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Thursday, June 29, 2023

映画『大名倒産』

【6月29日 記】 映画『大名倒産』を観てきた。このところ良作を量産している前田哲監督目当てで行ったのだが、最初のほうのシーンでは子役は下手だし台詞は滑ってるし、演技/演出もまた滑ってるしで、どうなることかと思った。

『武士の家計簿』、『殿、利息でござる!』、『決算!忠臣蔵』のような経済モノ時代劇コメディみたいな線かと思ったそうではなかった。時代考証をしっかりした時代劇を作るつもりはないらしい。僕は時代小説はほとんど読まないので浅田次郎もまた読んだことがないのだが、原作もこんなテーストなんだろうか?

見ていてこれでは志村けんのバカ殿ではないかと思ったが、見ているうちにこれは制作しているうちにバカ殿になってしまったのではなく、どうやら最初からバカ殿に近い線を狙った作品なのだとあきらめた。

そう、あれだ。別にコメディではない漫画やアニメの途中で一部コメディっぽくする演出で、突然描かれていたキャラが手抜きになって、顔も体も丸っこい三頭身ぐらいになって、目も✗印なんかで済まされる、あの演出に近い。

そう思ってあきらめて見ていたら少し慣れてきた(笑) しかし、もうちょっと違う作り方があったんじゃないかなと思う。丑尾健太郎って結構良い作品をたくさん書いている脚本家なんだけどな。

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Tuesday, June 27, 2023

映画『君は放課後インソムニア』

【6月27日 記】 映画『君は放課後インソムニア』を観てきた。僕はタイトルとしてはこれはひどいと思うのだが、原作の漫画の通りらしいから仕方がない。

北野武や是枝裕和など海外で何度も賞を獲っているような監督は別として、最近の映画の予告編では誰が監督なのかアピールしない構成になっていることがほとんどだと思う。ところがこの映画は珍しく監督が池田千尋であることをはっきりと打ち出していた。

そしてその際のフレーズが "『大豆田とわ子と三人の元夫』の池田千尋" だったのが強く印象に残っている。

僕も『大豆田~』は観ていて、めちゃくちゃ面白かったし、全回であったかどうかは定かでないが演出に池田千尋の名前があったのも記憶している。そうか、あの番組なら引きも強いし、テレビしか見ない客を映画館に引っ張って来られるかもしれないなあ、と大いに納得した。

ちなみに僕が彼女の名前を憶えたのは『クリーピー 偽りの隣人』での黒沢清監督との共同脚本だった。その後、彼女が監督した『火星の人』を観て、脚本家としては『Red』と『空に住む』も観ている。

その池田と今回組んだのは、僕がべらぼうに巧いと思っている脚本家の高橋泉で、この2人がどういう風にひとつの台本を作り上げたのかは定かではない(結構役者に自由にやらせたという記事もある)が、結果として驚くほど素晴らしいものになっていたと思う。

台詞回しもさることながら、曲伊咲(まがり・いさき、森七菜)が同級生の中見丸太(なかみ・がんた、奥平大兼)に「今日来る?」と訊いて丸太が「どうしよっかな」と言った時の、台詞は何もないのだが伊咲が何とも言えない感じで体をくねらせたシーン(パンフ内にスチルが載っている)では、台本には一体どういう風に書かれていたのだろうと気になって仕方がない。

ああいうシーンを見ていると、池田監督の演出も良いのかもしれないが、やはり森七菜は若いけれど天才的に巧いし、特にこういう天真爛漫な役はぴったりだと思う。

森七菜は原作漫画を読んでおり、この役は絶対自分がやりたいと思っていたとのことだが、それだけではなく。原作者のオジロマコトは初めて森七菜の写真を見た瞬間に「伊咲だ!」と思い、「この役を彼女がやってくれたらいいな」と言っていたというから、まさに相思相愛である。

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Monday, June 26, 2023

a couple of はどれくらいの幅の数値を表す表現なのか?

【6月26日 記】 久しぶりに英語を学び直しているといろいろな事例にぶつかる。

例えば a couple of という表現。日本人は大体 couple という単語を一組の恋人たち、つまり2人を表す言葉だと思っているから、a couple of を 厳密に 「2つの」という意味だと思ってしまう。

ところが実際に米国人と話していると、a couple of months ago が3~4ヶ月も前のことだったというようなことがよくある。

要するにいつの間にかこの表現がいい加減になっちゃっているんだな、ということは分かるのだが、一体どのくらいまでいい加減に言って良いのか自信が持てない。

そんなときにたまたま手にした Practice Makes Perfect English Conversation という本(と言うか実体は PDF である)に詳しく書いてあるのを見つけて非常にすっきりした。

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Sunday, June 25, 2023

映画『怪物』

【6月25日 記】 映画『怪物』を観てきた。是枝裕和監督、坂元裕二脚本。──僕にとっては予想外の組合せだった。果たして、この2人は前からお互いにお互いの作品を評価していたんだろうか?と思った。

そこにもうひとり加えても良い。プロデューサーの川村元気を含めて、この3人はお互いにお互いを評価していたんだろうか?と。

しかし、パンフレットを読むと、是枝監督は以前から「もし自分で脚本を書かずに、誰かと組んで映画を作るなら、坂元さんしかない」と言っていたのだそうである。これは意外だった。是枝がその理由を「当然のことだけれど、坂元さんみたいな脚本は自分には書けないから」と説明していて、それは納得できる。

是枝より5歳年少の坂元裕二もまた『海よりもまだ深く』をはじめとする是枝作品が好きで、それらから脚本家として学んだことがたくさんあると言っている。そして、その2人に企画をもちかけたのが川村元気だったのだそうだ。

また、これもパンフを読んで知ったのだが、テレビドラマ評論で有名な早稲田大学の岡室美奈子教授が随分前から「ふたりの作品に同質の匂いをかぎ取って」おり、2017年にはこの2人のトークショーを企画して実現していたのだそうだ。うーん、僕は逆に異質なものしかかぎ取っていなかった。これは意外であった。

さて、実際に観た僕の感想としては、端的に言って、感動したとかどうとか言う前に、むしろ「よく考えたなあ」という感じのほうが強かった。

ただ確かに、これが是枝監督でなかったら、そして近藤龍人撮影監督でなかったら、もうちょっと浮ついた、下世話なものになっていたかもしれない。

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Saturday, June 24, 2023

『ホワイトノイズ』ドン・デリーロ(書評)

【6月24日 記】 心が倦んでくると重厚長大な小説が読みたくなる。そんなときに僕が選ぶのが例えばドン・デリーロだ。

僕が最初に読んだのは彼がその名を一躍世界に知られるようになった『アンダーワールド』だった。上下巻ともに 600ページを超える大著であるだけでなく、その難解で、しかし、深いところで訴えてくる何かに頭がクラクラした。

その後遡って『マオII』を読み、『アンダーワールド』後の長編『ボディ・アーティスト』、『コズモポリス』、『墜ちてゆく男』、そして短編集である『天使エスメラルダ 9つの物語』も読んだ。

今回読んだ『ホワイトノイズ』はそのどれよりも古く、彼がアメリカで初めて一般に知られるようになった小説である。それが去年の暮れに都甲幸治らによって再度翻訳され出版されたのである。そして、この本もご多分に漏れず二段組で 300ページを超えている。彼の本は却々 Kindle化されないので、仕方なく紙の本を買って読んだ。

この小説もまたべらぼうな小説である。主人公はジャック・グラッドニー。ヒトラー学を教える大学教授である。彼は4人目にして5番目の妻であるバベット(バーバ)とそれぞれの連れ子合計4人と暮らしていて、それ以外にもお互いの別れた相手に引き取られた子供が何人かいる。

目次の次のページで【主な登場人物】を読んだときには、誰が誰の結婚相手で、誰が誰と誰の子供なのか、あまりに入り組んでいて、果たしてこれは読んでいてついて行けるだろうかと心配になったが、別れた配偶者たちはともかく、4人の子どもたちはそれぞれにキャラクターがしっかりと描かれており、小説を進めるためにそれぞれが違った役割を担っており、意外にするすると読み進めた。

その他には、同じ大学の客員教授であり、ジャックの親友とも言える存在として、エルヴィス・プレスリー研究者のマーレイや、常に他人から身を隠していてまさに神出鬼没の神経科学研究者ウィニー、そしてまるで放浪者のようなバーバの実父ヴァーノン・ニックなども登場するが、約100ページ続く第一部「波動」はほとんどグラッドニー家の中の話である。

ここではジャックとバーバ、そして同居する4人の子どもたちのうちの年かさ3人(ハインリッヒ、デニーズ、ステフィ)との会話が延々続く(末のワイルダーはまだあまり言葉を喋る年齢に達していない)。読んでいても果たしてこれに何かの意味があるんだろうかと思うような、途方もない会話を延々と読まされるのである。

そう、この小説はまさに議論小説であるとも言える。登場人物同士が脈絡もなく延々とあーでもないこーでもないと言い合っている。

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Wednesday, June 21, 2023

バッテリ考・機器考

【6月21日 記】 僕のカバンの中にはスマホ用のモバイル・バッテリが常に入っているのだが、考えてみれば長らく出先で使ったことがない。そう言えばパソコンも、家の中でこのところ電源コードを外して使うことが多いのだが、バッテリが切れそうになって慌てるような事態になったことがない。

これはバッテリの性能が上がったのか、それとも機器の電気使用効率が上がったのか…。両方かもしれない。

なんであれありがたいことで、もうあまりビクビクしながら使う必要がない。

なんてことを書いていると、昔はそもそもインターネットに繋ぐのにモデムなんてものを使っており、しかも従量課金だったので、「あ、もう10円落ちた。あ、また 10円落ちた」などとビクビク、ハラハラしながら画面を見ていたものだ。

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Monday, June 19, 2023

富田望生

【6月19日 記】 富田望生という女優がいる。名前はミウと読む。2000年2月25日生まれ、まだ 23歳だ。

僕が初めて彼女を見たのは映画『ソロモンの偽証』(宮部みゆき原作、成島出監督、2015年)だったが、これがデビュー作とは知らなかった。

ある雪深い朝、主人公の藤野涼子(藤野涼子──彼女もこれがデビュー作で役名をそのまま芸名にした)が同級生の柏木が校舎脇の雪の中で死んでいるのを発見する。それは事故ではなく不良の大出(清水尋也)が殺したのだという嘘の告発状を送ったのが三宅樹里(石井杏奈)と浅井松子で、この松子を演じたのが富田望生だった。

可愛いけれどニキビに悩む樹里や優等生で裕福な家庭の娘である涼子とは違って、松子は極めて庶民的な家庭に育ったちょっと太めの、コンプレックスいっぱいで友だちの少ない女の子である。その役柄は結構強烈だったので印象に残っている。

ちなみに同じ小説が今度は WOWOW で 2021年にドラマ化されたが、ここでも富田望生が同じ松子役を演じたので、その印象はますます強くなった。ちなみにこの時の藤野涼子役は上白石萌歌、三宅樹里役は山本舞香だった。

僕は映画版で富田望生を初めて見た時に、印象は強かったがあくまでこういう特殊な役柄を演じただけであって、そのうちに消えてしまうだろうと思った。

ところがその後、彼女はちょっと太めの女の子役で、次々と映画やテレビに出始めたのである。考えてみればクラスに(あるいは近所に)ひとりぐらいはこういう太めで気立てが良くてちょっとトロい感じの女の子はいるもので、そういう役柄では他に人材がいなかったこともあって引っ張りだこになったと言える。

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Sunday, June 18, 2023

お薬の間隔についての素朴な疑問

【6月18日 記】 小学生のころからずっと疑問に思っていることがある。── 医者からもらう薬は大体毎食後1回ずつだが、あれは等間隔でなくて大丈夫なのだろうか?という疑問、と言うか、それが心配でならないのである。

仮に朝食が 7:30、昼食が 12:00、夕食が 19:00 だとしたら、朝と昼の間隔が 4時間半、昼と夜の間隔が 7時間、夜と翌朝の間隔が 12時間半である。こんなにアンバランスで良いのだろうか?

もし、朝飲んだ薬が昼までしか効かないのであれば、同じ薬を昼食後に飲むわけだから、それは夕食の 2~3時間前に切れているということだ。

それとも逆に昼飲んだ薬が夕食まで効くとしたら、朝も同じ薬を飲んでいるわけだからお昼から 2~3時間は倍の量の薬が効いていることになる。

よく「薬は用法と用量を守って」などという注意書きがあるが、その通りにやっていたらこんな歪なことになってしまう。それで体は大丈夫なんだろうか?

「いやいや、ウチは朝の 6時にはもうご飯を食べ始めてるよ」とか、「会社の近所の飯屋はすぐに満員になるので、昼食はいつも 12:30 を過ぎてからですよ」とか、「毎日残業だから 20時より前に晩飯なんか食ったことないぜ」とか、人それぞれに食事の時間は違うだろうが、それに合せて時間を前後にずらして計算しても、やっぱり朝と昼の間隔が短く、昼と夜の間隔が長くなってしまう人がほとんどではないだろうか?

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Friday, June 16, 2023

映画『M3GAN ミーガン』

【6月16日 記】 映画『M3GAN ミーガン』を観てきた。

映画館で初めて予告編を見たときには震え上がるほど怖かったが、本編を見始めるとそれほど怖くはない。多分霊とか呪いとかではなくて、あくまで機械の暴走だからなんだろうなと思う。

自分も同乗していた車の事故で両親を失った9歳のケイディを叔母のジェマが引き取る。ジェマはおもちゃメーカー・ファンキ社の研究開発員である。トラウマから抜けられないケイディに、ジェマは開発途中で頓挫していた AIロボット M3GAN(ミーガン)を完成して彼女に与える。

ミーガンはケイディを見事にケアし、ケイディも次第に回復して行く。一方ファンキ社内でもその画期的な発明が評価され商品化が承認された。ところが、過剰にケイディを守ろうとするミーガンが暴走して…という話である。

これを単なる SF として見ると、如何にも設定に無理がある。いくらなんでも、あんな短期間で、ひとりっきりで、しかも自宅であれほど精巧なロボットを作れるはずがないし、その後どんどんコントロールできなくなるという展開にも確たる説得力がない。

しかし、まあ、それは観客を怖がらせるための便宜的なお膳立てに過ぎない。あとは特撮の威力で観客を恐怖の奈落に突き落とせば良いだけだ。

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Wednesday, June 14, 2023

『黄色い家』川上未映子(書評)

【6月14日 記】 最後まで読んで、よくまあこんな本を書いたなあと思った。──などと言うと、一体どんな波乱万丈の物語なのだろう?と思われるかもしれないが、逆である。

話はそれなりにうねりながら進み行くのだが、それほど派手なことは起きないし、終盤に仰天するような展開があるわけでもない。

冒頭は 2020年、惣菜店に勤める花が、「黃美子さん」が逮捕されたというニュースを見た場面から始まり、そこから 20年前の回想に飛ぶ。

母と2人で風呂なしトイレ共同の文化住宅で貧しい暮らしをしていた 15歳の花は、ある日突然家に泊まりに来た黄美子さんに好感を持ち、後に彼女にばったり出会った時に突然決意して、母を捨て、家を出て、彼女に着いて行く。

そこから花と黄美子さんの共同生活が始まり、やがて2人は「れもん」という名のバーを構える。そこに蘭と桃子という花と同年代の、やはりそれぞれに訳アリの少女たちも加わり、やがて4人で暮らすようになるが、火事で店が焼けてからは食うに困り、やがて花を中心に、彼女たちは違法な稼ぎに手を染めて行く。

花は黄美子さんの影響で風水を知り、そしてのめり込む。黄色が金運を呼び込むカラーと聞いて家の中(西側)に祭壇めいた棚を作り、黄色いグッズを集め始める。

タイトルの「黄色い家」はここから来ているのだが、僕は読んでいて「これでは黃信号の家ではないか」と思った。

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テレビとネットの統合広告指標と「考える社員」

【6月14日 記】 テレビCM とインターネット広告の統合指標を作る必要があるというような記事を読むと果たしてそうだろうかと思う。

確かにテレビは遅れてきた。世帯視聴率という“目の粗い”単一の指標でいつまでも押しすぎた感が強い。それはひとえに「面倒くさいことはしたくない」という怠惰な思いと「このままでも大丈夫」という勘違いと奢りの裏返しだったと思う。

しかし、それではダメだと漸く気づいて、テレビも遅まきながらデータの拡充を図ってきた。それでインターネット広告にほんの少しだけ近づいたのは確かだ。でも、その2つは統合できるのだろうか?

近年は何かにつけて「万能の解」を求める人が増えているという。僕の周りでも「これだけ読んでおけば良いというオススメの本は?」とか「とにかくこれだけ覚えておけば大丈夫というコツを教えてほしい」みたいなことを言う人が増えていて困っている、というような話を時々聞く。

だが、人生に万能の解などあるはずがない。万能の解を求めるのが人生の目的なのではなく、次から次へと襲いかかってくる多種多様な問題を倦むことなく順に解き続けるのが人生の旅なのだ。

僕らの若い頃だと、一番偉いのは万能の解を知っている奴ではなく(もとよりそんな人はいなかったわけだが)、どんな予想外の事態に面しても個別にちゃんと対処できる人物だった。

もし、インターネットとテレビの統合指標ができれば、マーケターはそりゃあ楽になるだろう。共通のベース上で数字を見比べて、「こっちのほうが高いからこっち」と単純に決めればそれで済むからである。

でも、本当にそれで良いのだろうか? そもそもインターネット広告とテレビCM では広告の質も効果も大いに違うはずである。それぞれの媒体にそれぞれの特性が存在するはずである。それを単純に並べて比較することは、果たして広告(の効果)というものをしっかり把握する助けになるんだろうか?

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Sunday, June 11, 2023

映画『水は海に向かって流れる』

【6月11日 記】 映画『水は海に向かって流れる』を観てきた。

前田哲という監督は、いざ観てしまえばそこそこ面白いのだが、さりとてどうしても観たいかと言われるとそうでもないと言うか、このところ多作であることもあって、僕はわりと“小ぶりな”監督という印象を抱いていた。ところが、この2~3作で俄然目が離せなくなってきた。いずれも非常に出来が良いのである。

この映画は田島列島の漫画が原作。原作については僕は全く知らない。

乱暴に分類するなら恋愛ドラマである。恋愛ドラマと言うと急に軽く見てしまう人(特に男性)がいるが、恋愛は多くの人の人生の中で重大事案である。このドラマで描かれているのは逆に恋愛できない女性であり、そこには過去のトラウマが絡んでいる。

舞台は玄関前にトーテンポールがあるシェアハウス。古い日本家屋である。

その場所が通学する高校から近いので、そこに住む叔父・歌川茂道(高良健吾)を頼って熊沢直達(大西利空)が引っ越してくる。ただ、直達は叔父が今ではカクレニゲミチというペンネームの漫画家になっていることも、そこがシェアハウスであることも知らず、てっきりサラリーマンの叔父の自宅だと思っていた。

雨の日に駅に着いた直達を迎えに来たのが同じシェアハウスに住んで時々料理を振る舞ってくれる榊千紗(広瀬すず)だった。

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Thursday, June 08, 2023

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』

【6月8日 記】 映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を観てきた。

原作は荒木飛呂彦の大ヒット長編漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンアウト作品。後に NHK でドラマ化もされている。今回はその NHKドラマの劇場版である。

僕はいずれも観て(読んで)いないので、普段はこういう映画は観ない(観ても分からないんじゃないかと思うから)のだが、似たような条件で観たにも関わらずしきりと褒めている知人がいて、少し気になって観に行った次第。

一応観る前に岸辺露伴は人気漫画家で、人間の心の中や記憶を書物に変えて読むことができ、そこに書き込むこともできるという特殊能力の持ち主であることだけは予習しておいたのだが、それは冒頭の骨董屋のシーンで一気にさらっと説明してくれた。

岸辺露伴に扮した高橋一生がかなり作った、と言うか芝居がかった喋り方をしている。そのお供役の編集者・泉京香役の飯豊まりえが軽くてバカっぽい喋り方でコントラストをつけている。超能力の岸辺に対しておバカな免疫力とでも言うべき京香が面白い。

その2人が、とある日本人画家が描いたこの世で最も黒い絵を求めてルーヴル美術館に行く話である。

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Tuesday, June 06, 2023

『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』

【6月6日 記】 CD で音源を手に入れるのは、何が何でも CD で保持したいものだけにして、できるだけ買うのはやめておこうと思っているのに、また買ってしまった。

いや、その表現は違うか。久しぶりに何が何でも CD で持っておきたい音源を見つけてしまったのである。それは2枚組の『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』である。

大滝詠一をアルバム『A LONG VACATION』で初めて知ったという人も少なくないだろう。もし『A LONG VACATION』しか知らなかったら、このアルバムを聴いて「なんじゃ、こりゃ?」と思うかもしれない。

僕ははっぴいえんどの頃から聴いている年寄りである。そして『A LONG VACATION』を初めて聴いた時には、逆に「この人はこんなメロディアスな曲を作れるのか!」と驚いたのである。

もちろん彼がアメリカと日本のポップスに関して該博な知識と洗練されたセンスを持っていることは知っていた。でも、はっぴいえんど時代の彼からはこんなポップな歌が次々と出てくるとは想像もつかなかったのである。

はっぴいえんど時代の大滝詠一はとにかく変な曲を書く人だった。くにゃっとした変な曲をくにゃっとした変な唱法で歌う人だった。メロディがどっちに行くのか分からなかった。コード進行がというか、そもそもキーがよく分からなかったりもした。

でも、細野晴臣と最初に会った頃の大滝詠一はかなりメロディアスなものが好きで聴いていた(確かビージーズとかだったと思う)という話を後から読んで知った。あの頃の大滝は多分細野の影響を受けて一生懸命ロックに、しかも新しいロックに寄せて曲作りをしていたのだろう。

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Monday, June 05, 2023

Netflix & Amazon Prime 鑑賞記録

【6月5日 記】 どこまで行ってもあくまで自分のための備忘録なのだけれど、久しぶりにリストを更新してアップしておきます。

今観ているのは Netflix では『メイドの手帖』と『スイート・トゥース』。後者は夫婦で観ています。

Amazon は第1話を見逃した『魔法使いの嫁』 season 2 以外はちょっと休止中で、たまにローリング・ストーンズの古いライブ観たりしてました。

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Saturday, June 03, 2023

映画『渇水』

【6月3日 記】 映画『渇水』を観てきた。企画プロデュースに白石和彌の名がある。

監督は高橋正弥。この人の監督作品を観るのは初めてだが、彼が助監督としてクレジットされている映画は今までに 12本観てきた。うち2本が根岸吉太郎、2本が宮藤官九郎、1本が相米慎二監督。

今どきあまり描かれることが少なくなった貧困を扱った作品だ。それもそのはずで原作は 1990年の芥川賞候補作なのだそうだ。

主人公は前橋市(だったかな?)の水道局職員の岩切(生田斗真)。後輩の木田(磯村勇斗)と組んで、各家庭を回って未払いの水道料金を取り立てる仕事をしている。4か月以上滞納し全く払う気のない家については水道を止めることになる。

ただでさえお金がなくて困っている家のライフラインを止めてしまうわけだから、止める側にも葛藤はあるし、同僚の中には自己嫌悪に苛まれて仕事を続けられない者も出てくる。

僕は子供の頃に昼間から雨戸を締めて静かにしていろと父親に言われたこともあるし、その何日か後に学習机を含む家中のいろんなものに差し押さえの札を貼られたこともあるが、電気や水道を止められたことはない。

僕の場合は係官が学習机の裏側の見えないところに差し押さえの札を貼ってくれた。差し押さえでさえそれくらいの気は使うのである。水を止めるとなると最悪死んでしまう可能性もあるので、相当なプレッシャーはあって不思議ではない。

おまけに岩切は、子供の頃に父親からまともな愛情を与えられず折り合いが悪かったために、自分の息子に対して一体どう接すれば良いのかが分からない。そんなことが発端となって、妻の和美(尾野真千子)は息子を連れて実家に帰ってしまい、彼は自炊して花に水やりをして仕事にでかけ、毎日誰もいない家に帰る暮らしである。

水を止められるほうは失業中の中年男(宮藤官九郎)や全然売れなくなった傘屋の老主人(吉澤健)、そして、幼い娘2人(山崎七海、柚穂)を抱えたシングルマザーの小出(門脇麦)ら。岩切と木田は決して非情な態度で杓子定規に水道を止めたりしない。彼らも悩みながらやっているのだ。

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