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Friday, May 10, 2024

映画『青春18×2 君へと続く道』

【5月10日 記】 映画『青春18×2 君へと続く道』を観てきた。

藤井道人という監督の作品はどれもこれも、なーんかどうにもこうにも観る気にならなくて、これまで『余命10年』しか観ていない。

それもどちらかと言えば「藤井監督であるにもかかわらず観た」のであって、自分の映画評を読み返しても微妙な書き方をしている。

そういうわけで、この映画も当初はまるで観る気はなかったのだが、映画を観る眼を信頼している知人が褒めていたので、観ることにした。

果たして良い映画だった。

しかし、それにしてもこのダサいタイトルは何だ!と思って見始めたのだが、多分協賛社である JR から良い条件を引き出すために必要だったのだろう。

ラブ・ストーリーである。そして、多くの部分がロード・ムービーである。

18年前に一人旅で台湾に旅行に来て、現地のカラオケ店で暫くバイトをしていたアミ(清原伽耶)と、そこのバイト仲間で、年上のアミに恋をするジミー(張孝全:シュー・グァンハン)。

そして、自分の恋心に応えないまま帰国してしまったアミを追って、18年後に、一旦自分の夢は叶えたが今は失意のどん底にいるジミーが、彼女を追って日本を旅する。

東京からアミの故郷である福島県に行くのにものすごい遠回りをするという設定が効いている。これが原作(台湾の紀行エッセイ)通りならびっくりである。

映画はそれらの設定を見事に活かしている。前半、台湾を舞台にしたのは大正解で、その街の景色や人々の息吹が極めて印象的に描かれる。

カメラワークが素晴らしい。藤井監督のリクエストで入れたと言うランタン祭りなどもきれいだったが、色鮮やかな台湾の街や日本の雪国の景色だけではない。

例えば、ジミーが初めてアミの手を握るシーンの、隣同士に座って少し斜めに向き合った2人を、片方の後頭部を画面の端でうっすらと舐めながら、2人の表情を交互に切り返して行くところなど、ああ、本当に良い画だなあと思った。撮影は今村圭佑。

それから、台詞が良い。良い台詞が随所にある。主役の2人だけではない。例えばジミーの父親が喋る2つのシーンなども秀逸だった。脚本は藤井道人と林田浩川。

作中映画として岩井俊二監督の『ラブレター』が出てくるのだが、多分藤井監督もこの映画が好きなんだろう。うん、この映画自体が藤井監督の岩井監督に対する(あるいは『ラブレター』に対する)ラブレターなのかもしれないと思いながら、僕は観ていた。

後半の、ジミーが日本に来てから順番に出会う日本人たちを演じている道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳がこれまた素晴らしい。なんでこんな上手い奴ばかり出てくるの?という感じ。

Mr.Children にエンディング・テーマ曲の打診したら、答えの代わりに桜井和寿が先に作曲してしまったという『記憶の旅人』には「時間の流れを止めて生きてきた」という歌詞があるが、僕はこれは違うと思う(まあ、企画書しかない段階で映画の内容を掴めなくても無理はないが)。

むしろしっとりとした、とても濃厚な時の流れを感じさせる作品だった。アミが使っていた香水の名前がまさにその意味だったというところにも通じている。

隅々までしっかり構成された良い映画だった。終わり方はもう少し工夫のしようがあったのかもしれないが。

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