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Sunday, June 30, 2024

映画『言えない秘密』

【6月29日 記】 映画『言えない秘密』を観てきた。

大体は監督で映画を選んでいる僕だが、河合勇人監督には別に何の思い入れもない。今回は完全に古川琴音目当てである。

「京本大我の映画初単独主演」と銘打たれていて、STARTO ENTERTAINMENT としては大々的にそういう打ち出し方をしたかったのだろうけれど、僕からしたら、悪いがこれは完全に古川琴音の映画になっていた。

僕が彼女の名前を憶えたのは 2019年の映画『チワワちゃん』で、その時は「ちょっといいなあ」ぐらいだったのだが、2021年の NHK BS のドラマ『流行感冒』で彼女に釘付けになってしまい、以来全く目が離せない存在になってしまった。

とにかく可愛いのだ。そんなに整った目鼻立ちではないのだが、昔で言うファニー・フェイスで、表情がいちいち素敵なこともあって、なんとも言えず愛らしい。

そして、声が良い。喋り方にも独特の魅力がある。

いい歳をして何を言っているのか、みたいなことを言う人もいるかもしれないが、女の子を可愛いと思う心に年齢など関係がないと僕は思っている。

今回の映画では着る服、着る服がいずれもめちゃくちゃ似合っていて、ほとんど奇跡のように可愛い。長めのスカートやパンツ・ルックが多かった中で、クリスマスの夜に着ていた膝頭が少し覗くぐらいの丈のスカートがとりわけ可愛かった。

映画において主演女優をきれいに、あるいは可愛く撮るということはとても大切なことだと普段から僕は考えているのだが、そういう意味ではこの映画は満点である。

さて、予告編を観ただけでも、古川琴音が演ずる雪乃が実はすでに死んでいるということは暗示されている。

よく「死亡フラグが立つ」という表現が使われるが、ここではこれから死んでしまうフラグではなく、すでに死んでしまっている(ということを後の場面で明かす)というフラグが立っているのである。

音大を舞台とした話である。原作となったのは、日本では 2008年に公開された同名の台湾映画で、日本でも大ヒットしたのだそうだ。今回は高校生を大学生に変えてのリメイクである。

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Saturday, June 29, 2024

『九十歳。何がめでたい』というタイトルを見て

【6月29日 追記】 『九十歳。何がめでたい』というタイトルを見て、さすがに佐藤愛子は昭和の大作家だと思った。

表題には句点を打たないのである。

いやいや、「九十歳」のあとにマルがあるではないかと言われるかもしれないが、それはそこで体言止めになって文が一旦終わっているからである(僕ならここは句点で文を終わらせるのではなく読点を持ってくると思うのだが、そこは趣味の違いだ)。

なんであれ、タイトルの終わりである「何がめでたい」の後にはマルは打たないのである。たとえそこで文が終わっていても、タイトルの終わりには決して句点は打たないのである。

つんくが「モーニング娘。」を作って以来、タイトルにやたらとマルを打つのが流行りだした。しかし、もちろん昭和の大作家はそんな流行には乗らないのである。

従来、たとえひとつの文の形になっていたとしても、タイトルには決して句点を打たないのが標準だったのだ。

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Thursday, June 27, 2024

映画『九十歳。何がめでたい』

【6月15日 記】 映画『九十歳。何がめでたい』を観てきた。

満席とまでは行かないが、平日の昼間だと言うのにかなり席が埋まっている。ただし、老人ばかりである。

かく言う僕も老人の端くれであるが、昨今では一口に老人と言ってもとても年齢層が広い。僕の親の世代と言っても良いような人たちも少なからずいる。

そんな客席を見渡しながら、そうか、こんなマーケットもあるんだ!と思った。今や老人が人口に占める割合はとても高いし、実数も多いのだ。平日ガラガラの映画館も少し考えたほうが良いだろう。

ところで、草笛光子と前田哲監督の組合せと言えば、すぐに思い出すのが 2021年の『老後の資金がありません!』である。誰が誰にどう働きかけて今回の企画が実現したのかは知らないが、あの映画が今回の組合せを実現する大きなきっかけになっているに違いないと思う。

あの映画の草笛光子はとにかく素晴らしかった。僕は「主演2人よりも遥かに目立っていたのは章の実母を演じた草笛光子である。この映画はさながら草笛光子ショーだったと言っても過言ではない」と書いている。

そして、この映画でも草笛光子はとても素敵だった。彼女が演じたのは作家の佐藤愛子である。そして、映画のタイトルとなっているのは佐藤愛子のベストセラー・エッセイ集のタイトルであり、今回は彼女がこのエッセイを書くに至った経緯が描かれている。

僕は佐藤愛子の小説もエッセイも読んだことはない。だが、その姿は何度かテレビで見ている。

前田監督は草笛に「モノマネはしなくていいですが、見た目は少し近づけたい」と言ったらしい。だから、ここでの草笛の喋り方は佐藤愛子の喋り方とは全く違っている。

メイクや衣装などでは少し本物に近づけてはいるが、ここにいるのはまさに草笛光子の佐藤愛子であり、草笛光子らしい佐藤愛子なのである。そこが素晴らしい。

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Wednesday, June 26, 2024

『ザ・ビートルズ 全曲バイブル 公式録音全213曲完全ガイド』大人のロック!編(読んでいないので書評ではない)

【6月26日 記】 自分の経験ではまず滅多にないことなのだが、この本を買ったのは失敗だった。まるで読む気にならない。

7,150円もした。もったいないことをしてしまった。

買った本を読まずに放っておくということも、僕の場合はまずないことなのだが、この本はそうならざるを得ない。と言うか、読まずに捨てるか売るかする。

この本、ほとんどが録音の解説なのである。どんな機材をどんな風に繋いでどんな録音をしたか。あとはミックスのバージョンによる違いなど。

「楽曲解説」に書かれているのは、誰がいつどこで作曲したかとか、いつ発売されたかとか、ちょっとした裏話とかで、「サウンド解説」に書かれているのは楽器や録音機材の構成の話がほとんどである。

何より、楽譜もコード譜も全く出てこない。波形のグラフなどはふんだんに出てくるのに。

こんなのが好きな人もひょっとしたらいるのかもしれないけれど、僕はげっそり。こういうのが「大人のロック!」なのか?

この本は大失敗。

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Tuesday, June 25, 2024

YouTube

【6月25日 記】 会社を辞めてからよく YouTube を観ている。

働いているときはあまり見なかった。初期の YouTuberたちのやっている、ジャスト・ワン・アイデアに基づく素人芸が好きになれなかったのである。

しかし、今では、そんな風に YouTuber を一括りにできなくなっている。

ありとあらゆる人をターゲットとした、ありとあらゆるジャンルの、ありとあらゆる構成に基づく、ありとあらゆるキャラクターや作風のコンテンツが溢れ返っている。

だから、そこで何でも学べる。

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Sunday, June 23, 2024

ファイターズとゴマフアザラシ

【6月23日 記】 2泊3日で北海道に行ってきた。

目的のひとつはエスコンフィールド HOKKAIDO。僕が日本ハム・ファイターズの長年のファンであるということもあるが、死ぬまでに日本のプロ野球球団の本拠地となっている全ドーム球場に行けたらな、と思っているということもある。

英語で言うなら、It’s on my bucket list. というやつである。

ちなみに、何故、死ぬまでにやっておきたいことのリストを bucket list と言うかと言うと、死ぬことを kick the bucket と言うところから来ており、何故死ぬことを kick the bucket と言うかと言うと、自殺をするときに首に縄をかけてバケツの上に乗ってからバケツを蹴って宙に吊るされるからだそうだ。

そこから転じて、別に自殺でなくてもこの表現は使われるとのこと。

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Thursday, June 20, 2024

最終話まで観たドラマ&アニメ

【6月20日 記】 僕は記録をつけたり、それを分析したりするのが大好きです。

1994年に初めて PC を買ったのも、ゲームやパソコン通信がしたかったからではなく、インターネットで情報発信しようと考えたわけでもなく(まだそんな時代は来ていませんでした)、自分が観た映画のデータベースを作りたかったからなんです。

初めて自分が買ったアプリケーションは Microsoft Access でした。で、その Access で作ったデータベースに、今では僕が生涯に観た全映画のデータが入っています。

で、そんな僕ではあるのですが、実はテレビで見たドラマやアニメの記録は全然残っていませんでした。

それで今更ながらではありますが、少しは記録をつけておこうと思って、ネット上にあるデータと自分の記憶を照らし合わせて一覧表を作ってみました。

問題はどこまで遡るかですが、結局 2017年までにしました。

その辺りまで遡ると、果たして最後まで観たのか途中でやめたのか、本当に観たのか単に観たような気がするだけなのか、かなりあやふやになってきたので。

そういうわけで若干間違っているかもしれませんが、2017年1月以降で、僕が最終話まで観た連続ドラマと連続アニメをリストアップしてみました。

テレビで放送してはいたが自分は配信で観たというものも含めてあります。逆に、配信はしていたがテレビの放送はなかったというものは除外してあります。

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Monday, June 17, 2024

漢数字の単位の変更の提案(デノミではありません)

【6月17日 記】 最近では全く聞かないですが、かつてインフレ対策の一環として、デノミネーションの必要性が議論されたことがありました。

例えば 100円を百分の一にして新1円とします(この場合従来の 50円は例えば昔使っていた単位を持ってきて 50銭とするなど、新しい単位が必要になります)。10,000円は 100円になり、100万円は1万円になるわけです。

それが経済的にどういう効果を産むのか僕にはよく分かりませんが、まあ、見た目すっきりするということはあるかもしれません。

1ドル = 百何十円というのも 1.x 円になるので、そっちのほうがカッコ良いかもしれません。

ただ、僕がやってほしいのはそんなことではないのです。僕がやってほしいのは、漢数字を3桁区切りに合わせてくれないかな、ということです。

例えば、567,000円はパッっと見ていくらだか分かりますか? これは僕はひと目で分かります。56万7千円ですよね。働いている(あるいは働いたことのある)人であれば、多分このぐらの桁なら大体大丈夫でしょう。

238,457,290円はどうでしょう? 一番上の桁は 2億ですよね。このくらいまでならば僕は大丈夫です。このぐらいの桁の数字はしょっちゅう出てくる職場にいましたから。

でも333,029,851,122円となると、ちょっと考えないと分からなくなります。下手すると一十百千万…と数える羽目になります。

何故分かりにくいかと言うと、漢数字は一万 → 十万 → 百万 → 千万 → 一億…と4桁ごとに変わって行くのに、アラビア数字は3桁ごとにカンマを打って行くからです。

これが英語だと楽なんですよね。

3桁の次の4桁目で thousand、6桁の次の7桁目で million、9桁の次の 10桁目で billion 、12 桁の次の 13桁目で trillion と見事に3桁ごとに変わって行きます。

と言うか、逆なんですよね。これ、英語の数の数え方に合わせて数字3桁ごとにカンマを打つことにしているわけですから。

日本語だと4桁ごとにカンマを打ったほうが絶対に分かりやすくて、僕らが子供の頃には実は一部にまだそういう表記法が残っていたのですが、今では世界的な標準に完全に駆逐されて必ず3桁ごとにカンマを挿入するようになりました。

でも、表記だけそんな風にされても、数を表す漢字がそうじゃないので、頭がついて行かないのです。

それだけじゃなくて、例えば英語で値段の話をしているときに、「これを three hundred thousand yen で買った」とか、「あの家は one hundred million yen では買えない」とか言われても、咄嗟にそれが高いんだか安いんだか、高いなら高いでどれくらい高いのかが全くピンと来なくて、会話を遮って換算するしかないんですよね。

日本語でも「7桁の数字を提示された」なんて言われてもそれこそ一十百千万…と数えるか、あるいはアラビア数字を思い浮かべてそれを脳内で読み取るかしないと分からないので、とても時間がかかるのです。

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Saturday, June 15, 2024

映画『蛇の道』

【6月15日 記】 映画『蛇の道』を観てきた。家に帰ってきてからパンフレットを読んで初めて知ったのだが、この映画は黒沢清監督自身が 1998年に哀川翔、香川照之らの出演で撮った同名の Vシネマのリメイクだった。

オリジナル版の舞台は日本で、日本人男性2人による復讐劇という設定が、ここでは舞台はパリに変わり、フランス人男性と日本人女性のコンビになっている。

ちなみに、柴咲コウのフランス語の発音の良さに驚いたのだが、半年前から特訓して、最後の2か月はパリで生活していたのだそうだ。

冒頭のシーンはいきなり小夜子(柴咲コウ)とアルベール(ダミアン・ボナール)がラヴァル(マチュー・アマルリック)を拉致するシーン。

この2人が何者で、2人はどういう関係で、襲われて拉致されたのが何者なのか(少なくとも2人の顔見知りではない)、その辺の説明が全くなく、何がなんだか分からない。

黒沢清って、そういう監督だったよな、と思う。その後もずっとそうなのだが、何等かの”分からなさ”が観客を不安にさせるのである。

そして、この分からなさが進むに従って不吉さに変わってくる。そう、黒沢清って、ホラーでもミステリでもない一般ドラマを撮っても拭いようのない不吉さがずっと漂っているのである。

やがて2人はラヴァルをでかい倉庫みたいな場所に監禁し、手足に鎖をつけて壁に縛り付ける。アルベールがラヴァルにビデオを見せる。生前の彼の娘の映像だ。アルベールの娘は何者かに惨殺された。アルベールは小夜子の助けを借りながらその復讐を果たそうとしているということがこの辺りで明らかになる。

しかし、ラヴァルは何のことだか分からないと言う。観客の目にもシラを切っているようには映らない。だが、2人はラヴァルに容赦のない仕打ちをする。トイレにも行かせない。食べ物は手の届かないところに、しかも床にわざと落として去って行く。

そのうちに小夜子が自転車で職場に出かける。それで初めて彼女が心療内科の医者であることが分かる。

患者の吉村(西島秀俊)とのシーンが2回出てくる。本筋と全く関係がないように見えて、底のほうでじんわり繋がっている感じがあるのが恐ろしい。

別居中で日本にいる夫(青木崇高)と小夜子がビデオ通話で会話するシーンにも同じような効果がある。

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Friday, June 14, 2024

映画『かくしごと』

【6月14日 記】 映画『かくしごと』を観てきた。

関根光才監督と言えば、彼の長編デビュー作であり、趣里が主演した 2018年の『生きてるだけで、愛』が代表作ということになるんだろうけれど、僕はその翌年に見たショートフィルム『TRANSPHERE』が強烈に印象に残っている。あの映像美に完全に魅せられてしまった。

今回の長編第2作は、決して映像美で押すような映画ではないのだが、しかし、彼が描く山の中の古民家を中心とした映像はやはりとても美しい。家と外の風景が非常に美しく溶け込んでいる。

父と娘の話である。一人暮らしをしている父・孝蔵(奥田瑛二)の認知症が放っておけない状態になっていると聞きつけて、児童向け小説の作家をしている娘の千紗子(杏)が東京から帰って来る。しかし、孝蔵は千紗子を見ても自分の娘と判らず「誰?」と訊く。そして、家事手伝いの女性と勝手に解釈する。

この冒頭を見て、僕は強烈な違和感を覚えた。僕は母が長らく認知症を患った後に亡くなり、存命中の義母も目下認知症である。認知症がそんなものでないことはよく知っている。

父は娘を娘と認識していないのである。それはつまり、孝蔵からすれば、見たこともない女がやってきて(この映画では明確に「娘です」とは言っていないけれど)いきなり馴れ馴れしく接するのである。当然強烈な警戒感を抱くことになる。そんな見ず知らずの女を易々と家に入れるはずがないではないか。

それに、仮にお手伝いの女性だと思ったとしても、1分後には完全にそんなことを忘れているから、間違いなくそこでまた「誰だ?」となって、その後もそれを何度も何度も繰り返すのである。

この映画では千紗子が来た翌日には、ちゃんと共同生活者としての関係が確立している。そんなことはあり得ない。

もし、認知症はまだそれほど進んでいないのだと言うのであれば、そんな初期の段階で娘が判らなくなったりはしない。いろんなことを短期的に忘れて、しかもそれを繰り返すが、肉親が判らなくなるのはもっともっと先で、この時点ではとにかく猜疑心が強く、物盗られ幻想も(これは映画の中盤で出てくるが、本当ならすでに)強烈なはずだ。

あーあ、最初からこんな設定されると白けるなあ。こういうリアリズム破壊があとを引くんだよな、と思って観ていたのだが、しかし、この非整合性はなんと中盤で説明がつくのである。ネタバレになるので書かないが、これには驚いた。

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Monday, June 10, 2024

『冬に子供が生まれる』佐藤正午(書評)

【6月10日 記】 この小説を読み終えて最初に思ったのは、すぐに「伏線が回収できていない」などと騒ぎ立てるような若い連中には、この小説はからっきし受けないんだろうな、ということ。

彼らは小説の途中で分からないことがあるとそれを「伏線」だと思い、自分が読み終えるまでにその全てを分かるようにしてくれるのが作家だと考えているのだろう。

だが、現実の世の中がそんな風ではないように、小説というものもそんなものではないし、佐藤正午という作家もそんなものは書かない。

佐藤正午という作家は読者を宙吊りにして不安を煽る作家だ。

ただ、今回は、こういうことは僕の場合時々起きるのだが、割と早い段階で、僕は電子書籍で読んでいるのでページ数は言えないがキンドルの%表示で言うとちょうど 20% のところで、あ、そうか、これはつまり大体こんな感じのことが起きているんだな、と読めてしまった。

だから、中盤以降は、いつもの佐藤正午を読んでいるときのような不安感は少なく、ただ自分の読みがどれくらい当たっているかを確かめる旅になった。

とは言え、やっぱり佐藤正午である。主人公のマルユウこと丸田優はいきなり「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」というショート・メッセージを受け取るのである。彼は未婚である。なんとも言えず、ざわざわした感じの物語の切り出し方ではないか。

しかも、今ではメジャーな存在になってテレビに出ている高校の同級生たちのバンドが、自分を元メンバーのベーシストだったと言っている。それはマルユウではない。でも、彼ら全員が取り違えている──マルユウと誰かを。

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Sunday, June 09, 2024

映画『違国日記』

【6月9日 記】 映画『違国日記』を観てきた。とても良い映画だった。うん、びっくりするくらい。実に良かった。

ひとことで言うと成長物語なのだが、交通事故で両親を失った卒業間近の中学生・朝(あさ、早瀬憩)ひとりの物語ではなく、行きがかり上彼女を引き取ってしまった、叔母で小説家の高代槙生(たかしろまきお、新垣結衣)の成長物語でもある。いや、他の大人たちの物語でもあるのかもしれない。

とにかく脚本が素晴らしい。これは原作漫画の素晴らしさをきっと引き継いでいるのだとは思うが、それだけではないと思う。台詞的にも画的にも良いシーン続出で、僕は初めて観たのだが、監督・脚本・編集の瀬田なつき恐るべし!と思った。

冒頭はアイスクリームを買ってニコニコ顔の朝。両親の車はどこに駐車してたっけ?と見回すと、車から母親が手を振っている。そして、眼の前を通過するダンプカー(近すぎで速すぎて何なのかも識別できない)、ブレーキ音、衝突音。衝突のシーンは描かない。

次のシーンは PC で執筆中の槙生。電話が鳴る。何を知らせる電話なのかは言うまでもない。電話に出るシーンは描かない。次のシーンは病院に駆け込んで行く槙生。「遅いじゃない」と言う槙生の母(銀粉蝶)。

ものすごく手際が良い。

葬式の後の宴席で、周りがいろんなことを無神経に語っているのが朝に聞こえるシーンで、突然真っ暗になって朝の周りに誰もいなくなる。これはとても巧い比喩だ。この後も同じような手法の映像的な演出が出てくる。

皆の無神経さに腹を立てた槙生が、勢いで朝を引き取ると宣言してしまう。

「わたしはあなたの母親が心底嫌いだった。だから、あなたを愛せるかどうかはわからない。でも、わたしは、決してあなたを踏みにじらない」

いきなりの、この啖呵めいた台詞に度肝を抜かれた。この台詞が全体のテーマを括っている。

原作者のヤマシタトモコは「この作品で『人と人は絶対にわかりあえない』ことを大切に描きたいと思っていました」と言ったらしい。それは僕が普段から強く思っていることでもある。

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Friday, June 07, 2024

映画『あんのこと』

【6月7日 記】 映画『あんのこと』を観てきた。

入江悠監督の作品を観るのは実に久しぶりで、2018年の『ギャングース』以来である。

あまり細かい筋などは知らないまま観ようと決めたのは、宣伝文を読んでいると、なんかこの映画にはただならぬ“気迫”が漂っている感じがしたからだ。

僕はここのところ入江監督がわりと分かりやすい娯楽作品ばかりを撮っているような印象を持っていた(実際には観ていないのでどんな映画だったかは知らない)。しかし、この映画は明らかに違う。

実際にあった事件、死んでしまった女性をモデルに、入江悠が脚本を書いたとのこと。だからこの映画は、最後にはヒロインが死んでしまうと分かっている。

そのヒロインである杏(あん)を演じたのは河合優実だ。今年1月期の TBS のドラマ『不適切にもほどがある』でブレイクした、などと言われることが多いが、僕が彼女を最初にいいなと思ったのは城定秀夫監督の『愛なのに』(2022年)での、瀬戸康史に一方的に恋をする女子高生役だった。

あれからあっという間に主演級になった。

杏は悲惨な環境に生きる少女だった。

家が貧乏だったのでいつもスーパーで万引きしていたら、それが学校に知られてしまったので、小学校の途中から学校には行っていない。

シャブを打っている。売春をしている。家にはたまにしか帰らない。

母(河井青葉)と祖母(香川恵美子)の3人で住んでいるアパートはゴミ屋敷だ。そこで母は男の客を取っている。

男を紹介してあんに最初に売春をさせたのもこの母親である。そして、あんに対しては高圧的な態度と暴力で彼女を支配しようとする。何よりも、自分の娘をママと呼ぶ異様さが怖かった。

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Thursday, June 06, 2024

映画『告白 コンフェッション』

【6月6日 記】  映画『告白 コンフェッション』を観てきた。

これはジャンルとしてはホラーということになるんだろう。しかし、山下敦弘監督である。

なんか、山下監督のホラーと聞いた途端に「そんなもの成立するのか!?」と言いたくなるくらいだが、山下敦弘が撮るのだから、中田秀夫や清水崇の撮るホラーとはひと味違う。

人間の心理の弱みに思いっきりつけ込み、思いっきり踏み込んだ(あるいは踏みにじったw)ホラーなのである。

大学時代の親友である浅井(生田斗真)とジヨン(ヤン・イクチュン)が冬山で遭難する。

猛吹雪の中、足を怪我して歩けなくなったジヨンは、「もはやこれまで」と死を覚悟して、実は16年前一緒に登山して行方不明のままになっている、大学の山岳部の仲間だったさゆり(奈緒)は、遭難したのではなく自分が殺したのだと告白する。

しかし、ブリザードが少し治まって視界が良くなると、目と鼻の先に山小屋があるのが見えて、人は難を逃れ、そこで明日には来てくれると思われる捜索隊を待つことになる。

だが、さっきの告白を聞いてしまった浅井も、告白した当の本人であるジヨンも、ともにバツが悪く、ギクシャクしてしまう。浅井は次第に、聞いてしまった自分をジヨンが殺すのではないかと疑心暗鬼になる。

原作は『カイジ』の福本伸行と『沈黙の艦隊』のかわぐちかいじの共作漫画である。この設定を思いついて、これは行ける!と一気に書き上げたんじゃないかな(笑)

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Tuesday, June 04, 2024

映画『トノバン 音楽家加藤和彦とその時代』

【6月2日 記】  映画『トノバン 音楽家加藤和彦とその時代』を観てきた。

加藤和彦については僕はそれほどのファンではない。もちろん『帰って来たヨッパライ』からリアルタイムで聴いているし、フォークルにはかなり心酔したが、ミカバンドやヨーロッパ三部作のころはあまり熱心には聴いていなかった。

彼がプロデュースや編曲で参加しているものを別とすれば、僕が持っている音源は、坂崎幸之助と組んだデュオ・和幸の枚のアルバムだけである。

しかし、この映画は絶対観ないといけないやつだ。

何故なら加藤和彦は 1960年代後半から 21世紀にかけて、日本のミュージック・シーンを語る上で決して外すことのできない人物だからである。言ってみれば、このドキュメンタリは一種の偉人伝なのである。

もちろん知っているエピソードもあったが、あ、朝妻一郎が最初に目をつけたのか、とか、元リガニーズの新田和長とはそんなに親しかったのか、とか知らない話も山ほどあった。

クリス・トーマスをプロデューサーに迎えての『黒船』レコーディングの話はめちゃくちゃ面白く、かつ驚かされた。

高中正義が見せてくれた(しかも、コード・ダイアグラム付きで)『帰って来たヨッパライ』のギター・ワークは今さらながら意外で新鮮だったし、最後の高野寛と高田漣を中心としたオール・キャストでの『あの素晴らしい愛をもう一度』ではもう少しで落涙しそうになった。

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Sunday, June 02, 2024

映画『からかい上手の高木さん』

【6月2日 記】  映画『からかい上手の高木さん』を観てきた。

原作漫画があり、それがアニメになり、そして今回の企画の前半となったテレビドラマ全8話がある。テレビドラマと映画の両方を今泉力哉が監督していて、ドラマのほうは Netflix でも見られる。映画は原作にはなかった 10年後の2人を描いている。

僕はテレビドラマから見始めた。もし、今読んでいるこの文章の続きを読んでいただけるのであれば、是非とも先にテレビドラマの記事を読んでほしいと、今回は切に思う。

で、今回のこの記事にはそこそこネタバレも含まれているので、これから両方観て、僕の記事も両方読んでいただけるのであれば、テレビドラマの記事を読むのと Netflix でドラマ版を観るのはどちらが先でも構わないが、この映画評をお読みいただくのは映画を観た後のほうが好ましいと思う。

さて、今回の映画で僕が一番心配したのは永野芽郁だった。

プロデューサーの大澤祐樹は「最初から永野芽郁しかないと思っていた」と言っているが、僕は原作を読んでいないせいか、あるいはテレビ版にのめり込みすぎたのか、テレビ版で中学生時代の高木さんを演じた月島琉衣とのイメージ・ギャップが気になった。

どう見ても月島琉衣のほうが色っぽいのである。

いや、まだミドルティーンだからそんなお色気ムンムンであるはずがないのだが、早熟さと子供っぽさの中間に不思議な色っぽさが漂っているのが月島琉衣だった。それに比べて永野芽郁は、間違いなくうまい役者ではあるが、あまり色っぽさが感じられない。

このギャップは映画が終わるまで僕の中では解消しなかったが、でも、それはそれとして好演だったと思う。

一方、西片のほうだが、最初はスタッフの間でも「高橋文哉ではカッコよすぎるのではないか」という懸念があったらしいのだが、こちらのほうは永野芽郁の言う「ポンコツな」西片を絶妙に体現して、テレビ版で中学時代を演じた黒川想矢のイメージを見事に引き継いでいた。

あの、おどおどした感じ、言葉に詰まる感じ、一瞬ニヤけて真顔に戻る感じ、どこまでも鈍感で高木さんの恋心に気づかない不思議な感じ。

ま、高橋文哉は今でこそイケメン役ばかりやっているが、2021年の MBS のドラマ『夢中さ、君に。』では(自分がイケメンであることを隠すためではあるが)メガネをかけて、制服の上着の裾をズボンに突っ込んだダサダサの役をやっていたしね。

今泉監督は永野芽郁には「もうちょっと永野さんらしく」、高橋文哉には「もう少しオーバーに」という演技づけをしたらしいが、それが的確に作用している。

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Saturday, June 01, 2024

持てない男の子の悲哀を描いた青春映画3選

【6月1日 記】 今日の記事は記事というより個人的な備忘録(つまり、何だったか忘れてしまった時に、自分のブログを検索したらすぐに判るようにする方策)です。

前に、“持てない男の子の悲哀を描いた、泣かずにいられない青春映画3選”みたいな記事を書いたつもりだったのですが、検索してみても出てこなくて、どうも書いたというのは思い違いだったようで(自分のブログ以外のところに書いたのかもしれません)、それだったら改めて書いておこうと思いました。

その3作とは:

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