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Friday, November 03, 2023

『ヒトラーはなぜ戦争を始めることができたのか』ベンジャミン・カーター・ヘット(書評)

1103日 記】 前にこのブログに書いたように、この本を読み始めたのは訳者が僕の会社の同期の寺西のぶ子さんだったからだ。

彼女からの誘いを受けて彼女が登壇したトーク・ショーも聴きに行くことになり、できればそのイベント本番までに読了したかったのだが、そこから半月以上かかってしまった。

なんと言っても 500ページに迫る大著である。しかも、それほど易しい内容でもない。とてもしんどい読書体験だった。読んでいる最中に何度寝落ちしたか分からない(笑)

この本は同じ著者による3部作の第2部に当たるのだそうで、最後の第3部はまだ執筆中らしいのだが、前作『ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか』(これも寺西のぶ子訳、僕は読んでいない)は、読んだ人によると、描かれている地域が我々のよく知らないドイツに限られていて、登場する人物もテーマも非常に限られたものであって、今作以上に読むのがしんどかったとのことである。

それに対してこの本ではドイツだけではなく、ドイツと敵対したイギリスやアメリカ、フランスのみならず、ドイツに征服されたチェコやポーランドのほか、ドイツの同盟国であったイタリアなどもところどころで扱われ(舞台はあくまでヨーロッパに限られていたので、日本についてはほとんど触れられていない)、チェンバレン、チャーチル、ローズヴェルト、ムッソリーニなど、僕らが歴史の授業で習うなどして多少は知っている人物が結構出てくる。その分、前作よりは遥かに読みやすいのだということは僕にも察しがつく。

加えて、この本は決して学術研究書のような書き方はせずに、各章の最初に当時の時代背景が分かるような、言わばエピソード的な記事を並べて、読者の興味を惹き、かつ読者の理解を助ける構成にしてある。

筆者はヒトラーやドイツ政府の首脳、あるいは軍人たち、そしてイギリスをはじめとする各国政府首脳の残した手紙や日記、議事録、演説の記録などを徹底的に調べて読み解き、それらを総合してまるで時代小説のような世界をこの本の中に展開している。

だから、面白いのである。学校の歴史の授業では全然習わなかった全く知らなかったことや想像もしなかったことが、まるで目の前で現実に起きているかのように書いてあって、本当に面白いのである。

しかし、その一方で「こんなに長く書かないといけなかったのか!?」という気もしないではない(笑) そもそも登場人物が多すぎて憶えきれず、途中で誰が誰だったか分からなくなったりもする。

寺西のぶ子はよくまあそれらに耐えて、地道に訳し切ったものだと改めて感心した。

この本の監修を務めて、当日のイベントにも登壇した神戸大学の衣笠太朗氏は、この本について、「学術書と読み物の橋渡しになる」みたいなことを言っていた。

確かにそう思う。まさにその中間を行く面白さがある。しんどさに耐えられるなら是非読んでみれば良い本だと思う(笑)

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