『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』
【6月6日 記】 CD で音源を手に入れるのは、何が何でも CD で保持したいものだけにして、できるだけ買うのはやめておこうと思っているのに、また買ってしまった。
いや、その表現は違うか。久しぶりに何が何でも CD で持っておきたい音源を見つけてしまったのである。それは2枚組の『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』である。
大滝詠一をアルバム『A LONG VACATION』で初めて知ったという人も少なくないだろう。もし『A LONG VACATION』しか知らなかったら、このアルバムを聴いて「なんじゃ、こりゃ?」と思うかもしれない。
僕ははっぴいえんどの頃から聴いている年寄りである。そして『A LONG VACATION』を初めて聴いた時には、逆に「この人はこんなメロディアスな曲を作れるのか!」と驚いたのである。
もちろん彼がアメリカと日本のポップスに関して該博な知識と洗練されたセンスを持っていることは知っていた。でも、はっぴいえんど時代の彼からはこんなポップな歌が次々と出てくるとは想像もつかなかったのである。
はっぴいえんど時代の大滝詠一はとにかく変な曲を書く人だった。くにゃっとした変な曲をくにゃっとした変な唱法で歌う人だった。メロディがどっちに行くのか分からなかった。コード進行がというか、そもそもキーがよく分からなかったりもした。
でも、細野晴臣と最初に会った頃の大滝詠一はかなりメロディアスなものが好きで聴いていた(確かビージーズとかだったと思う)という話を後から読んで知った。あの頃の大滝は多分細野の影響を受けて一生懸命ロックに、しかも新しいロックに寄せて曲作りをしていたのだろう。
そして、はっぴいえんどが解散した後、大滝詠一はものすごく面白い方向に振り始めた。ジョークやパロディに満ち溢れた、さまざまな音楽的要素をまぜこぜにした作品を連発したのである(伊藤銀次は「それでは売れないのではないかと心配した」と言っている)。
僕はこの頃の大滝が一番好きだった。一番好きなアルバムは『NIAGARA MOON』で、それは今でも変わらない。
そして、まさにその頃のコンセプトに沿って収集されたのがこのアルバムなのである。
ノベルティ・ソングという分類は、僕はこのアルバムで初めて知ったのだが、ひとことで言うと「滑稽な持ち味の歌」という意味らしく、それはおかしな歌詞で笑わせる「コミック・ソング」(これは和製英語らしい)も含むようだが、それだけではない。歌詞で遊ぶ歌と音で遊ぶ歌との総称である。
この「音で遊ぶ」というコンセプトこそがまさに大瀧詠一(作曲家としてはこちらの字になる)の真髄だと僕は思っている。
ひとつの曲にロックンロールとラテンと日本民謡がごちゃまぜになったリズムが展開される。オマージュとしてパロディとして、他の作品からたくさんのコラージュが唐突にインサートされる(この辺りは後の奥田民生に通じている)。
三木鶏郎の冗談音楽や、クレイジー・キャッツ、トニー谷、キングトーンズなどの再評価に関して大滝詠一は大きな役割を果たしてきた。僕も彼をきっかけにして聴き直し、新たに CD を求めたりもした。
そういう大滝詠一の真骨頂がここにある。改めて聴くと、クレージー・キャッツのレコーディングで萩原哲晶が自由自在に遊んだ要素を全部分かっていたのは大滝詠一ぐらいじゃないのかな、と思う。
この CD において大滝詠一が遊んでいる要素を僕は多分半分も読み取れてない。いや、半分どころか1割、2割かもしれない。でも、それでも面白いのである。めちゃくちゃ面白いのである。
僕はアルバム『LET'S ONDO AGAIN』も持っているので一部の曲は重複している。しかし、それでもこのアルバムは持っておく価値がある。
そしてその中では、大滝詠一とモンスター(シャネルズの変名)の『ピンクレディー』やうなずきトリオの『うなずきマーチ』、金沢明子の『イエローサブマリン音頭』なども面白いが、やっぱり LET'S ONDO AGAIN が白眉だと思う。基本的に曲自体の仕上がりが良いのである。
このアルバムには2つのバージョンの LET'S ONDO AGAIN が収められている。さあ、大滝詠一の音頭をもう一度(笑)
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