回顧:2023年鑑賞邦画
【12月28日 記】 昨日観た『PERFECT DAYS』を最後に、今年はもう劇場には行かないだろうから、恒例の
『キネマ旬報ベストテン』の 20位以内に入ってほしい邦画 10本
を選んでみた。今回で 18回目である。
毎年書いているように、これは僕が選んだ今年のベストテンでもなければ、決して「映画賞の上位に入るであろう邦画 10本」でもない。あくまで僕が応援する 10本であり、予想ではなくて僕の思い入れの強さを表すものである。
これは他の映画賞ではなく「キネ旬の」、10位以内ではなく「20位以内に」、「入るだろう」ではなく「入ってほしい」 10本なのである。
だから、例えば『怪物』や『PERFECT DAYS』は、僕自身とても良い映画だったと思っているし、多分キネ旬ベストテンには入って来る(ひょっとしたら1位かもしれない)と思っているが、しかし、僕はこの2本を外してでも他の映画を推したいのである。
さて、今年は映画館で 59本の邦画を観たのだが、去年ネット上の試写会で観た『異端の純愛』が結局今年の公開となったので、これを含めて 60本の中から選ぶことにした。
とりあえず、例年通り、本数を考えずに年初から観た順番に考察し、選んで行った。途中まではこれは最初から 10本ぐらいにうまく収まるかもと思ったのだが、今年終盤に観た作品が次々に外せなくなって、結局以下の 17本になってしまった。こんなに絞りきれなかったのは初めてではないかな。
さて、どれを削るか? まずは、『ケイコ 目を澄ませて』は前年度のキネ旬第1位の作品なので、僕がここで推しても何の意味もないので除外する。
それから今泉力哉監督作品が2本になっているので、『ちひろさん』を捨てて『アンダーカレント』を残すことにする。
その先どれを捨てるか却々決めきれなかったので、逆にどうしても外せないのはどれかと考えたら、『水は海に向かって流れる』、『君は放課後インソムニア』、『アンダーカレント』、『キリエのうた』、『春画先生』、『愛にイナズマ』、『隣人X 疑惑の彼女』、『MY (K)NIGHT』、『市子』の9本が残ったので、そこに1本足して以下の 10本とした。
- 水は海に向かって流れる
- 君は放課後インソムニア
- 1秒先の彼
- アンダーカレント
- キリエのうた
- 春画先生
- 愛にイナズマ
- 隣人X 疑惑の彼女
- MY (K)NIGHT
- 市子
毎年書いているが、これは僕が観た順であって、評価の高い順番ではない。
ここには、「必ずしも多くの人たちに高く評価されることはないかもしれないが、ひょっとしたらキネ旬なら選んでくれるかもしれない。どうか選ばれますように」という僕の希いが込められている。
それぞれについて少しだけ書くと、
1)は変わった設定の映画。大体僕は変わった設定の、変わった奴が出てくる物語が好きだ。ありきたりの言葉なのにとっても良い台詞がたくさんあった。多く出てくる水絡みのシーンがタイトルとうまく調和して、ノイズのあしらい方もとても良かった。前田哲って意外に手練手管の監督だったんだなと、最近つくづく思う。
2)はタイトルはひどいが、心洗われる青春ドラマ。"『大豆田とわ子と三人の元夫』の"と紹介されていた池田千尋監督が、今後は"『君は放課後インソムニア』の池田千尋" と書いてもらえたらいいなと思った。高橋泉の脚本と主演の森七菜がうまく噛み合った作品。
3)は何と言っても山下敦弘 + 宮藤官九郎という組合せの妙である。台湾映画のリメイクであるが、まさにこの2人ならではの、楽しい寄り道だらけの映画になっていた。この個性の強い両雄のどちらが勝るでもなく、見事に親和した、とても素敵なファンタジーだった。
4)は前述の通り今泉力哉監督だが、今回は澤井香織との共同脚本で、それが抜群に良かった。監督の撮り方にも少し新機軸を感じた。真木よう子、井浦新の主演2人も素晴らしかったが、共演の康すおんとリリー・フランキーが強烈な異彩を放っていた。
5)はもうアイナ・ジ・エンドに尽きる。なんと強い響き! なんと切ない声! なんと美しいシーン。久しぶりに見た岩井俊二作品だが、長尺にもかかわらず全く飽きることなく、最後まで圧倒された。祈りのような映画だった。
6)はこれまた久しぶりの塩田明彦監督であるが、変な映画だった。そして、その変さ加減が愛おしくなる、まさに塩田明彦テーストの、塩田明彦の真骨頂と呼ぶべき作品である。本当に性の世界は深遠である!北香那はよく演じたと思う。
7)は石井裕也監督の何とも奇天烈な映画だった。でも、僕は何度も笑った。深刻な外れ者同士の会話がめちゃくちゃおかしい。そしてそんな外れ者への愛がある。まさにそのテーマの真摯さと笑いのギャップこそが石井裕也なのである。松岡茉優をはじめ、よくこれだけの役者を揃えたと思う。
8)は宇宙からの侵略者を描いた SF映画かと思いきや、実は地球人の浅はかさをあぶり出しにするような映画だった。熊澤尚人監督が原作をかなり書き換えたらしいが、それが狙い通りに奏功しているのではないだろうか。上野樹里、林遣都、酒向芳が好演。余韻が深く、後口も良い映画。
9)は THE RAMPAGE from EXILE TRIBE のアイドル映画と侮るなかれ。3人の物語が交互に織りなされて行く構成が本当に見事。これこそ中川龍太郎監督・脚本の力量である。横浜という都市の華麗さと猥雑さを巧みに物語に取り込んでいる。
10)は戸田彬弘という僕には馴染みのない監督だったが、観て良かった。アイナ・ジ・エンドの『キリエのうた』に対して、こちらは杉咲花の魅力溢れるパフォーマンスに尽きる。関西弁も見事だったが、何よりも演技の緩急のつけ方が只者ではない。深くて痛々しくて愛おしい映画だった。
さて、このうちの何本がキネ旬の 20位以内に選ばれるだろうか? 今回は大きく外れそうな気もするが…。
いずれにしても、2月頭に結果が発表されたら総括記事を書く。
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