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Saturday, August 31, 2024

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆(書評)

【8月31日 記】 三宅香帆の「著書」となると『女の子の謎を解く』しか読んでいないが、note や東洋経済オンラインなどで数多くの記事を読んできた。

そんな風に僕が割合早くから目をつけていた三宅がこの著書で一躍ベストセラー作家になってしまって、僕としてはちょっと悔しい気さえする。

僕は今まで彼女を「解釈の人」だと思ってきた。

小説、古典文学、漫画、テレビドラマ、アニメ、映画、配信番組などについて彼女が書いている文章には、いずれも彼女でなければ読み込めないような深くて斬新な解釈があった。

それは単に「こんな風にも読める」とか「こんな印象を持った」というようなことではなく、いずれもその本やドラマが作られた背景にある現代社会のあり方と密接に結びついた解釈だった。

そして、今回のこの本を読んで驚いたのは、この本では彼女がしっかりと史学的なアプローチに基づいて検証しながら論を進めているところである。

今まではむしろ人文科学の人だと思っていたのだが、この本は極めて社会科学的なアプローチで書かれており、その点が僕にとっては新しく、意表を突かれた。

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Friday, August 30, 2024

ハゲと白髪

【8月30日 記】 この間、自分の頭頂部に3箇所禿げ始めている箇所があるのを見つける夢を見た。

なんであんな夢を見たのだろう? 自分が禿げるということに関して僕は切実に考えたことがない。

というのも、小学校低学年のときだったと思うのだが、親戚中が集まった大きな法事があって、そのときに来ていた多数のおじいさんたちがいずれもハゲではなく白髪だったのに気づいて、僕は「あ、僕もきっとハゲじゃなくて白髪になるんだろうな」と思ったのである。

そして、現時点でその予想はほぼ当たっていると言って良いだろう。ただし、親戚にはフサフサの総白髪の人もいたが、僕の場合はそんなに白髪が進んでいるわけではない。

初めて白髪染めを使ったのは満53歳になる誕生日の前日で、それ以来、毎日ではないが定期的に白髪を染めているので、これを止めてしまうとどれだけ白いのかはよく分からないが、控えめに見積もってもまだ半分以上は黒髪なんじゃないかなと思う。

まだ会社にいたころに、エレベータで当時の社長と一緒になったことがある。社長が僕の顔を見て「やまえー、髪の毛黒いなあ」と言うので、「いや、染めてますよ」と言ったら、僕が何を使っているかという話になった。

「商品名は忘れたけど、トリートメントタイプのやつです。髪の毛洗ったあと、水分を拭ってから髪につけて、しばらく置いてから洗い流すだけ」
「え、そんな簡単に染められるやつあんの?」
「はい」
「専用の櫛とか手袋とか使わんでええの?」
「はい」
「あなたが染めたあとはお風呂の壁に黒いシミがいっぱいついてる、って嫁はんに怒られたりせーへんの?」

みたいな会話をした記憶がある。

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Thursday, August 29, 2024

映画『箱男』

【8月29日 記】 映画『箱男』を観てきた。

この映画、制作が発表されてからどれだけ公開を待っただろう。

いつまでも公開日が決まらないままもう2年ぐらいになるんじゃないかな、などと思っていたのだが、石井岳龍監督による映画化はなんと1997年に決定していて、しかし、クランクイン前日に頓挫したのだそうだ。しかも、そのときも主演は永瀬正敏だったというから驚きだ。

原作は安部公房の『箱男』で、超有名な作品だからもちろんタイトルは知っているが、多分僕は読んでいない。もっとも、僕のことだから、随分若い頃に読んで完全に失念している可能性も否定できないが(笑)

さて、この映画、石井岳龍に託される前にも何度も映画化は検討されたらしいのだが、結局実現していない。

そりゃそうだ。こういう作品の映像化は極めて難しい。

演劇にするのはそれほどしんどいことではないかもしれない。何故なら舞台というのはいろんなものを恣意的に捨象した場だからである。しかし、これをカメラで撮るとなると、観客にとって余計なものも含めて、全てのものが映り込んでしまうのである。

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Wednesday, August 28, 2024

Engrish in Japan

【8月28日 記】  僕は facebook の Engrish in Japan という公開グループをフォローしてよく読んでいる。

English の綴りをわざと間違えているところがミソで、そう、ここは日本人が看板や注意書き、チラシなどに書いたおかしな英語を収集したページなのである。

大変面白いのだが、しかし、その一方で、なんでこんなにろくでもない(大阪弁で言うスカタンな)間違いを書くかなあと不思議になる。

いや、普段英語を使う機会なんかない日本人が何かの必要に迫られて突然英文を書くわけだから、ちょっとやそっと間違っていてもそこには大して不思議はない。

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Sunday, August 25, 2024

映画『ラストマイル』

【8月25日 記】 映画『ラストマイル』を観てきた。

監督は TBSスパークルの塚原あゆ子。

放送局の子会社のドラマ制作会社に所属するディレクターが映画を撮るなんてことは、前世紀にはあまり考えられなかったことだが、今では結構実例がある。とても喜ばしいことである。今作が彼女にとっては3作目の劇場公開映画。僕は全部観ている。

僕が塚原あゆ子の名前をはっきりと認識したのは、奥寺佐渡子目当てで観た TBSの『夜行観覧車』(2013年)だった。ちなみに、僕が奥寺佐渡子の名前を憶えたのは 2007年の映画『しゃべれどもしゃべれども』である。

そのあと塚原は同じく奥寺の脚本で『Nのために』(2014年)と『リバース』(2017年)を演出しており、その辺りで彼女に対する僕の評価は完全に固まった。つまり、大ファンになったということだ。

なお、余談になるが、『夜行観覧車』と『リバース』にはサブ脚本家として清水友佳子が入っており、その頃から清水もぐいぐい頭角を表して、今や完全に一本立ちし、素晴らしい作品を送り出している。

というわけで、僕はこの3人ともの大ファンである。

そして、これらの作品の合間に、塚原が野木亜紀子と組んだ『重版出来』(2016年)があり、これもべらぼうに面白かった。

『逃げるは恥だが役に立つ』(同じく2016年)に先立つこの作品で、僕は野木亜紀子を自分の「見逃せない脚本家」のリストに加え、それ以降の作品は映画も含めてほとんど観ている。

そして、その次に野木=塚原コンビで撮ったのが『アンナチュラル』(2018年)と『MIU404』(2020年)で、この2つのドラマの成功が、作を織り込んだ今回の映画に繋がっていると言っても良いかもしれない。

ただし、今回の映画の主人公はこの2作の登場人物ではなく、これらはあくまでファン・サービスであると当時にストーリーを進行するための背景に使われているので、ドラマを一切観ていない人でも問題なく楽しめる。

ただ、UDIラボや MIU404 がどういう組織で、誰がどういう立場なのかというようなことは、当然ファンは知っているものとして説明が省かれているので、その点は分かりにくいかと思う。

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Saturday, August 24, 2024

Netflix & Amazon Prime 鑑賞記録

【8月24日 記】 Netflix の『地面師たち』と『アンブレラ・アカデミー』を見終わったので、恒例の「備忘録」を更新して掲載します。

アマプラのほうは進展ありませんが、8/29 からいよいよ『力の指輪』のシーズン2が始まるので心待ちにしています。

『地面師たち』は確かに評判に違わず面白かったですが、しかし、僕が一番思ったのは「へえ、大根仁監督ってこんな殺伐としたドラマも撮るんだ」ということ。

どうしても『モテキ』や『バクマン。』のイメージが強いですからね。『エルピス』はある程度こっちの線かもしれませんが、あれは渡辺あやの脚本で、どちらかと言うと大根仁の作品と言うより渡辺あやの作品という感じでしたから。

今回は大根仁が脚本を書いて Netflix に持ち込んだと知って驚きました。

『アンブレラ・アカデミー』のほうは4シーズン 36エピソードを費やして漸く完結したわけですが、ようまあ、あんな取っ散らかった話を、と言うか、自ら取っ散らかし続けてきた話を完結に持って行ったなあという感じ。

シーズン3までは 10エピソードずつだったのに、なんでシーズン4は6話で終わりやねん!? 息切れしてしもた?という気もしたし、さすがに最後に来て筋運びに無理やり感もありましたが、でも、7人のきょうだい+ライラの8人が最後はひとつになるという展開は悪くなかったです。

ということで、これまでに見たリストは下記の通り:

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Friday, August 23, 2024

映画『恋を知らない僕たちは』

【8月23日 記】 映画『恋を知らない僕たちは』を観てきた。原作は水野美波による大ヒット漫画で『恋僕』と略すらしい。この人の代表作のひとつが『虹色デイズ』で、飯塚健監督が実写化した映画は僕も観ている。

観客の恐らくほとんどが原作漫画か、主演のなにわ男子の大西流星のファンなのだろう。そんな中、この回の上映で酒井麻衣監督目当てに観に来ていたのは僕ぐらいのものじゃないかな。でも、僕はこの監督の画作りがとても好きなのだ。

で、オープニングはその大西のきれいなきれいな横顔。こういうきれいな顔は監督が選ぶ背景と見事にシンクロする。

海辺の街の中学と高校。田舎道の通学路。制服のまま海に飛び込む3人。きらめいて飛び散る水しぶき。もう最初から酒井監督が得意とする画が続々と出てくる。

かざぐるま、花火、随所にインサートされる雲や夕陽。幾層にもなって寄せる波。瓦屋根のある校舎。その茶色の瓦屋根のてっぺんが渡り廊下みたいなところから大きく見える。

全編九州ロケらしいのだが、どのシーンも見事なロケーションだった。

夕暮れの光の差す窓を奥にして柔らかい逆光を浴びた図書館の書庫の細い通路を遠近感たっぷりに描く。

そして、いつものように奥行きのある構図で背景を思いっきりぼやかせて、その手前でものすごくくっきりしたワンショットを撮る。

秀逸だったのは最初のキス・シーン。影を映した見事な様式美!

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Wednesday, August 21, 2024

『女の国会』新川帆立(書評)

【8月21日 記】 女性たちの話だ。章ごとに語り手が変わるが、主人公グループとでも呼ぶべき登場人物は4人。

まずは野党・民政党衆院国対副委員長の高月馨(46)。そして、その政策担当秘書の沢村明美(29)。次に毎朝新聞社の記者で与党・国民党担当の和田山怜奈(33)。最後に国民党所属の O市の市議会議員で元地方局アナウンサーの間橋みゆき(39)。

小説の冒頭は高月のライバルである国民党衆院国対副委員長・朝沼侑子の不可解な自殺から始まる。そして、それをきっかけにこの4人が順番に繋がって行く。

高月は口癖のように言う。「私、憤慨しています」と。言うと言うより、ひどい目に遭うたびに怒声を上げる。

だが、憤慨しているのは高月だけではない。他の3人も、それぞれ個性は異なるが、多かれ少なかれやはり憤慨しているのだ。何に憤慨しているか?──ひとことで言うならジェンダー・バイアスにであり、それを許している社会に対してである。

僕はこの小説を読み始めて、ああ、著者も同じように憤慨しているんだな、と思った。

無愛想にしていれば女らしくないと言われ、女性らしくすれば女を使っていると言われる。障害だらけの環境で、それでも負けじと泳いでいこうとする高月の決意があらわれている気がした。

そういう表現には同じように著者の思いも読み取れる。

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Tuesday, August 20, 2024

僕とPokémon GO

【8月20日 記】 僕は Pokémon GO をやっているが、別に昔からポケモンが好きだったわけでも何でもない。iPhone にそのゲームが入った時がポケットモンスターとのほぼ初めての接点だった。

僕はゲームというものにあまり馴染まずに育ってきた。

もちろんトランプや UNO などのカード・ゲーム、人生ゲームや野球盤などのボード・ゲーム、あとは将棋とか麻雀とかはやってきたが、アーケード・ゲームやゲーム機はほとんどやらずに育ってきた。

予備校時代にインベーダーとかギャラクシーなどのブームが到来し大学時代まで続いたが、僕はいつも、何度ゲーム・オーバーになってもコインを入れ続ける友だちの側で見ているだけだった。

ゲームセンターにもほとんど出入りしたことがない。

ゲーム機の類も、忘年会のビンゴ大会で当たった DSi を別にすれば、任天堂の他の如何なるゲーム機も、play station も一切所有したことがない。

PC にバンドルされていたゲーム、例えばソリティアとかマインスイーパーなどは、もちろん初めのころはそれなりにやったが、もう長らくやっていない。

iPhone を持ってから熱中したゲームもいくつかあったのは確かだが、ごく一部の限られたゲームのみである。そのうちのひとつが Pokémon GO だった。

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Monday, August 19, 2024

野球の球種はなんでややこしくなってきたか

【8月19日 記】  僕らの世代は小さい頃から野球をやり、小さい頃からプロ野球を観てきたが、野球の変化球というのはいつからこんなに増えたんだろう?と思う。

僕らが小学校低学年のころはせいぜいカーブとシュートくらいだった。

まっすぐ来るのが直球、右投手が投げて右打者の外角に曲がるのがカーブ、内角に曲がるのがシュートという簡単な見分けだった。もっともシュートというのは日本だけの呼び方のようだが。

400勝を挙げた金田正一はまさにカーブで一世を風靡した。彼の、縦に落ちるカーブは特にドロップと呼ばれた。

カーブは今でも多くの投手が投げているが、シュートのほうは肘を痛める危険性があるので投げる投手は減ってきている。

そのうちに、落ちながら曲がるカーブに対して、あまり落ちずに平行に近い感じで滑るように曲がるスライダーという変化球が出てきた。

それ以外だとフォークボールというのがあったが、これは当時はまさに魔球という感じの球種だった。代表格はもちろん阪神の村山実だ(その次は大洋の遠藤一彦かな)。

あとは小山正明のパームボールなんてのもあったが、パームなんかは小山しか投げる投手がいない、これも魔球の類だった。

つまり、多くの投手にとってあくまで基本はストレート、カーブ、シュートだったのである。

球種がどんどん増えてややこしくなってきたのはいつごろからだろう?

そんなにボールをひねらなくても握りで変化するということに誰かが気づいたということじゃないかな?と僕は思っている。

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Saturday, August 17, 2024

シティ・ポップと僕

【8月17日 記】 ここのところもう何年も日本の“シティ・ポップ”が海外も含めて大ブームになっている。しかし、どうも僕はシティ・ポップにはそれほど興味がないことに気づいた。

聴かないわけではない。好きな作品も少なからずある。ただ、シティ・ポップというジャンル全体が好きかと言えば、どうもそうではないのである。

ものすっごい作品は聴く。ものすっごい作品とは何かと言えば、例えば大滝詠一の『A LONG VACATION』だ。

でも、広くシティ・ポップと括られる作品の中には、聴いていて全く邪魔にはならないものの、決して刺激に満ちていないものも少なくない。

何度か書いたことがあったかもしれないが、僕は基本的に音楽に癒やしを求めていない。僕が断然ほしいのは刺激である。

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Thursday, August 15, 2024

映画『ブルーピリオド』

【8月15日 記】 映画『ブルーピリオド』を観てきた。Blueperiod

例によって原作漫画は読んだことはなかったのだが、評判の高い漫画だったからアニメ化されたときに初回から見始めた。でも、僕は初めの何話かで脱落してしまった。

割合ゆっくりとした展開にじれてしまった面もあるが、一番大きな理由は、アニメでアートの世界を十全にアピールするのは無理なんじゃないかな、と感じたからだ。

油画で東京藝大を目指す高校生という設定はとても新奇で、その辺りは面白かったのだが、しかし、アニメの画風で作中の絵画に説得力を持たせるのは却々難しいなと思った。いや、アニメになった時にその辺のところで失敗していたとまでは言わない。でも、やっぱり難しいなと思ったのである。

世の中には「ゴッホは好きだけどゴーギャンは嫌いだ」なんてことを言う人は山ほどいる。そんな人に「いやいや、ゴーギャンは歴史的にも世界的にものすごく高く評価されている画家ですよ」なんて言ってみても仕方がない。ある人にとってはゴーギャンよりも二流画家のほうが響くことだってザラにあるのだ。

絵画の説得力ってそういうものなのだと思う。だから、映画で万人受けを狙っても無理な話で、となると、たとえ自分が好きな絵ではなくても、「なるほど! こういう絵のそういうところが評価されるのか」などと感心させなければならない。それは簡単なことではないだろう。

しかも、それを、実物の絵画よりも明らかに写実性が落ちるアニメという作品の中で、一つひとつの絵画の魅力を描き出すのは、こりゃ至難の業だ、と思ったわけである。

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Tuesday, August 13, 2024

映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる』

【8月13日 記】 映画『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる』を観てきた。Img_2332

櫻坂48 の藤吉夏鈴が主演だが、彼女が目当てではない。僕は小林啓一という監督が好きなのである。

小林監督はずっと青春映画を撮ってきた。そして『殺さない彼と死なない彼女』にしても『恋は光』にしても、登場人物は多少イタイやつでも、そこで描かれる青春は決して痛々しくないのである。そこが素晴らしいと思う。

さて、この映画での藤吉の演技は所どころぎこちない。演技経験がないわけではないが、映画は初出演で、共演の髙石あかりや久間田琳加と比べるとやはり少し見劣りしてしまう。

だが、それなりに味は出てたかな、という感じ。

ストーリーは、いろいろいきさつがあって新聞部に入部した高校一年生・所結衣(藤吉夏鈴)が部長の杉原かさね(髙石あかり)と2人で、学内に巣食う悪を告発し駆逐して行くというもの。

どんでん返しが用意されているとは言え、話は上手く転がりすぎだし、チャチなところもあるし、何よりもテーマが青臭い。

しかし、その辺りが小林監督の腕の振いどころなのではないかな。

テンポは良いし、結衣の一直線な正義感が描かれて、何よりも観ていてスカッと胸のすく青春映画に仕立て上がっているのである。何とも気持ちが良い。

筋運びにケレン味がないのである。それでこその青春映画ではないか!

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Sunday, August 11, 2024

『渋谷系音楽図鑑』牧村憲一・藤井丈司・柴那典(書評)

【8月10日 記】 この本が 2017年に出版されていたことを僕は知らなくて、スガイヒロシさんの note で初めて知ったのだが、「これは何が何でも読まなアカンやつや」と直感してすぐに購入し、読んでみたらまさにその通りの本だった。

書名を見ると「渋谷系」と言われた楽曲のカタログ本と思うかもしれないが、全くそんな本ではない。

日本の流行音楽や、果ては文化という大きなワードで括るべきものを、歴史と経験とデータに基づいてしっかり分析し、本質となる流れを洗い出した画期的な大著なのである。

この本の著者は 1946年生まれの音楽プロデューサー・牧村憲一と、1957年生まれのプロデューサー/プログラマー/アレンジャーの藤井丈司、そして 1976年生まれの音楽ジャーナリスト柴那典の3人で、冒頭から第五章までを牧村が執筆し、最後の二章が著者全員の鼎談になっている。

牧村憲一については津田大介との共著『未来型サバイバル音楽論』を読むまで名前を知らなかったのだが、今回この本を読んでみて、ここまで深く長く日本のミュージック・シーンに関与し、かつ育ててきた人なのかと改めて驚いた。

柴那典についてはネット上や雑誌などで今までいくつか文章を読んでいる。藤井丈司は僕は知らなかったのだが、この世代的にもかなり離れている3人の組合せはかなり巧く機能していると思う。

牧村憲一はこの本を自分の音楽体験や最初のキャリアから書き起こしたりはしていない。渋谷の地形や開発の歴史などから説き起こしている。つまり、タイトルに反して、単なる図鑑にする気など全くなく、時代と文化を語ろうとしているのである。

彼はフリッパーズ・ギターを見出し、デビューさせたプロデューサーで、そのこともあって「渋谷系」の始祖のように語られることも多く、これまでにも何度か「渋谷系」を語る本を書いてほしいと言われたことがあるそうだが、実は「渋谷系」という呼び名はフリッパーズが解散した頃から出てきたもので、牧村としては非常にご都合主義なものだと否定的に感じていたのだと言う。

そういう一般人が知らない背景や、数多くのミュージシャンとの豊かな交流のエピソードなども交えながら、彼は音楽というものがどういうものなのか、あるいはどうあるべきだと感じているのかというようなことを、非常に深く掘り下げて語っている。

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Saturday, August 10, 2024

ベルルッティ結び

【8月10日 記】 何年か前にビルケンシュトックで靴の中敷きを買った時に店員さんに教えてもらった靴紐の結び方がとても気に入って、持っているほとんど全ての紐靴をこの結び方にした。調べてみたら「ベルルッティ結び」と言うらしい。

結び目が2つできる形も好きなのだが、何よりもしっかり結べて緩んで来ないところが良い。

しかし、緩んで来ないために結び直すということがないのだ。

脱ぐ時にいちいちほどいていたらそういうことはない(実際暫くはそうしていた)。しかし、結んだまま靴べらで脱ぎ着していると、一度結んだらもうずっとそのままなのである。

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Wednesday, August 07, 2024

『ゼロK』ドン・デリーロ(書評)

【8月7日 記】 時々重厚な本を、と言うか、読むのがしんどい本を読みたくなる。そういう時に手に取るのがドン・デリーロだ。この本もしばらく前に買っておいたのだが、本棚に置いたまま自分の中にそういう機運が高まるのを待っていた。

しかし、この本は 2016年刊行で、日本で翻訳されているものの中では2番目に新しい作品なのだが、ますます読みづらく、読むのに難渋を極めるようになってきた。

僕が初めて読んだのは『アンダーワールド』(1997年)で、あの複雑に絡まった重層構造の物語にクラクラしながら魅了されたのだが、この本で描かれるのはほとんどひとつのストーリーなのである。

『コズモポリス』(2003年)にしても『堕ちてゆく男』(2007年)にしても、いろんな人物やいろんな時代のいろんな物語がぐちゃぐちゃに絡み合った話であり、そこがしんどいけれどデリーロを読む愉しみであったと思う。

しかし、この小説で語られているのは主人公ジェフリーの父・ロスとその再婚者であるアーティスの、自ら望んだ「死」についてがほとんどを占めるのである。死と言っても自殺ではない。いや、厳密に言うと死ですらないかもしれない。

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Tuesday, August 06, 2024

thunderbirdだより

【8月6日 記】 ここ数日 thunderbird の具合が悪い。Microsoft の Outlookメール(@live.jp)を読もうとするとエラーメッセージが出るのである。

同じようなことは今年の1月にもあったのだが、そのときはメッセージが出るだけで実は接続はできており、メールもちゃんと取り込めたのである。

ところが今回は、最初は何度か再接続を試みているうちにいつの間にか接続できるようになっていたのだが、ここ2~3日はまるで接続できなくなってしまった。もちろん既に取り込んだメールは読めるのであるが、当然新しいメールは取り込めない。

僕は結構多くのアカウントを使い分けていて、それに合わせてメールクライアントもいくつか使っている。

今は、と言うか、多分 20年以上 thunderbird をメインのメールクライアントにしていて、そこでメインのアカウントと live.jp のメールを読んでいたのだが、後者が不可能になってしまったわけだ。

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Saturday, August 03, 2024

映画『めくらやなぎと眠る女』

【8月3日 記】 映画『めくらやなぎと眠る女』を観てきた。Photo_20240803225201

吹替ではなく字幕版を観たいなと思ったら、昼間はどこの館でも吹替版しか上映しておらず、夜まで待たなければならなかった。で、てっきりフランス語だと思ったら英語だったので驚いた。

しかし、これ、英語版で観て良かった。日本語版を観ないで言うのもアレだが、英語版で観るのが一番良いのじゃないかな。

英語という言語を通じて世界観が非常にしっかり確立されていたし、解りやすい英語だったこともあって、英語を聴きながら日本語字幕を見ると、両方の情報が補い合って一番良く理解できるのではないだろうか。

ただ、例えば作中のテレビの音声などは基本的に英語なのだが、筋に関係のないノイズとしてのテレビの音声や、病院での呼び出しの声などが日本語なのは少し奇妙だった。監督は元々日本語版で撮りたかったということと関係しているのかもしれないが。

で、映像のほうは、冒頭の、真っ暗な中を螺旋階段で地下に降りて行くシーンから描き方が秀逸だと感じた。なるほど、こういう描き方があるのか、と。

そのシーンだけではなく、ありとあらゆるカットで線画であることの特徴が見事に活かされていた。つまり、3DCG では絶対に描けないだろうということ。

例を挙げるとすれば、人やものが時々“ほぐれて” 切れ切れの線になってしまうところとか、ところどころ人物や背景が透けていたりするところとか…。

そして、この画風で描くと、それぞれの登場人物が(片桐のおっさんやかえるくんまでも)なんだか異常に“生々しく”て“なまめかしい”のである。この味はこの画でないと出ないだろう。

まずは実写版として実際の俳優が演じる形で撮影し、それをアニメ化するという手法で作られたという。

そのそもこの作品は村上春樹が日本語で書いた小説を、誰かが英語に翻訳して、それを読んだピエール・フォルデス監督がストーリーボードを書き、それを基に実写版が英語で撮影され、それに絵を当てはめてアニメができ、その英語版に日本語字幕がついたものを僕が観ている(人によっては日本語版のアフレコを観ていたりもする)という、めちゃくちゃたくさんのフィルターを経ているわけで、その構造が作品を面白くしている気もする。

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Friday, August 02, 2024

Netflixだより

【8月2日 記】 Netflix で『アンブレラ・アカデミー』の続編がいよいよ 8/8 から始まる。

今季はテレビドラマとアニメも結構たくさん見ているので、これ以上是非モノが増えると手に負えなくなると思って、最終シーズンの序盤で止まっていた『デッド・トゥ・ミー』を大慌てで最終話まで見終わった。

わりと面白かったのだが、終盤まで見て、ああ、これはコメディだったのか、と思った。

いや、もちろん今までのエピソードにも笑える箇所はふんだんにあったのだが、このドラマが全体としてコメディという範疇に収まっているとは思いもしなかった。

殺人とかひき逃げとか証拠隠滅とかいろんなことが次々と出てくる(しかも、そこには反省も苦悩もあまりシリアスには描かれない)ので、あんまり笑える話でないような気もする。

しかし、こういうあながち笑えない話を笑って見るのがアメリカ人なんだなという気もしないではない。

いくらなんでも警察の捜査があまりに場当たり的だと思ったのだが、なるほどあくまで喜劇だと思って見ていたらそういうのも気にならないのかもしれない。

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