『テレビ局再編』根岸豊明(書評)
【2月4日 記】 僕は放送局員としての最後の十余年をテレビとインターネットの結合に心血を注いできたつもりだ。この本はそんな僕の同志が書いたのかもしれないと思って読んだのだが、「なーんだ、”あっち側”の人か」とがっかりした──というのが偽らざる感想である。
読み始めてすぐに、テレビと YouTube(著者はこれを「ユーチューブ」と仮名書きにしている)が提携し始めたことに関して
いまでもあれは、「トロイの木馬」ではなかったかと思うことがある。
という記述にぶつかってげっそりした。所詮はそういう見方しかできない人か…。
NHKプラスの開始に関しても
私たち民放は、NHKが行うネット事業に危機感を募らせ、こう批判した。
といった表現がある。ああ、そっち側の陣営の人ね、という感じである。
結局、携帯ユーザーたちが求めていたものは、携帯でテレビを視ることではなく、ネットを通じて世界とつながることだった。(中略)その変化に対する感性が、私たち関係者にはなかった。それゆえに「NOTTV」はうまくいかなかったのだろうと今にして思う。
などとも書いている。所詮はその程度の御仁なのである。そのくせ当時は自らを「デジタル・マフィア」などと称してカッコつけていた一味なのである。
(日テレの)氏家会長の考えに私たちは全く納得していた。
とか、亡くなった安倍首相について
ここに衷心より哀悼の意を表したい。
とか、そんなことここに書く必要があるんかいな、とムカッ腹が立ってきた。
何しろこの著書の最後の言葉が「テレビは終わらない」である。結局あんたの言いたいことはそれかい、と唾棄したくなる。
まあ、でも、そんな輩がこんな本を書くぐらいにならないと、業界は動かないんだろうな、とは思う。そういう意味では歓迎すべき本ではある。
ちなみに、この本はタイトルである「テレビ局再編」をいきなり論じていない。それを論じるための前提として、21世紀初頭からのテレビ界の流れを長々と整理している。同じ業界で働いていた僕にとっては、知らない情報はほとんどなかったが、業界外の人がこの問題を論ずるためにまず読む本としては役に立つのではないだろうか。
もちろん彼は、それもこれも全て、テレビが永遠に不滅であることを、まるで引退時の長嶋茂雄よろしく高らかに謳うために書き綴ってきたのだろうけれど、ま、それでも資料的価値はあると思う。
再編についての考察には新味はない。が、そんなもんかもしれんという気もする。
そういう本である。
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