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Thursday, March 07, 2024

映画『52ヘルツのクジラたち』

【3月7日 記】 映画『52ヘルツのクジラたち』を観てきた。

原作は、読もうかなと思いながら結局読んでいない町田そのこの小説。成島出監督はとても良い監督だとは思う(これまで7本の映画を劇場で観た)が、とりたてて僕の好きなタイプでもない。

結局観たのは杉咲花主演だからかな。僕が彼女の名前を脳裏に刻み込んだのは 2013年の TBS金ドラ『夜行観覧車』。

あれから11年。まだ 26歳だというのに、日本を代表すると言って良い女優になった。

どんな話か全く知らないまま観たのだが、しかし、それにしても暗い話だった。

辛い少女時代を過ごした貴瑚(キコ、杉咲花)が第2、第3の人生を生き直す話だ。

最初は発作的に死のうとしたところを助けてくれた高校時代の同級生・美晴(小野花梨)とその同僚の安吾(志尊淳)に救われて。

映画はその後の、彼女にとっての第3の人生の初めから描かれるので、その間に何があったのかは、もう少し見進めて回想シーンから知ることになる。

観ていて初めは少し混乱するが、巧い構成だと思った。

映画の冒頭は大工がキコの家の見晴台を修理するシーン。そこでキコが東京から大分の、祖母がかつて住んでいた家に越してきたことが語られる。

そして、そこでキコが、母親(西野七瀬)に虐待されて体中傷だらけで言葉を喋ることもできない長髪の少年「52」(桑名桃李)と出会って、彼を引き取るところからストーリーは始まる。

苦しく辛い経験をかいくぐった後、少し幸せになれるかな、というシーンが描かれていても、どこかでいつかこの幸せは破綻するぞ!という予感が絶えない。

それはキコだけではない。詳しくは書かないが、他にも幸せに上手く手が届かない人たちが描かれる。

その描き方は秀逸だと思った。優しいけど、痛々しい。その痛々しさから目を背けてはいけないと言われているような気になる。

長いカットを多用して、緊張感の途切れない芝居が続く。余貴美子や倍賞美津子ら、とんでもない名優たちが脇を固めて、息が抜けない。

室内のシーンでも、外のシーンでも、高い位置にカメラを据えた画作りが目立つ。その引き方、寄り方──相馬大輔のカメラが素晴らしい。

最後に突堤での印象的なシーンがあって、しかし、この後のエピローグの作り方は難しいぞ、と思って見ていたら、見事な終わり方にまとめられており、大いに感心した。

とても良い映画だった。西野七瀬がアイドルを脱して立派な女優になってきているのも嬉しかった。

パンフレットを読んでみて、この映画がどれほど綿密な準備を重ねて、スタッフとキャストのどれほど大きな熱量に支えられて作られたのかがよく分かった。この映画は是非ともパンフレットを買って読むべき作品だと思う。

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