子だった。堅すぎて障害にぶつかると割れてしまいそうな危うさがあるものの、仕事はきっちりやってくれる。不正や裏切りを警戒する必要がないのがありがたかった。
──そんな表現に著者の力量が現れていると思う。豆電球の比喩がとても良いではないか。
人物が魅力的な小説は面白い。胸のすくような展開できれいに終わるのも良かった。ひょっとしたらシリーズ化があるのかもしれない。
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